「駆け引きと、決着」
剣と剣が激しくぶつかる音が、平穏そのものだった島の一角で鳴り響く。ニコルと
全くの同速度、同方位に
切っ先と切っ先、刀身と刀身、
「――すげぇな、お前!」
「人間でここまでデキる奴とやったことはねぇ!
「――
ニコルもまた、魔界皇子の刀身の冷たさを何度も肌に受けていた。刃に触れぬほんの紙一重を見切りながら体を動かし、最低限の立て直しで反撃に移るには、そんな
それを装着する者に
「……そんな物で力を底上げしているのに、こんな体たらくなんだ!」
ニコルは自分が事態を
「ああ、人間にここまでの動きはできねぇ! 魔法の道具を使っているんだろうが、武器の優秀さは立派な戦力だ――気に入った、お前を気に入ったぞ! 魔界の王位継承第一位の俺がこういうんだ! 栄誉に思えよな!」
「それは、素直に思わせてもらおう!」
二人は開けた平野から、島中央に近い林に向かって飛び込んでいく。木々が
林の中で傾斜を流れる小川が、二人の
「――ふぅ、ふぅぅ…………!」
「はっはぁ!!」
二人が土の地面に足を置いた。正面に相手を
「くっそ、思わず本気を出しかけちまったじゃねぇか。――ニコル、降参しろ。そもそも俺はお前を殺したくないんだよ」
「僕が邪魔なんじゃないのか。よくはわからないが、君はリルルを欲しているんだろう」
「ああ、欲しい。お前が
「……じゃあ、何故僕を殺そうとしない。いくつかの瞬間で君は手を抜いていたのはわかってる」
「何故って、お前、そういうところは頭の
「――君くらいの立場だと、人の心を
「……お前、本当になんにもわかってねぇな。お前がその
子供っぽさを残す笑みを、魔界の少年はにたりと浮かべた。それに思わず親しみを覚えそうになったニコルは、奥歯を
「自分の意志をなくしたリルルの体を自分の思い通りにして、お前、なんかひとつでも嬉しいか?」
「――――」
「お人形さんを抱いて喜ぶ趣味はないんだよ。お前を
「
「気色悪ィ。……といいたいところだが、俺もそんな気分だ。リルルのことがなければお前とダチになってもいいんだが、巡り合わせが悪いな。こればっかりはしゃーねぇ」
「君が憎めない人物だというのはわかった。しかし、君にリルルを渡すことはできない」
「ま、そうだろうな――」
双方に、再び打ち合う気力が満ちる。動きが制限されるこの林の木々の中でどう相手を倒そうか、二人の頭の中で計算が回り出す。
「――んじゃ、そろそろ切り札を出させてもらうとするか!」
「!?」
ニコルの目が
それはまさしく翼だった。
「これも俺の能力のうちなんだ! 悪ぃな!」
「く――――!!」
砂、土、葉を巻き上げながら翼が地面を
「大丈夫だ、殺しゃしねえよ! 半殺しにするだけだ!」
突き出された手の平の前、無数の
「づぅっ!」
青白い光を帯びたニコルのレイピアが、
骨の
「くぅぅ――――!!」
苦痛の中で剣から片手を離し、腰から拳銃を抜き放って天に向ける。半秒の抜き撃ちが拳銃から発射炎と発砲音を
「ふん!」
魔界皇子はその銃弾を胸で受けた。銃弾は厚い布地を確かに
「そんな弾で死んでやっていたら、魔界の王子は
手の平から
「おいおい、いい顔してくれんなよ。男のくせに色っぽいじゃねぇか。変な
「ぐぅ…………」
「なかなか効いたろ。飛び道具が限られてるお前には
「……君にはかなわないな……」
「そろそろ
「お前は意識がある限りがんばろうとする奴だ。いい具合に意識をなくすっていうのは難しいんだが、やるしかねぇか。あの影が
「…………」
「頼むから死んでくれるなよ。俺は力の加減っていうのは慣れてないんだ」
「……ちょっと待ってほしい」
うつむいたニコルが、
「お、わかってくれたか?」
「少し、時間がほしいんだ……一分でいいから……」
「あのバケモノ女が来るのを待ってるのか。影が時間を
「――決めるのは、あなたの方ですよ!」
魔界皇子が顔を跳ね上げた、それは島の中央の方角――背中の方から聞こえて来た声だったからだ。
空に浮かぶ少年の本能が、自分の頭を後方に
「いてぇ!!」
顔面にまともに
「なんだ
「――飛び道具はわたしの一族のお手の物でしてね! この島には蝙蝠人間はお呼びでないのです! 速やかに立ち去っていただけませんか!」
三百メルトは離れている大木、その木の枝の上に一人のメイド服の少女の姿があった。第三射の矢を弓に
「なんで手前ェ、ここで戦ってるのがわかった! 島の奥に引っ込んでいたはずだ!」
「――僕が君を撃った拳銃、その本当の意味がわかってないのかい?」
「なん……!?」
立ち上がったニコルの言葉に、魔界皇子は顔を歪めた。
「……あれは俺を傷つけるためじゃなく、このエルフ女を呼び寄せるためのものか!」
「わたしたち一族の聴力を
「魔界の住民は悪魔じゃねぇよ! この差別主義者が! 死ね! それにニコル! これは一対一の勝負じゃねぇのか!」
「たまたま一対一になっただけだ。決闘の作法も守っていないから問題はない。そもそも最初、五対一で僕を囲もうとしたのは君たちの方だ」
「……途中から一対一だったろうが!」
「――ニコルお兄様、お怪我はありませんか!」
魔界皇子の歯噛みがさらに強くなった。海岸の方から走ってくるロシュの姿が認められたからだ。
「くそ……! 足止めも……!」
「これで三対一だ、君に勝ち目はない」
ニコルはまだ紫電が残っている前髪を払った。そして、領主としての
「魔界皇子。大人しく降伏するんだ。命までは取らない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます