「恋人たちの事情」
――王都の正午。
北から南に流れて都市を東西に
その上に築かれた公園では、
春の
「う、う、う、う――――ぶるぶるぶる!」
堤防に
「さ、さささ、寒いよ、シーファ」
羽毛をまとっている体を羽根が付いている腕で自ら抱きしめ、その上から厚手のマントを
「なんでこんな寒い日に、こんな寒い場所で人待ちしているのさぁ?」
「ここを待ち合わせ場所に指定されたからだ。仕方ない」
「ってそもそも誰と待ち合わせしてるの? なんのための待ち合わせなの!?」
「それはどれもわからない」
「なにさそりゃあ!?」
「ただ、政府の関係者のお呼び出しらしい。こんな場所を選んだ理由はわからないでもないな。
「見渡す限り誰もいないからねぇ!? あー、もう、地下新聞に書くネタがなくなって仕事ないのは楽でいいけどさぁ、仕事なさ過ぎるのもそれはそれで気分良くないなぁ」
「ネタがないのに新聞は発行できないからな。それに暮らしの方は心配ない。ちゃんと
「ホント、書くこと少なくなったなぁー」
エルカリナ王国政府――特に王都の各区域を
「新しい国王になってから
「そのうちあたしたち
「失業については心配してない」
シーファはいった。
「多分、この待ち合わせは、そのことについてだと思う……」
「ふへ?」
大運河を中型の輸送船が左から右に
体を
コートで着ぶくれた人間の男がひとり、ひょっこりと堤防に上がり、どこか
「あたしたち以外にも
のんきに構えていたメイリアは次の瞬間、
「なになに、あんたちょっと
「メイリア、やめろ」
シーファは動じずにいった。
「待ち合わせの相手だ」
「んひゃあっ?」
「そうだよ、
毛糸の帽子を脱いで男は
「あ……あなたは…………!!」
「そうだよ。僕が政府の関係者さ」
丸顔の男――国王コナス一世は、
「へ? 誰?」
「馬鹿! お前は国王の顔も知らないのか! それでも新聞記者か!」
「ええっ!? このおっさんが国王陛下!?」
「わははは」
おっさん、という
「寒い所に呼び出してすまなかったね。じゃあ早速本題と行くよ。我が王国では近々、
コナスは自分の言葉通り、本当に早速本題に入っていた。
「その前段階として、亜人を
コナスは懐からそこそこ分厚い書類を取り出し、ペラペラとめくり始めた。
「君は人間とラミアの間に生まれた身らしいが。
「……私の生まれまで、
「うちの
「ああ、確か……あなたはその時……。私とメイリアは見た、あなたの
「ははは。お恥ずかしいところを見られちゃったね。変な話ではあるが、ははは――と、まあ手早くぶっちゃけると、その優秀な諜報部をさらに優秀にしてほしいのさ。今は
「私たちに、
「仕事は新聞記者みたいなものだ。情報を
「――そして、私が持つ人脈も利用したいと……」
「君は亜人の
「なにもかもお見通しっていうことか。少し
「僕はこの国をより良くしたい。今までの国王たちは亜人の力を利用するためその存在を
「…………」
メイリアが不安な視線を送る中、シーファは
凍てついた風が空気を切り
「少し、考えさせてくれ……一日だけ、時間が欲しい……」
「返事はどういう形でくれるのかな?」
「明日、この時間のこの場所で……そちらの
「まあなんとかなるかな。こちらも無理な相談に乗ってもらっているんだ。それくらいの都合はつけさせてもらうよ――ではシーファ嬢、メイリア嬢、いい返事を期待しているよ」
コナスは毛糸の帽子を再び被ると、体型に似合わぬ軽快な足取りで堤防を降りていった。
「就職のご案内だったな……」
「シーファ、どうするのさ? なんかの
「私たちふたりを
シーファは立ち上がった。これ以上ここにいる理由もなかった。
「外からこの街を
「えええ……政府の
「
「ああああ、待って待ってシーファ、あたしを置いてかないでよ」
堤防を下りだしたシーファを追って、メイリアも
一度、二度とつまずいて転びそうになっている愛すべき
「
◇ ◇ ◇
冬の陽が西に大きく
「さぁ、暗くなる前に下書きだけでもやっちゃおう」
「ウィル、寒くない?
「いいわ。私、寒いのは平気よ。それに暖房代も安くないしね」
「そうそう、
「なにいってるの。生意気な
ミーネが真正面にした
「早く仕上げて、夕飯にしなくちゃ」
「急がなくてもいいわ。遅くなっても
「だーめ。ウィルに奢られ
「ミーネ、その話なんだけど」
緑の長く豊かな髪が白い背中を
「
帆布の上に木炭で線を引き、当たりをつけていたミーネの手が、止まった。
「それくらいのお金はいくらでも
「だーめ」
ミーネは、
「ウィル、忘れないで。あたしたちは対等な同居人なの。ウィルに全部お金を出してもらったら、あたし、ただのウィルの
「ミーネ……」
「それにあたし、
「――私、この部屋、好きよ」
「こんなボロアパートが? エルフの女王様なのに?」
「この狭い部屋が好き」
ウィルウィナは、膝小僧に乗せた顔を
「画材の
「……やぁだ、その
「うふふ」
そして、二人は
「ウィル、前から気になっていたんだけど……」
「なぁに?」
部屋の照明が
「どうしてあたしなの? 自分でいうのもなんだけど、あたし、そんなに
「――
「瞳?」
ミーネが
「あなたが初めて私に声をかけてくれた時、絵の題材になってほしいっていって
ウィルウィナの目が細められた。過去を
「私はたくさん恋をした。その相手のみんなが綺麗な目をしていた……。綺麗な目は、時間が
「やぁだ。生きてる間に目だけ取られそう」
「目以外も、好き」
「やめてったら。まだ早いし」
再び素描が始まる。白い帆布の上で、ウィルウィナの陰影が形となって再現されていく。
「……ミーネ、私、あなたにいっていなかったことがあるわ……」
「ウィル?」
「私ね、結構若作りしているから、そうは見えないかも知れないけれど……。エルフとしてもそろそろ、お
ミーネの手が、止まった。
寝台と帆布を往復していた目が止まり、寝台の上で表情を
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