「フォーチュネット伯爵誘拐事件」(その二)
二時間ほどを全力で走った
「大人しくしてろ!」
どう見てもまともな
やれやれ、と心の中でぼやきながらログトは小屋の内部を観察した。地面には
荷馬車の最低な乗り心地のために、腰が全般的に痛かった。
「気味
無駄に
建物を
どうやら森の真ん中らしいが、まだ昼下がりの太陽の光は十分明るく差し込んでいた。かつて
「おい、おっさん」
何人かの顔の破片を適当に集めて
「ログト・ヴィン・フォーチュネット伯爵だ。フォーチュネット水産株式会社の社長でもある」
「……こちらが質問する前に答えるなよ」
「答えない方がよかったか?」
「いや……」
全部で二十人弱はいるだろうか、人質と頭目がどう
「無駄なことは嫌いなのでな。で、いくら
「……おっさん、俺たちが
「怖いさ。
「ま、まあな」
自分たちは、どうやらヤバい奴をさらってきたかも知れない、という
「こんなところで殺されたくもない。というわけで、交渉開始だ――金額は?」
「二十億エル」
「欲をかきすぎだ」
予想の十倍を切り出され、さすがのログトも眉をひそめた。とても自分にその価値があるとは思えない。
「てめえの会社は
「そりゃ、資産としてはある。だがな、ほとんどは土地や建物や設備の不動産だ。そんな遊んでいる現金はないぞ」
「必死になって用意させろよ。でなければ腹いせにここでゆっくりと
「誘拐組織の残党というわけか?」
「俺たちの
「会社と交渉するのは無駄だ」
「なんでだよ!」
「私の
「…………」
とんでもない内容を落ち着き払って
「じゃあ、お前をさらってきただけ無駄だっていうのか!」
「私の屋敷と交渉しろ。現金はそれほどないが、一日待てば二十億エルの現金に
屋敷で動かせるのは確か、リルルが持っている銀行の預金が数百万エルと、リルルの貯金箱に入っている数千エルくらいのものだということを計算しながらログトはいった。
「お前、俺たちを
「馬鹿をいうな。私も死にたくないといっただろう。屋敷にまだ十三歳くらいになったくらいのメイドがいる。読み書きもロクにできんような子供だ。そのメイドを連絡役に使うがいい。それを介して、私の娘が交渉に応じるだろう」
「メイドだな。よし、じゃあ自分が誘拐された
「手の
「当たり前だ! 手を出せ! お前ら!
ログトは格子の隙間から手首を突き出した。手首を
荷馬車で荷物の
フィルフィナは会社に
さあ、あのエルフの娘はどのような手段に
それを楽しみにしているのを隠して、ログトは紙とペンを受け取った。
◇ ◇ ◇
「――お父様が、誘拐されたですって……!?」
「まだ確定したわけではないですが、
「しかし、安心しました」
「どこに安心できる要素があるのよ!」
「あの花火は
「――――」
まだ身体に危害が
「社内で秘書が
「……お父様の身辺を、手薄にするための工作……!?」
「わたしは屋敷で待機します。
「ここに? 会社じゃないの?」
「誘拐された場合は会社ではなく、わたしと交渉すると旦那様と打ち合わせしております」
「は――――」
そんな事態まで想定しているのか、このふたりは。
まるで日常業務のように問題を解決しようとしているメイドの姿にリルルは
「もう時刻は十五時です。
「一日って……お父様を取り返すにしても、その
「そこはさすが親子といったところですか」
「荒事を好むっていうのが?」
「それはそうと、お嬢様」
「急いでお使いをしてはいただけませんか。わたしは今、ここを離れるわけにはまいりませんので」
「お使い?」
「はい」
ポケットからガマ口
「ウィスキーを一本買ってきてください。大きな箱に入ったなるべくお高い、高級そうなやつであればあるほどよいでしょう――ええ、
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