快傑令嬢すぺしゃる!004
「フォーチュネット伯爵誘拐事件」(その一)
その日、王都エルカリナ有数の大企業『フォーチュネット水産株式会社』において、激震が走っていた。
一代で王都でも
時刻が正午に差し掛かろうという
王都西地区にある本社から、王都エルカリナの衛星都市であるウェー・エルカリナの支社に向かおうと、乗り込むための馬車が差し回されるのを待っていた最中の出来事だ。
巡り合わせが悪いことに、
ログトに
数分と置かずに馬車が回されてきてもログトは姿を現さず、すぐ近くを探そうとした社員は、足元に落ちていたひとつのカフスボタンを見つけて顔面を
それは
「……このカフスボタンが、社の前に落ちていたというのか……!」
本社の事務室、奥まった場所に
「はい、間違いありません。現場で社長が自ら引きちぎったものです。これは――」
「しっ!」
大部屋で机を並べ、大量の事務処理に追われていた数十人の社員達の手が止まり、全員の視線が一斉に副社長に注がれる。ここでは社長も副社長も仕切りさえなく同じ部屋で働くのだ。だが、そんな
「屋上に出よう」
副社長は社員を
「副社長もご存じでしょう。引きちぎったカフスボタンは社長の暗号です。自分がこの場で
「誘拐だな」
状況としてはそれしか考えられなかった。生死はともかく、その身柄を運んでいったことだけは確かだろう。
王都においてこの半月、数件の誘拐事件が立て続けに起こった。その元締めとしての誘拐組織も快傑令嬢リロットに
「こういう緊急事態に
「金庫に入っているあの分厚いやつですか。い、今から戻って確認を」
「必要ない。私は覚えている」
ログトと
人の背の高さほどの柱のようなものと
金属製で肉厚が結構ある丈夫な筒だ。先端の
「……なんなのですか、それは?」
「今にわかる」
一度社屋に戻り、帰って来た副社長はその胸にひとつの大きな玉を抱えていた。
社員の顔が嫌な予感に強ばる。
筒、玉となると、ひょっとしてこれは――。
「下がっていたまえ」
やはりそうなのか、と社員は
「――これを使う日が来るとはな」
意を決し、副社長はその玉を筒の中に落とすと同時に、自らはその場に
ポン! と軽い音を発し、筒が玉を上空に向けて
王都に、
十二カロメルト四方の王都、そこにある全ての建造物の壁を
「――ついてこい」
いつの間にか立ち上がっていた副社長が先を行き、階段を進む。今の花火の意味がわからない社員は
「あれは……花火だったのですか?」
「他の何に見える」
「いや、しかし、どうしてこんな事態に花火なんて。本当にあんなものが緊急の手引き書に
「八年前に変わったのだ。それまでは『速やかに警察に連絡しろ』だったんだが」
「はぁ……で、どこに行くんです」
副社長は迷いもなく階段を一気に一階まで駆け下りた。そのまま建物から出、会社社屋を囲む門の前に出た――ちょうどログトが
「君は社長付きになってまだ日が浅かったな」
「ええ……まだ一ヶ月もありません」
「ならひとつ大事なことを教えておく。今から来られる方に、決して礼を
「来られる方?」
その『来られる方』は、間もなく来た。
遠くから聞こえて来た
一頭のケンタウロスがもの
副社長が腰を曲げて頭を下げる。その最敬礼の角度に、
頭を下げる二人の前で、固い印象の制服を
「こんにちは」
その少女のものらしい声を耳に受け、社員は顔を上げた。
「――
「お早いお付き、まことにご苦労様です」
「わたしはお屋敷のメイドに過ぎません。どうかそんなに頭をお下げにならないで」
「は――――」
大企業の第二位に位置する
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