「新国王の華麗なる午前・その三」
エルカリナ城内に
「おっと、もうこんな時間か」
「申し訳ないが、僕はこれで失礼するよ。今日も大事な仕事があるんでね。みんなはがんばってくれ。よろしく頼むよ」
じゃあね、と手を振る男に
「どんなに
「いや、元々国王陛下が一官僚みたいにこの部屋で書類仕事するっていうのがおかしいんだ」
「大事な仕事か……俺たちには想像もできないんだろうな」
官僚たちはふう、と息を
そんな戦場を後にし、男はいったん自室に戻る。
戻るや
「今日も行くのか」
ノックもなしに国王の
「ああ。副業は終わったんでね。これから本業だ。それはそうと、この格好はどう見える? 国王に見えるかい?」
「立派な
「そりゃよかった。そうそう、法務大臣はどうなったんだい?」
「納得はさせた。多分こちらのいうとおりに動くだろう。お前にしては強引な手段だったな」
「時間がないんでね」
メイドたちが一礼する中、
「あとの面倒臭いことは頼んだよ」
「……私に国王代理人なんぞさせて、不安にならないのか。お前を
「失脚させてくれるのかい? ああ、今からでもお願いするよ。命さえ
「
「人格的にはどうか知らないけれどね。君だって、家格という意味では同じようなものじゃないか。エルカリナ王国国王の座への
「私は
仮面の奥の目が、悲しげに
「私は思い知った。人の上に立つ者に本当に必要なのは、優しさなのだということを。人を
「君も生き返ったということは、
「私が殺した者たちが生き返ったとしても、私がその者たちを殺したという行為そのものの事実は、なかったことにはならない」
「私はこの罪を一生
「――そうか。まあ、早々になかったことにしてしまうよりはいいと思うよ。しかし
「ああ……そうだな……そうでなければ、
白い仮面の男は、手に持っていた包みを男に差し出した。
「
「ああ、これはあれか。――確かに預かったよ。君のことも
「頼んだ……」
男たちは縦に
「なんだ、貴様! そんな緩い格好で王城をうろつくとは怪しい奴! 顔をよく見せ――――こっ、これは国王陛下!? ま、まま、ままま、真に申し訳ありません!」
「ああ、任務ご苦労だねアーステ君。これで三回目かな? いや、いいんだいいんだ、恐縮しなくて。これからも
若い兵士の肩をポンポンと
そのまま、
王城の周囲にはラミア列車の乗り場はない。男はスタスタと南に向かって歩いて
乗り場に作られた列の
「はい、百エル。今日も変わらずお
「毎度ご乗車ありがとうございます」
座席は
ラミア列車は東に向かって走り出す。窓から男は
「もう、すっかり元通りか」
ラミア列車が進む王都の大通り――半月前までここを
焼かれる以前の姿に戻ったそれぞれの
王都は、王国は日常を取り戻していた。今までと変わり
あの
「春か……あと一ヶ月と少し、この寒いのを耐えたら、暖かくなるんだねぇ」
大運河の手前、政庁街最後の駅でラミア列車は停車する。
役所に用があった人々が大勢乗り込んできて全ての席が埋まり、座れなかった客がつり革を握って席と席の間に並び始めた。ぼんやりとその様子を
「やあ、おばあさん。こちらにいらっしゃい。席をお
「ああ、すみませんねぇ、ありがとうございます……本当にご親切なことで……」
腰が曲がってしまっている
「失礼だがおばあさん、そのお
「……夫にも、子供にも早く先立たれましてねぇ。今は
「ですが?」
「いいえ、この先は、
「ふうむ。
「……よくある話ですよ。ですがもう、
「おばあさん。僕の目に
「……こういうのもなんですが、もう私にはお金がなくて、
「ははは、僕は
「ええ、もう、そんな
「それはよかった」
男は
「これをお住まいの
「なんと書いてあるんですかねぇ? 今メガネを
「ああ、目もお悪いのか」
男は文面に『不足している物品の
「これは魔法の切符だ。あなたを幸せにしてくれる。いいね、帰る前に提出するんだよ」
「あなたはどういう方で……?」
「僕はこんな身なりをしているが、実は福祉課の役人なんだ。実地で困っている人がいないかどうかを調査している。運が良かったね、おばあさん。冬の王都は寒くてご
「はぁ……」
首を
数度の
「やれやれ、
太陽が真上に差し掛かった頃、ようやく目的地の最寄りの停車場、
やがて、男はひとつの小さな商店――特になにか売り物を
薄暗い店の中には客の一人もおらず、
男はその前で、立ち止まることも足を
「やあやあ、こんにちは、お邪魔するよ」
声をかけるだけで返事も待たず、店の奥に通じる
広い物置といった感じの部屋には
壁の一面を彩っている無数の貼り紙、そのどれもこれもが、広い
そんな、異様ともいえる
「いやあ、これは国王陛下、こんなむさ苦しい所に
「本日もとてもご
「ささ、陛下、
「あのねぇ」
「もうそのネタは三回目だよ? 同じネタを
「じゃあ
ハンチング
「それにいってるだろう。僕はここでは国王陛下じゃないよ。
「そうでござったな」
「じゃあデブの伯爵、上座に座るなりよ」
「ありがとう」
中肉中背、そして
「いやあ、ここは
「本当に生き返ってんじゃねぇか」
「あの
「今度伯爵が死んだ時は絶対に泣いてやらんなりな」
「まあまあ、そのことはいいじゃないか。――さて、始めようか。『快傑令嬢リロット
エルカリナ王国国王とは世を忍ぶ仮の姿、その正体は『伯爵』という
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