「百聞は一見にしかず、その一」
「て……転生……?」
「そ」
「なんで飲まないの? わたしが
リルルの返事を待たず、ついでとばかりにエルカリナはリルルのカップを手に取った。
「て、て、て――転生って、なに?」
「そこからなの?」
リルルの前にお茶を満たしたカップを置き、エルカリナは鮮やかな
「リルルの
「はあ…………」
生き死にの話をしているはずなのに、事務処理の話を聞かされている気分になってリルルは、あんぐりと口を開けていた。
「でもそれじゃ、あなた的にもあまり新しい世界に来た! っていう感じはしないの。だから、あなたという
「あ……新しい世界……」
「そうなの」
世界という単位をいとも気軽に扱ってみせるこの幼い女神に、リルルは
「もう他の人がいなくなったこの
「次のは、小さな世界! それでいて、あなたが主人公のとっても楽しい世界にするの!」
「え、え、え?」
身を乗り出したエルカリナがリルルの両手を包むように握る。ぐいぐいと乗り出してくるその好奇心いっぱいの純金色の
「わたし、あなたが
「え、えええ、えええ?」
「まあ、どんな感じか一回お
「ちょ、ちょ、ちょちょちょちょちょ、ちょ!」
「後で感想を聞かせてなの! じゃあ、いってらっしゃいなの!」
「ちょっと待って、私は――」
「あ」
幼い少女の瞳を
「あぅ――――――――」
酒の
◇ ◇ ◇
「リルル! あなたをこのパーティーから追放するわ!」
私は開いた馬車の
「ひゃうあっ!」
大の字になって地面にぶつかった体を
二頭立ての馬車のステップでエヴァレーが腰に両手を当て、
「ええええ――――!?」
「ええええ――――!? じゃないわ、この役立たず! 頭数合わせで
「次の新人は
「無駄な人間を乗せてると馬車の車輪が無駄にチビるのよ」と、取り巻き女その二がいった。
「今まで
「契約中断の
「やだ! それでもこんな森に捨てていくことないでしょ!」
私は周りの暗さにぞっとした。森の木々が別れている地面が少し広い道になっているだけで、ここは森の真ん中。今は馬車の
「せめて次の街まで乗せてって! こんな森
「そんなの知らないわよ。むしろ追い剥ぎに
「そんなのやだぁ!」
「あーもう、ピーピーうるさい! あなたの荷物は
「待ってぇぇぇぇぇぇ!!」
馬車は止まりも速度を
「わあああああああん! ひどい! 次の街までだいぶあるっていうのに、こんなんじゃ死んじゃう! 売り飛ばされちゃう! 食べられちゃうわあああ!!」
森の真ん中で泣き
「せ、戦争もこの近くで始まってるっていうのに、森を抜けたって危ないんだから! というか、エヴァレーったら、少しでも馬車の速度を出したくて私を捨てたんだわ! 鬼! 悪魔! 公爵令嬢!!」
一通り泣き叫び、私は口を閉じた。
真夜中の森に
「と……とにかく、なんとかして街までたどり着かないと……お腹空いたぁ……エヴァレーったら私の夕食を抜きにしたの、これを計画していたからなのね……。
それでも私は立ち上がった。持ち物を確かめてみたが、
「ひもじい、喉渇いた……眠い……エヴァレーたちのばか……私ったら
私は立ち上がって、よろよろと歩き出した。
真夜中だからまだいいものの、明るくなればこのたった一本の細い道をどんな人間が通るかわからない。そのほとんどは悪者に決まってる。近くの村人だって全然信用ならないくらい。
「森を抜けても、街までまだだいぶあったはず……ううう、優しい人が私を拾ってくれないかな……私に親切にしてくれる、とってもいい人……できればカッコいい人がいい……神様、お願いです。このぐずなリルルちゃんに、せめてものお
ドドドドド……と背中から馬の
「きゃあああああっ!」
私は道の
枝が体に刺さるのも構わずに奥に入り込み、両手で口を
ドドドドドドドド……!
「わ、来た……!」
揺れるランプの
走ってくる馬は一頭だけ。その背にマントをなびかせてしがみついている人影が見える。
「へ……兵隊だ……」
私の心臓がきゅっと
あれがどっちの兵隊でも変わらない。はぐれた兵隊が
――神様、お願いです、どうかあの兵隊を、あのまま通り過ぎさせてください――。
「あっ!」
兵隊が
「やあああああああああん!!」
真上から飛び込んできた兵士を
「離して離して! いやあ、乱暴される! あんなこととかこんなこととかされて、そんなこととかどんなこととかもさせられる!!」
「も――申し訳ない、大変失礼しました、
私に馬乗りで抱き着いた兵隊が、身を起こした。近くでもがいている馬の首に取り付けられたランプの光がちょうど当たって、その
「あなたが受け止めてくれなければ、僕は
兵隊、と思ったその男――少年は、いうほど兵隊の
軍服の形に近い立派な服。私より頭ひとつは高そうな、すらっとした長身。明るい金色の髪にいくらか濃い水色の目がランプの光を
「あ――――」
私は
この人は、善人だと。
「僕の名は、ニコル・ヴィン・ゴーダム。この近くに存在する小国、ゴーダム王国の王子です」
「えっ……聞いたことあります。確か、エルカリナ王国の元に人質になっていた……」
私は
「ええ。実は今日の昼、私が
突然、ニコル王子は苦しみ出した。手を首の後ろにやって顔を苦痛に
「ど――どうしました!?」
「く、首の後ろに、僕を
「見せてください!」
私はニコル王子の首の後ろを見た。
「ちょっと待っていて! 私なら、これを外せるかも!」
「まさか、そんなことが……!?」
「私の【縮小】のスキルで、これを
私は王子の首の後ろに両手をかざした。
「ああ! 本当に痛みが、苦痛がなくなった! 信じられない!」
先ほどの苦しみようが嘘のようにニコル王子が顔を輝かせる。私の両手を握って上下に振った。
「フローレシア、あなたは命の
「い、いえ、こんなことくらい、お安い御用です……」
「暗くてよくわからなかったが、ランプの光に照らされるあなたの顔はとても愛らしく、美しい」
「えっ?」
王子が私を茂みから連れ出す。私の片手を取ったまま道を渡り、気絶している馬からランプを外してそれを置き、続いて肩から足首に届くような長いマントを外して地面に
「さあ、フローレシア、こちらに」
「あの」
ニコル王子の足が本当にさりげなく私の足首の
私は自分の背丈ほどもある王子のマントを、シーツにするように横たえさせられる。
「あれ、あれ、あれ?」
私は、
「あなたは私の命を救ってくれただけではなく、本当に素晴らしい女性だ。是非とも僕の妻に
「妻?」
そ、とニコル王子が私の隣に横たわる。手が伸びてきて軽く
「えっと……私、よくわからないんですけど、今からなにを?」
「これは、フローレシアは大変奥ゆかしい方のようだ。お名前は?」
「リ、リルル」
「リリルル? いや、リルル嬢か。リルル嬢、こんなところで大変
「あの……本当に、話の流れがよくわからないんですけれど……」
「なら、今はなにも考えない方がいい。月明かりに照らされた星を数えていなさい。数え終わる頃には、終わっているでしょうから」
ニコル王子が私の
「さあ、今だけは目を閉じて。キスというものは、
「だから、ちょっと――――」
二人の鼻と鼻、
だから、私は。
お腹の空気の全部を使って、
「ちょっと、いい加減にしろっていってるでしょうがあああああっ!!」
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