「生き返った、その理由(わけ)は」
電撃の
目を逸らすことができるわけがなかった。
そこにいたのは、この場に絶対にいるはずがない人物だったからだ。
自分と同じ細い金色の髪を伸ばした、自分と全く同じ顔立ちをした
上半身には地味なシャツを着、
なによりも、
「メ……メリリリア姉さん……!!」
細かく
彼女は、東の森妖精の里における王族、その
そして同時に、ティターニャ――いや、本名であるティータの双子の姉――。
「どうして……どうしてここに姉さんが!?」
「決まっているでしょう、あなたを追ってきたのよ」
ティターニャの口元が震えた。その目が大きく揺れた。
「追ってきた……どうして……。姉さんは私を追放したはず……里に裏切り者は置いておけない……そもそもが過去に追放した者を戻すわけにもいかない……そういって、三週間も前に……」
一度追放した者を、追う理由。ティターニャが思いついたのは、ひとつの理由しかなかった。
「わ……私を殺すために……?」
骨の
「わ……私を里で処刑すれば、森の
「ここに来ればあなたに会えると思っていたわ、ティータ」
「里から出たあなたをすぐ追ったけれど、足取りは
「だから待っていたの。私が着いたのは今さっきだけれど……よかった、間に合って……」
「そ、そう……姉さんが……そう……」
止めようのない怯えの中で、ティターニャの口から笑いが
「……え、ええ……そうね、姉さんに殺されるなら、本望だわ……。里に帰りたいなんて無理をいって
ティターニャは砂に手を着き、ゆっくりと体を起こした。
脚を折って浜に座ったままその上体を大きく前に
「姉さん、こんな妹でごめんなさい……。森の王族の品位を
「――あなたは、さっきからなにをいっているの?」
震えるティターニャの怯えが、
ざく、と砂を
「姉さん……?」
ティターニャがわずかに顔を上げる。息を飲んで双子の姉妹の成り行きを見守っている大人たち、子供たち――合わせて四百人は下らない
人々の
「島の
メリリリアが砂の浜に
「どうか、どうか私の妹であるティータを、
「メッ…………!!」
エルフの青年が腰を落としたまま手を
「メリリリア様っ!! エ……エルフの女王ともあろう
「デザ、あなたは
頭を
「ここに控えるティータは私の双子の妹! 元は私と同じエルフの王女として生まれましたが、私の里にある王族の双子を
子供たちがきょとんとしている後ろで、大人たちの顔には
それは、他人に話しても信じてもらえない事だったろう。一国の王が目の前で
「それも全て、私の
「姉、さん……」
ティターニャは、涙まみれに訴える姉の姿に、それ以上の声を
「妹が闇に染まったのは私の責任、私の罪です!! 妹に責任はありません!! そんな
前髪が
「やめてぇ……メリリリア姉さん、なんでそんなことするの……やめてよ……私一人が死ねばすむことなんだからぁ…………!!」
「――ティータ!!」
砂浜にへばりつく姉を起こそうとティターニャが手をその肩に触れようとするが、それはメリリリアの腕によって払われた。
「あなたは自分がどうして生き返ってきたか、まだわかっていないの!?」
「私が、どうして生き返ってきたか……? そんなの、わからない……わかるはずがない……! 私は
「わかっているわ!!」
「あなたは、私を救うために生き返ったのよ!!」
ティターニャの心から、感情の全てが
「私は、ずっと
「ね、え、さん……」
「ティータ、もう一度、双子の姉妹としてやり直させて……。あなたの姉らしい私でいさせて……そのためなら、私は、女王の座なんて
「――そこまで!」
第三者のような声が、
「そこまでです。お二人とも、お顔を上げてください」
小柄な姿が砂を
ティターニャは、涙に
青に近い
「――フィルフィナ……」
「お久しぶりです、ティターニャ……いいえ、ティータさん」
フィルフィナは、自分を殺し、自分が殺した相手に
わだかまりのひとかけらすら見えない、真実に優しい微笑みだった。
「あなたがここに向かっているのは、メリリリア様――メリリリアから聞いていました。よくあんな小船で大海を渡り、この島にたどり着けて……。あなたがこの島に
「フィルフィナ、いいえ、フィルフィナ様、私は……」
「わたしは様などつけられる立場ではありません。呼び捨てで結構です、ティータ。ああ、もう、髪も
フィルフィナはスカートが
「メリリリアも体を起こしてください。あなたたちの訴え、
「もちろんだよ、フィル」
ニコル様、ニコル様、という声がさざ波のように広がる中、
「ようこそ、メージェ島へ。ようこそ、アーダディス騎士王国へ。僕が国王のニコルです。僕は、国王の名においてお二人を正式な国民と認め、歓迎の意を
それを目にする者、全ての心に
「この島において、過去は意味を持ちません。仲間たちと手を取り合い、仲間たちのために
二人の肩を支えるようにして上体を起こさせ、ニコルは砂を飛ばさないように静かに立ち上がり、振り向いた。その先に、種族も年齢もバラバラの四百人の島民たちがいた。
「聞いたとおりだ! 僕はこの二人を正式に国民と
「さあ、ティータ。わたしが肩を支えます。まずはその
「フィル、妹のことは、私が」
「メリリリアは反対の方をお願いします。わたしはこのティータを支えたいのです」
「はい――」
「うっ……ひっく……うう、うううう…………!」
二人のエルフに支えられ声を上げて泣くティターニャが、砂浜を離れて行く。状況の全てが終わったのを見届けた大人たちも、
そんな光景を、
「……ニコル様……」
「エヴァ、助かったよ。君が先に駆けつけてくれて。少し
「お
「あはは。びっくりしたよ、実際。その姿を二度と目にすることはないと思っていたから」
「本当に……穴を
顔を帽子に
「エヴァせんせ、もうすぐおひるだよ。ぼくたちおなかすいた。いっぱいおおごえだしたから」
エヴァが去るまでこの砂浜から一人も離れようとはしない子供たちが、母と
「ニコルおにいちゃんおうさま、あたしたちがんばった。みんなまもったよ」
「ああ、みんな……君たちも本当にがんばったね……」
歯を見せて笑う子供たち、子供たち、子供たち――ニコルは
「この島は、きっといい国になるよ……。エヴァのような優しいお母さんがいて、君たちのような強い子供たちがいる……。僕は
「じゃあニコルにいちゃん、ごほーび! ごほーびちょうだい!」
「いいことしたらごほーびもらえる。ほうりつにそうかいてる?」
「よーし。特別にヴァッシュに乗せてあげるよ! ヴァッシュに乗りたい人、手をあげてみて!」
「はぁ――――――――い!!」
「うわあ、みんなじゃないか」
子供たちの全員が両手を
「さ、さあ、ご飯を用意しますね! みんな手伝って! 手伝わない子はご飯抜きですからね!」
エヴァが子供たちをそっと押し、歩く方向を定め、浜から離れさせる。子供たちが取り残されることなく浜を去るのを見送るために一人浜に残ったニコルは、海を渡ってきた強い風にふと、振り返った。
「――――あ」
「……これでいいのか。いいんだよね……」
最後の微笑みを残し、ニコルもその浜を後にした。
するべき事は、山のようにあったからだ。
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