「百聞は一見にしかず、その二」
リルル
ニコルの体が
「あれっ!?」
リルルの声が裏返る中、森の景色が
「ひゃあ――――っ!?」
その裏で女の子の声が
「あ、あれっ!? なに、これえっ!?」
リルルは周りを見渡して、絶句した。
そこは巨大な空間を
リルルの前後左右に四枚、森の絵を描いた広い板がそれぞれにばたんと倒れていた。本物そっくりの
「あああ、せっかくの書き割りが
「エル!?」
大きな板に描かれた城のような絵に、作業用のエプロン姿で色を
「ええっ!? こ、これ、
その頭をつかんで顔をのぞき込んだ、リルルは
「も――! リルル! なにしてるの!」
「それはこっちの
ペンキの
「なんなの、さっきのは! エヴァレーがすっごい悪役で出てきたり全然
「リ、リルル、息が、息ができないの。お願いなの、放してなの」
「……ふん!」
ほとんど投げ捨てるようにして、リルルはエルカリナの小さな体を解放した。
「全然違うって……ちゃんとニコルだったでしょ? 顔と声はもう、全く一緒だったでしょ?」
「顔と声しか合ってない!!」
リルルは
「背が全然違い過ぎる! 本当のニコルは私とそんなに違わないのよ! あのニコルは私よりも頭ひとつ以上高かったわ!! ……いや、問題は外見じゃないのよ!! むしろ中身の方が――」
「わかったの。わかったからそう怒らないで、ね? ね、ね?」
「く…………!」
うるうるとした
「でも、あのまま話を進めていたら、本当に楽しいことだらけだったの。リルルは王子様の恋人になれるし、他に魔界の皇子やエルフの
馬車を部屋の
「……だから! そういうことを! いってるんじゃなくて!!」
「だったら、こっちなんかいいの。だいぶ異世界感あるの。今、用意するの」
「エル! あなた、人の――」
その声は届かなかった。身を乗り出したリルルの
「じゃ、いってらっしゃいなの」
その手のひらのぬくもりだけで
「話を、聞きなさ、い…………」
視界が
◇ ◇ ◇
ジリリリリリリリリリリリリ! 目覚まし時計が鳴った。
「――んあ!」
私は時計を
カーテンの
「ああ……もう朝かぁ……んにゅ…………」
眠気で重い目を
「ふああああああ~~~~あ」
大きなあくびをひとつ。そして、そのままぱったりと布団に倒れ込んだ。
「ううーん……まだまだ余裕……この二度寝がやめられないのよねえ……至福の時……まだ八時だもの……。二度寝した後に
「リルル!」
部屋の外、一階の階段の下からお母さんの声が聞こえてくる。
「もう八時よ! 限界ギリギリよ! 早く起きて来なさい!」
「えええ……」
私は布団に潜り込んだ。カタツムリより丸くなった。
「まだ八時でしょ……学校が始まるのは八時十五分……あと十五分はたっぷり寝られ……あれ?」
ぱちり、と目を開けた。布団を跳ね飛ばし、振り返って時計を見た。
「う」
――始業、十五分前。
「うわあああああああああああああああ!!」
布団を
「わあああああああ!! 髪の毛ぼっさぼさぁ!」
「リルル!」
泣きながら下着姿で一階に下り、
「お母さん! なんで起こしてくれなかったのよぉ!」
「起こしたでしょ、何度も何度も! 人質取った立てこもり犯みたいに布団に
廊下ですれ違った母の声が響いてくる。構わずに私はアップした髪に水をかけ続けた。
「ソフィア!!」
「そんなグズな娘は放っておきな! 一度痛い目を見た方がいいんだよ!!」
「何度痛い目に
「まったく、誰の血のせいでこんな馬鹿な娘になっちゃったんだろうね! あたしゃこんな馬鹿な娘見たことないよ!」
「それは、あたしとお義母さんの血のせいでしょ?」
「…………なら仕方ないね!」
取り敢えず
「廊下を走るんじゃないよ! 床が減る! 階段も減るだろ!」
「もう、ローレル! 朝から怒鳴らないでよー!」
「お
部屋に戻って白いブラウス、
「実質、五分だわ! 門は始業五分前に閉まっちゃうもの! もう
ドタドタドタドタと階段を駆け下り、玄関でローファーを引っかけてた。
「いってきま――むふっ!」
「ほら、パンくらいくわえて行きなさい!」
口の中にジャムとバターを半々で
「あんた! すっぴんじゃないの! いくら女子高生といっても、最低限のお化粧くらいしていきなさい!」
「むぐむぐむぐむぐ!!(私は化粧しなくてもノーメイクで十分なの!)」
「ああ、もうなにいってるか全然わかりゃしない! とにかく行ってきなさい!」
「ま――ふ!」
私は玄関を飛び出した。
青く晴れ渡った空の色に感動する余裕もなく、いつもの道をいつもの
「むぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐ…………わあああああ、遅刻遅刻――――!!」
約二キロメートルを五分で駆け抜けられるか、途中ひとつある国道の信号に引っかかったらそれでアウト――毎朝毎朝の
「わわわ! もうあと三分!?」
腕時計が教えてくれる
「もう学校は見えているっていうのに、正門はぐるっと回らないといけないのよ――!! ああ、これはもう正門からの突破は無理だわ! しょうがない、裏道、裏道よ! 校舎裏の
私は県道を
「裏工作はバッチリよ! ちゃんと足場になるものは置いてあるんだから! リルルちゃんに不可能の文字は――」
「え」
高い塀と塀で見通しが最悪の、小さな十字路、交差点で。
まるで打ち合わせてタイミングをばっちりと合わせたように、でも、突然に。
片手にメモを広げながら歩く――
「あ」
塀の陰から、姿を現した。
「え」
激突する一秒前、見た。
男の子の
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