「誤算の名はニコル」
快傑令嬢サフィネルの宣言と共に、倉庫の空気の全部が竜巻の遠心力にかき回された。
「参ります!」
そのハイヒールでコンクリートの床を
「うぐっ!」「げっ!」「がはっ!」「づぁっ!」
その先端の軌道など目にも止まらない
「さあ、さあさあさあさあ!」
少女が持つ
まさに
「
倒す者の
「……張り切ってるわねー」
快傑令嬢リロットも負けてはいない。足が地から
「おああああ……」
苦労して集め、育てた手下たちがまるでドミノ倒しかなにかのように
自分が長い時間と
美しいドレス姿の
「仕事が……
「そういうセリフは、真面目に仕事をしている人間がいうものでしょ! 大人しく降伏しなさい!」
最後の
「この一団で強盗を働いたことはなさそうですが、他にずいぶんと
「うるせぇ!」
二人に五十人で対していたものが、今は、二人に一人で対する
「てめえらなんか
頭目が拳銃を抜く。たった一発しか
先端が黒く光る銃口がサフィネルに向けられる。その殺意の
「行くわよ、サフィネル!」
「来なさい、リロット!」
力強く地を蹴り、二人のドレス姿の少女たちが矢の早さで宙に舞い上がる。
一瞬で拳銃の
超速の速度で前転する二人の体が次にはしなやかに
そして。
「
胸と背中に二人の令嬢の急降下蹴りがそれぞれに突き刺さり、バキボキメシャと生理的に不快な
「うげぁ――――――――!?」
頭目の口から飛び出した悲鳴が、金属のマスクを内から飛ばしていた。
二人の令嬢が宙返りの軌道を描いて着地し、前にも後ろにも
「――いっけない! やり過ぎちゃった!!」
声を上ずらせてリルルは立ち上がった。二人で練習して覚えたばかりの大技を調子に乗って食らわせてしまったが、当てるところまでを意識し過ぎていて、当てたあとのことを考えていなかった。
衣装と同じくらいに顔を青くしたサフィーナが、頭目に
「だ、大丈夫、生きてるわ! ――
「ならよかった!」
前後からの蹴りをまともに受け止めさせられた頭目の胸、破けた服の下の分厚い
「鎧を着けてくれていて、本当に
「悪人とはいえ、殺したら寝覚めも悪いし、ご飯も
「リル……リロットが『行くわよ!』なんていうんだもの。思わず調子を合わせちゃったじゃない」
「ごめんごめん」
『お二人とも――』
二人が耳から下げているイヤリングが、震動して声を発する。ここにはいないはずのフィルフィナの声がした。
『どうですか? 倉庫内は制圧できましたか?』
「ばっちりよ。このあと警備騎士団がここに来る予定なんでしょ?」
「次の目標に向かわないとね。リロットも私もすぐに移動するわ。で、あとどれくらいで、警備騎士団は来るの?」
『それがですね』
遠方の高所に位置し、魔法のオペラグラスで倉庫一帯を
『今、倉庫が包囲されました』
「えええええぇぇぇぇぇぇぇ――!?」
二人の体温が、音を立てて数度下がった。
『今夜の警備騎士団はなかなか素早いですね。予想よりも二分は早いですか。参りましたね』
「そもそもがキツキツな計画じゃないの!」
「
「ううう……あとで責任を追及するからね!」
「リロット、早く!」
サフィーナがムチを上に向けて振る。伸縮自在、先端も使い手の意思に従って動くムチ――その働きははめている魔法の手袋によるものなのだが――が侵入してきた天井の穴を飛び出し、屋根に自ら
「私も急がなきゃ」
リルルもそれに
「よいしょと」
屋根の表面に指をかける。次には、
「わぁっ!?」
「おっと」
下に沈みかけた体を止めたのは、とっさの間合いで手首をつかんでくれた手だった。
「大丈夫ですか?」
優しげな、親切げな少年の呼びかけが頭上から降ってきた。
「あ……す、すみません、お手数おかけします」
「いえ、これくらいは当然のことです、
その聞き
「僕は警備騎士、
「あ――――」
絶望に
「こんばんは。
その天使の愛らしい
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