「日常のフォーチュネット邸」
快傑令嬢リロット同好会の定例議会は、軽食をつまみながらの
「ああ、
「どこにでも売ってる揚げ芋じゃねぇか」
「城でいいもん食ってるんだろ? こんなもん、そこらのガキでも
「朝食と夕食は揚げ物どころか肉も出てこないよ。タンパク質と脂肪に
「国王も大変でござるな」
「単に
『探し物屋』の言葉に『本屋』が乗っかる。サン・ド・イッチを
「しっかし、さ」
しばらくまともな会議は期待できないと
「快傑令嬢リロットの正体がリルルちゃんで、快傑令嬢サフィネルの正体がサフィーナお嬢様だったとはなぁ」
「『
「
「おいおい、君たち、そんな大変な思い
名残惜しそうに指に着いた油を
「快傑令嬢リロットの正体は謎のままだよ。無論、快傑令嬢サフィネルもね」
「……とはいっても、あんな大勢の前で派手にお
「世間に向かって
「しかし、それにしてはおかしいなりな」
「そうだろう」
コナスは今朝の新聞を数紙、広げてみせた。
「どこの新聞も、新しい三人目はもちろん、リロットやサフィネルの正体についてまだ謎のままとしているよ」
「……そうなんだよな」
王都の事態が
それを
「『二人の快傑令嬢の正体がわからないのにまた新しいのが増えた』なんて堂々と書かれていて、俺は首を
「リルルちゃんもサフィーナお嬢様も
「
「――みんな、知らなかった、聞かなかったことにしてあげてるんじゃないかな?」
いい加減極まりないコナスの
「快傑令嬢とその仲間たちの
「それに、新聞の記事の内容はたいてい
はははは、と笑い声が響いた。それが
暖を取るために
「リルルちゃんは、まだ目覚めないでござるか……いや、目覚めることがないのでござるな……」
「ということはもう、リロットも現れないということなりな。サフィネルとロシュネールがいるから快傑令嬢自体は活躍はしているなりが、やはり初代にして
「二度ほどね。君たちも足を運んだんだろ?」
「俺たちも二度ほど行った。あんまり
「任せといてくれたまえ。それと君たち、
同好会会長の
「僕たちは快傑令嬢たちを心から愛する同志の集まりだ。だから、快傑令嬢の復活をも心から願うんだ。快傑令嬢は死なないよ。王都がその存在を求める時、きっと彼女はよみがえる。僕はそう信じている。君たちも信じたまえ」
「…………そうだな。リロットは必ずよみがえるよな…………」
「快傑令嬢は永久に不滅でござる」
「その二重表現には
「
「よっしゃ、任せとけ」「
しんみりとし出した空気を吹き飛ばし、同好会の
「それではテーブルの上を片付けて『本業』を始めよう。いやあ、生き返ってきてよかったよ」
◇ ◇ ◇
数時間後、コナスの姿はフォーチュネット邸の
「これは、コナス陛下!」
「そういう君はニコル陛下。やあ、ご
くにゃり、と顔の全部の筋肉を
「その呼び方はよしていただければと……呼ばれる
「気持ちはわかるよ。僕もそうだからさ」
コナスの言葉に、ニコルはつられるように笑った。
「ああ、どうぞ中にお入りに。外は寒かったでしょう」
「僕は寒さには強いんだ。なんせ幅と奥行きが広いからね。では、お
玄関の扉を閉め、ニコルはコナスと肩を並べて
「おっと、そういえば今日の午前、ラミア列車で
「そうですか」
「王国としても補助金は出すよ。夫と息子に先立たされた身だそうでね。だが、上品な御婦人だった。人格的には問題がないはずだと思いたいね」
「まだ、島には空間的な余裕がありますから……島民は倍増しましたが」
「
「あれがないと、島とリルルを同時に見ることができません。……ですが」
「ですが、なんだね?」
「本当に小さな島国であったとしても、僕などが王をやっていていいのでしょうか……?」
「なに、王は細かなことまでほじくるように知らなくていいんだ。
「はい…………」
「君は優秀な
「
「
「はい」
「これくらいかな? では、リルルちゃんの様子を
コナスはリルルの
数秒後、はい、と中からフィルフィナの声がし、扉が開いた。
◇ ◇ ◇
「コナス様、ようこそおいでくださいました」
「
「お嬢様もコナス様のお越しなら、毎日でもお願いしたいところでしょう。お嬢様はコナス様がお
「それは
その言葉に、ニコルとフィルフィナの頭で同時に同じ光景が浮かぶ。光の
「……あんなことができる人物は、そうそういらっしゃいません。コナス様の勇気には、自分も
「なんのなんの。君たちだってリルルちゃんのために命を投げ出したじゃないのかい。別段、僕が特別に
かちゃり、と奥の寝室の扉が開く。いかにもそこらの町娘といった
「やあ、ロシュちゃん。昨夜はご活躍だったみたいだね」
「――なんのことでしょうか?」
「ふむ、いい反応だ。でもまあ、ここではとぼけなくていいよ。ここに
わからないというようにニコルが目を開く。そのニコルを尻目にコナスは視線の向きを変えた。
「フィルフィナ君、昨夜は本当に助かったよ、僕の
「コナス様のご要請をお
「え……え、え、え?」
ニコルが視線を
「要請? 昨夜のサフィネルとロシュネールが出張った事件は、コナス様が……?」
「外国の
「諜報組織?
「誘拐団の皮を被った諜報組織さ、あれは。しかも十数カ国が絡む大規模なものだ。まあ、全て元に回復できたとはいえ
「それを王国の警察組織が直接
「こちらも向こうに間諜を入れているからね。どれだけの諜報能力を持っているかは知られたくないのさ。だから、王国がなかなか
「見事な
「わはは。まあ、捕まえた間諜たちはたっぷり
「はあ……」
「ニコル君。僕は王としては君の後輩だが、人生としてはだいぶ先輩だからね。まあ、色んな技を知っているものさ。君も勉強するといい。君は一直線にガンガン突き進む
「
「……僕は、フィルに寝首を
「まあ、寝首を掻くなどそんな
「わはは、いやはや、フィルフィナ君は面白いねぇ。生前はあまり交流がなかったからどんな人物像か知れなかったが、いやあ、生き返ってみるもんだね」
「お
「この参謀あっての快傑令嬢というわけだね。『快傑令嬢記録・第一弾』には君のことが全然書いてなかった。失礼したかな。まあ、いいか。リロットの正体が謎であれば、その参謀の正体も謎だ。僕はリロットや快傑令嬢たちの活動に興味があるんであって、正体はどうでもいいんだ」
「大変よろしきご
「死ぬほど忙しいよ。あんまり忙しくて、死んだままの方が楽だったと思えるくらいさ。このままでは僕の本業に
「それだけは、それだけはどうかご
「わはははは」
ニコルの本気の
「まあ、内輪の冗談はこれくらいにして、リルルちゃんの寝顔を一瞬、拝見させていただこうかな。しかし、その前に――増えたねぇ」
「ええ、あれから、お客様が
今は主が使わなくなった
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