「フォーチュネット伯爵誘拐事件」(その四)
「綺麗な夜空だなぁ」
ほぼ円形に木々が
今夜が
「こんな
「んだな。俺は牧場持ちてぇ」
「俺は畑だ。もう一度真面目にやり直すんだ」
明日には、数えるのが面倒になるくらいの大金をつかむことができる。その期待に男たちの
「夢がねぇな。俺は波打ち際に寝そべって美女はべらすぜ、美女」
「んなことしてたら、一年もせずにまた
「いいじゃねぇか。いつ死ぬかわからねぇんだ」
木のカップとカップがぶつけられ、笑い声と共に酒の
「太く短く、楽しめるうちに楽しめ、これよこれ、わははは」
「俺たちゃ金持ちだ、大金持ちだ!」
「二十億エル万歳!!」
「ばんざーい!」
男たちの
「――まあ、好き勝手に色々いってくれるもんですね」
男たちの夢を輝かせるランプの光も
「人をひとり誘拐しておいて真面目にやり直すとか、ふざけているんですか」
木々の
「誘拐団に落ちぶれるまでは、真面目な農夫だったかなにか知れませんが……人の命を盾に金銭を要求するなんていう行いを、許すわけにはいかないのですよ。残念ながら、夢の時間はここで終わりです」
フィルフィナは左手に
「ご自分たちの
記念すべき一射目をどれにすべきか――数秒の間考え、フィルフィナは決定した。
◇ ◇ ◇
カン! と鋭い音を立てて、地面に置いてあるランプが明かりを吹き飛ばされながら転がった。
「ありゃ、ランプが自分でコケたぞ」
「足腰の座ってないランプだなぁ、情けねぇ」
酒がじわじわと
カン!
続いて、もう一つのランプがまたもなにかに突き飛ばされたように転がった。そして、その座の明かりを支えていた最後のランプも同じように弾かれ、明かりを消し飛ばされた。
酒盛りの一角が暗くなる。ログトを監禁している小屋の近くで頭目たちが集まっている場の明かり以外は全て消え失せ、手元を確かめるのもつらくなった。
「明かりが消えたなぁ」
「もう飲み過ぎだってことだろ。お開きにしろってランプがいってんだよ」
「そりゃあ、ご親切なランプさんでございますな」
わはははは、と十数人が笑い合い――それは
おかしい、全員の脳が
「てっ……敵だぁ!?」
色を失って真っ先に立ち上がった男の
「ぎゃあ!」「いてぇぇ!」
離れた座でグラスを口元に運ぼうとしていた頭目が、突然
「どうしたぁ! 何事だ!」
「矢です! 矢を
「矢だと!?」
叫ぶ頭目の目の前で、報告に
「てっ……敵襲だ!!」
「親父を小屋から引き出せ! 盾にする!」
「鍵だ! 鍵を開けろ!」
「いったい何人に囲まれてるんだ!」
「早く人質を引きずり出せ!」
小屋の扉が開けられる。鍵を握る男を突き飛ばし、頭目がその中に
「親父、出――!」
出てきたのは小屋の
ハイヒールの一撃が頭目の脇腹に深々とめり込み、大柄な体が
「げえぇぇ――――っ!?」
まだ消されずに残されていたランプの明かりでその脚の持ち主を見た男たちは、開けた口から内臓が飛び出るのではないかというほどの
「かぁっ……快傑令嬢だとぉぉぉっ!?」
その姿を見たことがある者も見たことがない者も、目の前に現れた特徴的な出で立ちで、それが誰であるかは瞬時に理解できた。
「皆様長らくお待たせいたしました――と、ここでカーテシーの
地面に
「失礼ながら、今夜は省略させていただきます!」
快傑令嬢リロットに
それが一度振り抜かれて空気を切り裂く音をブンと立てて地を叩き、再び振られた次の瞬間には、誘拐団の手下でその場に立っていられる者はいなくなった。
◇ ◇ ◇
最初の悲鳴が上がってから三分も
「――あなたを誘拐した者たちは、全員片付けました」
万が一の流れ弾などに備えて伏せていたログトが顔を上げる。開け放たれた扉のところにドレス姿の少女が淡いランプの光を背中から受け、そのほっそりとした体の
「
白い手袋が優雅に広がるスカートの
認識できていれば、心臓が
「
「お前が……
服についたホコリを払い落としながら、ゆっくりとログトが立ち上がる。初めて目にするその非日常の存在に、声の
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