「眠り姫と五百人の小人たち」
ひとつひとつは小さい物だ。生まれたての赤ん坊くらいの大きさで、二頭身の体形に色つきの髪、目鼻口、服と
それが無数の
空いているのは、テーブル周りと出入口、寝室につながる動線くらいのものだった。
どれもこれもが、
「――眠るお嬢様を寂しがらせないように、と、自分の
「忘れた」
ニコルはそういって微笑んだ。
「これならぬいぐるみ屋が開けるよ。フィル、ここにいくつあるか、
「していません。数えるのは
「――この部屋だけで、三百六十五体です」
ロシュが一瞬で数えてみせる。誰もその数が
「これだけあるのに、ひとつとして同じものがないというのは、手作りの成せる技、というべきなのかな。おっと、ここに王都警備騎士団がまとめられているね」
天井から吊り下げられた二段の棚に、五十体のぬいぐるみが座らされているのを見上げてコナスはいった。
それらが占める棚には、小さな横断幕が
「わはははははは、
「コナス様。王都警備騎士団を復活させていただいて、ありがとうございます」
腹を
「あそこも僕の
「いやあ、だってあれだよ。快傑令嬢といったら、それを追っかけて返り
「その警備騎士団の一同の皆様がそろってお嬢様のお
「どっちにもならなくてホッとしたよ、僕は」
「わはははは」
その時のニコルやフィルフィナの
「ははは。しかしこのぬいぐるみの山は、リルルちゃんの交友関係を表してもいるわけか。僕の知らないリルルちゃんの顔、というべきかな」
「この辺りはリルルが
「これは島の子供たちかな。人間と
「そちらは東の平民の住宅区域、僕が生まれ育った街の仲間たちです」
「では、幼なじみということになるのか。だからリルルちゃんに
「それについては、このメイドの教育不足によるところが大きいかと」
「いやいや。人間も亜人も魔族も全く分け
「リルルはコナス様を、信頼できる
「そんなこともあったねぇ、忘れてた。いやあ、婚約が成立しなくて本当によかったよ」
「それではコナス様、お嬢様にお顔を……」
「ああ」
ぬいぐるみたちの列に見守られるように、フィルフィナを先頭にして四人は寝室の
返事はない。
それが四人に
◇ ◇ ◇
寝室もまた居間と同じように、大量のぬいぐるみに
天井から吊り棚がいくつも
部屋の真ん中、やや扉よりには、寝台を直接見せないための
「ああ、ここもぬいぐるみでいっぱいか。少しばかり余裕があるくらいだねぇ」
「本当は全部この寝室ひとつで収めたかったのですが、無理でした。わたしがお嬢様をお世話するための空間も確保しなければなりませんし……」
「
居間よりも少し狭い寝室、衝立からはみ出している部屋の光景だけでもかなりの数のぬいぐるみがあふれていた。
「本当に、リルルはたくさんの人に愛されています。島のみんなならラシェット先輩、アリーシャ先輩、エヴァ、ジャゴ爺さん、
ニコルは視線を棚から棚に転じた。
「こっちの棚は王都にいる方々……ウィルウィナ様、クィルクィナ、スィルスィナ、
「これでもまだぬいぐるみを作ってくださっている
「ふむふむ。じゃあ僕も、席が埋まりきらないうちに出してしまおう。えーと」
コナスは背中の
「ああ、この大きいのはコナス様ですね」
ひとつめの白い袋から中身を取り出すと、他のぬいぐるみに比べて二倍は膨らんでいる大きさの、コナスを
「ちょっと大きすぎたかな? これじゃ目立つねぇ」
「いえいえ、コナス様は大人物でございますから、これくらいがちょうどようございます」
「それもそうか。それに僕は
「このお三人は、快傑令嬢リロット同好会の……」
「そうそう。僕の
「そして、最後のひとりは……」
ニコルは、白いマントで身をくるみ、つるりとした白い仮面を顔に
「それが誰かはわかるだろう、ニコル君」
「はい。――カデル・ヴィン・ヴォルテール……」
「ああ…………」
フィルフィナはその名に、細く長い息を
カデル・ヴィン・ヴォルテール。
かつてれっきとしたエルカリナ王位
二百年前の『事件』により、
「今は、コナス様の影となって王国の運営を……」
「ああ。僕は
「そうですか……今は、この仮面を
巨城と巨竜が合わさった
「このマントと仮面、
「いつかは外す時が、外せる時が来るということだろうね。――彼も
「お嬢様は、彼を
ニコルからカデルのぬいぐるみを渡されて、フィルフィナはその頭をひとつ、
「だからこそ、コナス様と一緒によみがえることができたのでしょうね。――そういえば、コナス様、あの
「ああ、あれのことかい」
フィルフィナの
「領地の山奥に
「それがようございましょう」
「今思うと、何故あの母のいいなりになってたのかわからないよ。早くこうしていたらよかった」
「母親は、
「そこを
「当然でございます」
フィルフィナは無い胸を張り、鼻を鳴らして見せた。
「話は
フィルフィナが一歩下がり、コナスは衝立の裏に回った。ニコルとロシュがそれに続く。
衝立で
「やあ、また来たよ、リルルちゃん。ご機嫌いかがかな――」
コナスは満面の笑みを作って、寝台の上でやわらかい枕に頭を沈め、あたたかい布団にくるまれて眠る少女を見下ろした。
胸に四つのぬいぐるみを抱き、その口元に微笑を作っているリルルが、
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