「救いを乞うもの」
ジャゴ
全速力で
「ヴァッシュ! 危ないよ! もう少し速度を落として!」
ニコルが望む以上の速度を出し、
「王都ではロシュ、島ではヴァシュムートと乗り分けているからですよ。どちらも相手に負けまいとがんばってしまうのです。――どちらか片方にした方がいいのではないですか?」
ニコルの背中にしがみつくフィルフィナは、ヴァシュムートが駆ける
「ロシュは戦場に出せるような馬じゃないよ。ヴァシュムートは生まれついての
海の青が
「その
「話には聞いていましたが、たどり着けるかどうか
「ああ……なにが起こるかわからない! ヴァッシュ、人にぶつからないように急いで!」
任せろ、と
「ティターニャ……彼女が、本当にこの島に来るなんて……!」
◇ ◇ ◇
大海原の真ん中に位置し、最も近い陸地からも
その外れであるはずの一角が今、島で最も騒がしい場所となっていた。
砂浜の波打ち際には
船の形をしているだけ
少し海に知識がある者であれば、これに乗って大陸間を渡れと命じられれば、
その船から一人分の
集落への
「お願いします! お願いします! どうか、どうか領主様にお取り次ぎを! この通り、お願いいたします! この身を
美しいほどに輝く金色の細い髪が、黄金の
その体型だけであれば、普通の
紫に近い、深い深い、
色自体は魔族の肌のそれと
人間より神に一段階近い存在とされた
その特異な性的な
元は貴い者であったという
ほとんどボロ切れと変わらない服を身にまとい、
「私はこの島に落ち着きたいのです! なんでもいたします! 力仕事も、
必死の
「できるわけないだろうが!」
遠巻きにはするが、近づく度胸はない群衆たちの中で、一人例外のように前に出る影があった。
「ティターニャ……その名前、よく知ってるぞ!」
青年に見えるが、種族の特性上その実年齢は伺えない、この島においてたった一人のエルフの男が前に出、ティターニャと名を告げたダークエルフの髪をつかんで乱暴に引っ張り上げた。
「その名前を知らない者がこの島にいないとでも思ってたのか!? 俺はな、お前の双子の姉君が女王を
顔を砂に汚した女の顔が
「貴様、ヴィザード一世の手先になって働いていただろう! 自分の大それた
「私は、世界を
その
「地上を、世界を焼いた光を呼んだのは自分の
その言葉を聞いて、この場で
「私は心を入れ替えました! もう二度と悪さはいたしません! お
「心を入れ替えた、だと!? 二度と悪さはしないだと!?」
エルフの青年のこめかみが震えて跳ねた。白い顔に怒りの
「あれだけのことをやっておきながら、よくも俺たちの前に顔を出せたものだ、この
「あうう……!」
髪を引っつかみ、エルフの青年はティターニャの体を砂浜に引きずった。浜にへばりつこうとし続けるティターニャが、
「お前が乗ってきたボロ船、あれで島から出て二度と寄りつくな! 戻ってきたら殺すぞ!」
「もう、帆も破れ、水も食料もないのです……ここから追い出されたら、私は海の上で死ぬしかありません……どうか、どうか
「んなことはわかってるんだよ。この島でお前を
「…………!」
ケガレ、という響きがティターニャの顔を、髪を引きちぎられようとする
「死ね、海の上で死ね。なるべく島から遠ざかるんだぞ。
「ああうっ!」
逆らいはしないが、同時に
――が、しかし。
「俺たちが生き返ったのも、リルル様が世界を再生してくださったからだ! だがな、そのためにリルル様は永遠に眠る身になったんだよ! 一生目覚めないんだったら死んだも同じだろ! お前はリルル様を殺したんだ! 領主のニコル様に会わせるまでもない! 俺が
「すみません……すみません……! どうか、どうかお許しを、お許しを……!!」
「誰がお前に
同意を求めて青年が
「おい! どうした! こいつは俺たちの敵なんだぞ! 俺たちは一人残らずこいつに殺されたんだ!
反応は鈍い。誰もが口を閉ざし、考えていることは大差はなかった。確かに自分たちは一人残らず殺されたが――同時に、一人残らず生き返っている。
その複雑な事情が全員を
「まあ、いい! 立て――ほら、立てよ! 船に乗せて押し出してやる!」
エルフの青年は足元に人の脚の長さほどはある
「立てっていってるだろうが! いうことを聞かないやつはな、こいつで……!」
興奮が血を熱くし、暴力の歯止めを解除する。『カッと』なったエルフの青年が振り上げた廃材がそのささくれ立った切断面を天に向け、周囲の息を飲ませた。
◇ ◇ ◇
「ニコル様!」
砂を蹴散らしてヴァシュムートの速度を殺してその体を停止させたニコルは、ヴァシュムートの背中という高位を取って、ざわめく人の
黒い戦馬の上で立ち上がるようにしたフィルフィナが、廃材で殴りかかろうとしている青年の姿に声を上げた。
「いくらなんでもあれは! 早く止め――」
「いや」
群衆を
「彼女が来てくれている。ここは彼女に任せよう」
「彼女――」
冷静なニコルの反応に、フィルフィナは視線を現場に向け直した。
白い影が
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