「運命の漂着者」
メージェ島
「なー、ジャゴ爺さんさー」
「なんじゃい」
集落から少しは大きな村の印象を持ち始めた島は、新たに増える二百人の人数を住まわせるための建物造りで
動ける島民は
そんな
「早く俺にも馬の世話の仕方を教えておくれよ」
「馬の散歩も立派な世話のひとつじゃろうが。ワシがなにかをしている時は集中して見ていろ。馬を引いて歩くのにだっていちいちコツがある。馬には心があって、気持ちがあるんだ。こちらの思った方向に
「コツ、ねぇ」
「特に、こいつは
手綱を握って引いている馬をジャゴ爺さんは
「まあ、その馬はオレも
「馬丁が馬を
黒い巨馬――戦馬ヴァシュムート、愛称をヴァッシュと名付けられた馬の首にジャゴ爺さんは手を触れ、目を細めた。
「お前が生き返ってくれてよかった……取り返しの付かないことが、取り返しがついたわけだからな……。ワシの馬丁人生に大きな
「ニコル陛下の愛馬なんだろ、この馬。オレも二度くらい、あの陛下がこの馬に乗ってるのを見たけれど」
第四次の移民として二週間前にやって来た猫獣人の若者・キリッシュは、おおよそ王様という印象からは遠い少年の姿を思い浮かべた。誰に対しても腰が低くて
「ニコルは王都でワシが開いていた貸し馬屋で
「下働き? あの陛下って、元は貴族かなんかじゃないのか?」
「お前はなにも知らんのか。まあ、その辺りは後でおいおいと教えてやろうとして……お」
「いいですか、あなたたち!」
集落の奥にある王の住まいであり
「あなたたちは読み、書き、
「ったく、相変わらず元気な先生じゃな」
島の学校となっているその建物の中では、五十人ほどの子供たちが席に着き、張りのある声を上げている一人の
「それでは、午前の勉強はここまで! あとはお昼まで外に出て遊びなさい! あなたたちの仕事はよく学び、よく遊び、よく食べることです! 仲間外れを作らないように! 危ない遊びしないよう、お互い注意しなさい! 特に年長者! 弟たちの面倒を見るように!」
「はぁい、先生!」
「おー、いうとることが半世紀前と変わっとらんな。よくあの一本調子で今まで……」
「ジャゴ!!」
「ひいっ」
老夫人教師から発せられた言葉の銃弾が、窓を
「あなたはまだ外から授業をはやし立てる
「メ、メーチェル先生」
「は? どうなってんの?」
「逃げるぞキリッシュ、あの先生はワシの小学校の時の
「ええ? あの婆さんが?」
「待ちなさいジャゴ!! また廊下で立つ
「ワ、ワシはもう小僧じゃないぞ。キリッシュ、逃げるぞ。ついてこい」
「とんだ
背中に突き刺さろうと飛んでくる金切り声から逃れるようにしてジャゴ爺さんは学校から離れる。その後を
「まったく、ニコルもえらい婆さんを引き取ったもんだ。王都で
「ああ、俺と同じに来たあの腰が曲がった婆さんがあの教師なのか。船の中ではヨボヨボだったのに、メガネかけて教壇に立ってると別人だなあ?」
「昔の血が
南に向かって逃げていたジャゴ爺さんは、前方からの異変に気づいた。少し遠くなった耳にも、浜辺の方から人々が騒ぐ声が聞こえてくる。建設途中の小屋の仕上げにかかっていた人々も同じく
集落の
そんな中、浜辺に走る人の流れに逆らうようにして集落の方に走ってくる一人の犬獣人の姿があった。ジャゴ爺さんはそれを
「おい、どうした。そんなに
「い、一大事なんだ、一大事なんだよ! ニコル様に、陛下に伝えなきゃ!」
「一大事じゃわからん。わかるようにいえ」
「あ、あの浜辺に小船が
「小船だと?」
「ああ。俺もちらと見たけど、ボロ船だ。そ、その小船に乗っていたのが――」
いち早く伝えようと異様な早口でまくし立てるがために、逆にその意がわかりにくい若者の
「そりゃ、いかん。ニコルに早く伝えないと」
「ニ、ニコル様は今、どこにいらっしゃるんだよ……は、肺がつって、
「ニコルは第五次の移民を
「なんとかってどうすんだよ! 爺さん!!」
「なんとかだ!」
キリッシュの体を浜の方に押しやり、ジャゴ爺さんはヴァシュムートの
「ヴァシュムート、
ぶるるる、と鼻を鳴らしたヴァシュムートが百八十度反転する。黒い巨体がその大きさからは想像できない
「やれやれ、お客は移民だけじゃなかったか……。しかし、とんでもない
通りの真ん中をヴァシュムートが走る。
「この島は人間から
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