「騎士と魔界皇子、斬り結ぶ」
左手に海岸を望む白昼の海岸近く。
馬上のニコルとロシュを四方から囲んだ黒い影は、まさしく黒い
ニコルの真正面に立ち上った真っ青な炎もまた、人の形を取り始める――そこに現れた姿が自分の予想通りのものであったこと
に、ニコルは
「よぅ、色男」
背丈はニコルよりもやや高いくらい。青と紫の
「君は……確か……」
「
「はぁぁ!?」
最後の炎の
「
「まあ、色々あってね」
尖塔に
ロシュが見ていたその光景は会話の内容まで記録され、ニコルも見せられている――。
「俺がこんな風に現れてもビビりもしないとか、頭おかしいのか。神経が通ってないのか?」
「不思議なものに関しては色々触れているんだ。ご期待に
「わかんねぇ奴だ……小便チビッて逃げ出すだろうと思っていたのに……あのリルルと同類かよ……」
不意を突いた派手な登場で
「それで、当領地にどういうご用件かな。どうやら
「今まで手前ェを探していたんだよ」
「僕を?」
「そうだ。苦労したぜ。『准騎士ニコル』を探していても全然見つからねぇ。確認し直してみると貴族になったばかりっていうじゃねぇか。一ヶ月も空振りさせやがって」
「僕の責任じゃないと思うけれど、まあ謝っておこうか。それで、僕にどういう用があるんだい?」
「ちょっと
「へぇ……」
その返答は、ニコルに
「リルルに求婚してものの見事にフラれた君がいまさら、リルルになんの用なんだい?」
「殺すぞ!?」
魔界皇子が腰の剣を抜き放った。体つきに比べて大ぶりな刀。切っ先に向けて刃が厚みを増す、かなり肉厚な刃だ。
「手前ェ、なんでそこまで色々と知ってるんだ! まるであの場にいたみたいじゃねぇか!」
「君に詳しく説明する必要は感じないな。まあ動機だけは知っておきたい。どうぞ」
「……いちいち調子外しやがって……このクソガキが……」
魔界皇子は頭を
「……用件は簡単な話だ。リルルの前にボコボコにしたお前を連れて行く。そしてお前に自分はダージェ様に負けました、僕はリルルを
「ダージェとは君の名前だったっけ」
「今、ここで選びな。大人しくいうことを聞けば、ボコるのは顔だけにしてやる。
「僕がリルルを諦めるなんていう選択肢はないよ」
「やっぱりバカだったか。ま、いい。ちょっと手間が増えるだけだ――おい、そこの
「私でしょうか」
顔色のひとつも変えていないロシュが応えた。
「お前も結構、頭の神経があちこち切れてるみたいだな。お前、向こうの人気のないところに行ってろ。俺は女に優しいんだ。後で可愛がってやる――といいたいところだが、リルル以外はしばらく抱かないことにしたからな。大人しくここから立ち去ったら
「ロシュ、向こうに行くんだ。
「
ニコルが
「お前の妹か? 兄妹そろって本当に変わった奴等だな……まあいいや。
「本当に運が悪いね……」
ニコルは馬から降り、その尻を手の平で
「はっ、最悪だな。顔だけの色男が、もう顔すらなくなるんだ。同情するぜ。さっきまでいたあのチビのエルフ、あいつはそこそこやりそうな気配がしたから、お前たちだけになるのを待ってたんだ。領主が自分の領地で頼みとなる家来もいないとか、最高に不運だよなぁ?」
「いや、最高に運が悪いのは――」
黒い外套の影たちが、ニコルが逃げられないように間合いをひとつ、詰める。その真ん中に立たされたニコルは剣も抜かずに、いっていた。
「君たちの方だよ」
「は――――」
魔界皇子が、その発言に問いかける間もなかった。
ギンッ!!
「な……」
黒い影が光にへし折られ、半身に別れながら吹き飛ぶ。半瞬後に灼熱した鉄塊を水たまりに放り込んだようなジュッ! という音が走って来た。
「なんだァ――――!?」
配下の一人が声もなく
「ふ、
「隠せるはずないよ。だから運が悪いといったんだ」
「なにィ――――」
光の柱と炎の雨が文字通りの横殴りに降ってきた方向に、魔界皇子は目を向けた。
二百メルトほど離れた波打ち
「ぐわあ!」
再び巨大に
「なんだぁ、あの娘!!」
「ロシュは、
「知るわけねぇだろ!!」
「ニコルお兄様、もう一人の影もロシュが
「ありがとう、ロシュ。この人との手出しは不要だよ。僕は貴族であると同時に、騎士だからね」
顔中に脂汗が流れる魔界皇子の前でニコルは左腕に銀色の腕輪を
「一対一だ。君は魔族らしいから、こちらも力の補助はさせてもらうが、公平というものだよね」
ロシュの
自分よりも身長が低いはずの少年から静かに漂ってくる冷たい気迫が、実際の背丈よりも頭一つは大きく見せてくれていた。
「俺は……結構危ねえ相手に勝負を
魔界皇子の心の中で、目の前の少年に対する印象が塗り替えられる。魔族の少年の口元に笑いが浮かんだ。
「なるほど、確かにあのリルルが
「ありがとう」
二人は示し合うことなく、本能のままに軽く切っ先同士を打ち合わせる。
――戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます