「かごの中のニコル」
「それでは、失礼いたします」
「ちょっと待って!」
深々と腰を折って身を
「ここから出る自由がない!? そんなの聞いてないわ!」
「今、お話しいたしましたから」
「公式の行事って、そんなの、一ヶ月にいくらもあるものではないでしょう!?」
「左様でございますね」
まるで
「冗談じゃないわ! 陛下に会わせてください! 私、ここを出ます! 私には――」
「そんな自由がご自分にあるのだと、本気で考えておられるのですか?」
感情の乗らない、
「リルル様。
「な――――」
「三ヶ月の間、陛下は貴女様にお手を触れることもありません。まずはその期間において、貴女様に
「っ…………!」
リルルは恐怖の中で理解した。これは、王家以外の血を排除するための、徹底された
「――リルル様。くれぐれもここから逃げ出したり、
「…………お父様を、人質に取るということなの……!?」
「
神経に走った寒気と同時に、リルルの
「ここに留まられている限りは、外出や面会以外の不自由はございません。それ以外のご要望ならなんでもお申し付けください――それでは、失礼いたします」
機械であるロシュよりも機械的に一礼をしたコルネリアが、扉から出ていく。
脱出することは
「ついこの間まではニコルが
頭の中で思考が練られきっていないセメントの重さで動く。この状況を
フィルフィナと、別れさせられた。
メージェ島で彼女が
「
リルルは今、やっと理解することができていた。
自分たちはかつて
◇ ◇ ◇
ほぼ、同じ頃。
ニコルもまた、リルル同様に囚われの身となっていた。
王都西地区、商業区域のやや官庁街よりに建つ最上級高級ホテル、『シャルス・エル・エルカリナ』。
その最上階の
「――――」
バルコニーに出る大きな窓から望める王都の景色に飽きたように、ニコルはソファーに腰を落とす。
今までに通された経験がないほどの
「リルルは……お城に着いただろうか……」
文字通りの柱になっている柱時計を見ると、時刻は午前八時を指している。自分がここに連れてこられてから一時間。軽食が運ばれて目の前に置かれているが手をつける気にもならず、スープも紅茶も冷めきって、湯気の
「…………!」
ほとんど無音で、廊下に繋がる扉がわずかに開けられた――ノックなしで。
「――その、無断で中をのぞくのをやめてもらえないでしょうか。
「
地味な背広を着た、いかにも黒眼鏡が似合いそうな長身の男が愛想もなにもなく口にした。
「お前だって命令は忠実に実行するだろう。同じことだ。俺たちも別に男の部屋をのぞきたくはない」
「……
「まだ十六のガキには似合わない
ちらとのぞけた
とはいえ、何人いようが大した問題ではない。ニコルにここを逃げ出す気はなかったのだから。
「……僕がここに押し込められているのは、リルルの
法治国家としての最低限の制限は働いているようだ。表立って犯罪を行ったわけではない自分を
待てばいい。待てば、いずれは胸を張ってここを出られるのだ。
正確に十分おきで扉を開け所在を確認してくる背広たちを
「…………」
――来た。
またも扉を半分開けてニコルの姿を確認し、数秒と
落下防止の手すりに
灰色の雲の切れ間から差し込む午前の陽の光に照らされ、エルカリナ城の美しい姿が白く輝いている。王都の市民であるニコルにすれば、それは
「――お手数をおかけします」
バルコニーの
「いいのですよ、
いくらか笑っている声。
「リルルがお
「
「王家の
「……旦那様にとってはフィルよりも、家の立場の方が大事……リルルをお后として送った見返りに戻ってくる、フォーチュネット旧領の方が大事……そうなんだろうけれど、そうなんだろうけれど……」
「私も短い時間応対しただけですが、フィルはとても落ち込んでいました。最初見た時は
「それで、フィルは今」
「クィルに任せましたが、どうなったのか……。上手く引き留めてくれているといいのですが」
「ありがとうございます、
「ニコル」
死角に潜み、陰の中に体を溶かすようにしている
「今、ここにいるのは公爵令嬢サフィーナではありません。王都の正義を守る剣士、快傑令嬢サフィネルです。
その顔を見たいという心を
自分には、頼れる仲間がいる。その事実がくれる勇気で自分は戦える――希望だ。
「サフィネル。リルルの無事を確かめなければなりません。リルルがどんな気持ちでいるのかも」
「私がお城に忍び込み、リルルを探せば……」
「いいえ、快傑令嬢がお城に忍び込み、万が一
「でも実際、私しか忍び込める者はいないでしょう。そんな
その反応に、ニコルは満足げにうなずいた。
「うってつけがいます。サフィネル、連絡を頼みます。今夜のうちにお城に忍び込み、リルルと接触してほしいと。大丈夫――
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