「快傑令嬢、ふたり、揃い踏み」
秋も
その南西部、
元は
誰もがその建物のことを忘れた、その
「――と、いうわけだ。この仕事はとにかく速攻だ。それぞれの
倉庫には八台の荷馬車が馬ごと入れられ、五十人ほどの男たちが黒ずくめの服に身を包んで整列していた。中央の大テーブルには王都全景の地図が広げられ、現在いる地点の工業区域から数本の矢印が様々な色の矢印で描かれている。
矢印が差しているのは
「時間
その様を想像し、全員が
「死ぬ気でやれ。成功すれば外国で遊んで暮らせる、いいな!」
同じく黒ずくめの
「全員荷馬車に乗れ! 俺は船の停泊場所で待つ!
部下たちが荷馬車に飛び乗る。
「開きません!」
「はぁ!?」
相当に重いとはいえ、一人が横に押すだけで開くはずの扉が、開かない。両手を
「鍵がかかってるなんてオチじゃねぇだろうな!」
「外れてます! ですが、扉がもの
「……時間厳守だっていったろうが、最初に段取り
すようなことしやがって。縁起の悪い……」
頭目は仮面の下の顔を歪ませながら扉に向かった。扉を固定する
「――どうなってるんだ、こりゃあ!?」
「まさか、表から
「表からって、そんなこと、お前」
部下の指摘に頭目の
「見張り! 応答しろ!」
万が一にも強盗団が集合している中をのぞかれないよう、閉めた大扉の裏から激しい打撃を浴びせる。が、それに対する応えはなかった。
「おい! 裏の
「勝手口も開きません!」
「なんだぁ!?」
勝手口の表に鍵などない。それが開かないということは、扉を板かなにかで打ち付けられているということだ。これは……!
「け……警察か、警備騎士団の手入れか!? お前ら、全員戦闘態勢に――」
――広く一面に被せられているトタン製の屋根が、派手な音を立て破られたのはまさに、その瞬間だった。
「――これは手入れでもなければ、やってきたのは警察でも警備騎士団でもないわ!」
長い
長いスカート、
その姿だけで、男たちは自分たちの運命を知っていた。そして運命をもたらす者の正体も。
「か――快傑令嬢、リロット――!?」
これから悪事を行う者が、どうか今回は現れないでくださいと神に願う美しい
「――今夜は忙しいので長々とした
スカートの
「て――て、てて、てめえら、なにを娘一人にビビッてやがる!! 相手は一人、こ、こここ、こっちは五十人はいるんだぞ!」
その娘一人がどんな
「囲んで、
「たった
大扉を
全ての視線と注意が集中していた真逆の位置、トタンの破片と共に
「こ……こっちは――!」
快傑令嬢リロットが
細かい
「快傑令嬢は一人だけではない、これはもはや常識!」
青いフレームのメガネがそのレンズを輝かせる。美しい宝石を思わせるエメラルドグリーンの瞳が、その向こうで若い光をたたえていた。
「お、お前は快傑令嬢――!」
広げられたスカートの
「――誰だっけ?」
「あら」
紫陽花色の少女の
「お前、知ってるか?」
「快傑令嬢リロットの色違いがいるっていうのは読んだことあるぞ」
「俺、知ってる。青リロットって覚えてた。名前があったのか?」
「うううう……」
一瞬全ての戦意を
「こ――これは、その体に直接覚えてもらった方が良さそうですね……」
「サ、サフィーナ、がんばって!」
快傑令嬢リロット――リルルが音にならない声で相棒を
「ご存じないのであればお教えしましょう! 私はリロットの相棒、私の名は快傑令嬢サフィネル!」
快傑令嬢サフィネル――その正体である公爵令嬢サフィーナが、腰のレイピアを抜き放った。
「快傑令嬢は、この世に絶対二人だけ! その一人の名と力を、どうぞ
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