「鼓動の響き、遠くから」
「フィル……フィル……?」
フィルフィナの不安げな表情を前にして、ニコルの
フィルフィナだと見えているのに、フィルフィナだとわからない――。
「ニコル様、しっかり、しっかりなさってください。ニコル様――」
「フィル…………」
ニコルはぼんやりとその名を
自らの内心で考えた。
「――フィルっ!!」
ごつぅんっ!
「うわっ!」
「あいたぁ!」
バネ仕掛けの勢いでニコルの上体が弾かれたように起き上がり、顔をのぞき込んできていたフィルフィナの
「あ、いたた、たた、たた…………フィ――フィル、フィル、大丈夫かい!」
「――――――――」
「フィ――フィル!?」
「…………し……し、し……死ぬかと思いました……」
ニコルに抱き起こされたフィルフィナは、目の裏でチカチカと輝く光を払おうと
「――というか、フィル、死んだんじゃなかったのか! ……いや、
「ニコル――――!!」
地を揺るがすような足音、そして
向いた瞬間に、凄まじい速度と控え目な質量の体当たりを受け、ニコルはその
「ああ、ああ、ニコル! ニコル! 生きていた私のニコル!!」
「サッ……サフィーナさまっ!?」
涙を散らしながら
「もが、ごっ、もがもが、ごごごご」
「ニコル! ニコル! 私の
無限の愛の
「くあ、うわ、うわわ、サ、サフィーナ様! 舌が! 舌が入っています!」
「なにをいうのです! 入れているのです! これでも私の感激は表しきれません!! さあニコル、なにをしているのです! 着ているものを全て
「――サフィーナ、そこまでで」
「えええ……」
ニコルに馬乗りになり、上体の衣服をむしろうとしていたサフィーナを、ようやく頭に誕生した宇宙を払えたフィルフィナがやんわりと押しとどめた。
「そこから先に進むと、さすがに犯罪になります」
「そんな……私たちの愛は
「だめです」
くすん、と泣くサフィーナがフィルフィナによって
「ニコルお兄様!」
ニコルの肩が跳ねた。ニコルをそう呼ぶ者は今の所、ひとりしか思いつかなかったからだ。
ニコルの、フィルフィナの、サフィーナの視線が向く。全員の目が
「ロ……ロシュ……!?」
「ニコルお兄様、無事でしたか!」
背中に
「ロ……ロシュ! あなたは自爆して、バラバラになったはず……!?」
「はい。ですが、この通りロシュは正常です。どこにも異常はありません」
「あ……そういえば……」
ニコルは自分の体を見た。傷だらけになっていた体――特に胸は衣服ごと
「死んだ私たちが生き返るのですから、これくらいはもうなんともないということですか……ロシュが生き返る……いや、元に戻るくらいは、簡単ということかも知れませんね……」
「ニコル、リルルは、リルルはどうしたのです?」
熱情が冷めたサフィーナの冷静な声に、ニコルは思わず頭に手を当てた。
「リルル……」
ここはエルカリナ城の一階。この前の階段で自分たちはフィルフィナを失い、
「それから……リルルは、国王の元に向かい……そのあと……」
四人の心にとくん、と、波打つものが刻まれたのは、この時だった。
体の中心に水滴を落とされ、波紋が広がるような感覚を同時に覚えた。
「――今、聞こえましたか……?」
「えっ……今の、
「錯覚ではありません。波動を感知しました。私には分析できない、未知のものですが」
「ロシュ……それは、やっぱり……」
「はい」
城の階段や入口から、数人の兵士たちがよろよろと現れる。まるで状況が
そんな中でのニコルの確認に、ロシュが
「――リルルは、僕たちの足元、その下深くにいる…………?」
◇ ◇ ◇
ニコルとフィルフィナは、一度下ったことがある
「……だんだん、思い出してきました。お嬢様が、死んでいるわたしたちに
「フィルも? 私の思い込みじゃなかったの? 夢の中で聞こえたような気もしたけれど……」
「私もリルルお姉様の言葉を受信しました。ですが、何故か記録できず……」
「声、じゃなかったからだろうね……きっと……」
「ニコル、フィル、ここが……」
「ええ。『竜の事件』の時に僕とフィルが立ち入った場所です。僕はひとりで訪れましたが……」
「わたしとお嬢様、そしてコナス様と一緒に先行したのです。しかし、ここにもう一度……」
「部屋の中央に進みましょう」
ニコルとフィルフィナの感慨を断ち切るようにロシュが、危険を引き受けるように前に出た。
「ロシュ?」
「来ます」
その言葉と同時に、一枚の大理石でできているかのような、
描かれた、と全員の目が
「これは……」
「
内部の輝きが乗れ、といっている光の昇降機を前にし、ニコルは硬い眼差しを向けて、いった。
「……行こう。リルルが待っている……」
◇ ◇ ◇
遅くない速度の数分の降下の感覚が、自分たちがとんでもない深さに向かっていることを感じさせた。
「もう、数分は
「降下の方向も
いっているうちに減速がかかり、四人の
内臓の位置がずれるような不快感をこらえ、それが
「これは…………!!」
知っているだけの色が強い光となって飛び込んでくる強烈な刺激。目が
「すごい……! 宝石の、きらきらと光るお花畑……!!」
「こ……これが、どこまでも続いているのですか……!?」
先に出たサフィーナとフィルフィナが、まるで宇宙となっている空の暗さを吹き飛ばすほどの強い輝きを放っている、無限とも思える数の宝石が花々の形になって
「さすがにこれは、初めて見る光景だね……あんまりにすごくて、目が
「ニコルお兄様、この道の先に」
昇降機からただ一本、どこまでも広がる宝石の花畑の間に、細い道が伸びている。
まともに歩くことができそうな足場は、それだけ。
ニコルは、それが自分の運命の形そのものに見えて、思わず
「――リルルお姉様の
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