「少女、最後の戦い」
天をつかもうと高く
「…………」
リルルも、サフィーナも、フィルフィナもスィルスィナもが、それが誰のものであるのかがわからなかった。
まさしく降って
「い……今のは……」
「誰の……?」
高熱でしか自分は倒せない――悪魔デルモンは自らいっていた。その、倒すための手段を使い果たしたリルルが天に祈り、その途端に天から爆弾が降ってきたのだ。
それが神の手のものでないとしたら、誰か人のものでしかあり得ない――それが誰のものなのかが、問題だった。
「――やっつけられたかしら?」
爆弾が落ちてきた天から、続いて降ってきたその声が、全員の意識を打った。
ひとつの風がふわりと舞い降りてきて、リルルたちの視界の中で赤いハイヒールを地面につける。真っ赤なドレスの風圧で大きく広がったスカート、背中まで伸びた豊かに波打った金色の髪が、
「
「――エヴァレー!」
「――わたしが確認してきます。スィル、ついてきなさい」
「……了解」
エヴァレーの脇をすり抜けるようにし、拳銃を抜いたフィルフィナがスィルスィナを伴って
「……エヴァレー」
静かに立ち
「リルル」
リルルとエヴァレーは、十歩の間合いを開けて向かい合った。
落ち着いた視線を交わし合い、しばしの無言が
ふたりの間に気が満ちる間、サフィーナは一歩引いた場所からその様子を見守る。
あの数日前の園遊会の時のように二人は
「あなた、どうしてここに……いいえ、ここがよくわかったわね」
「簡単だったわ。あれだけ派手にどっかんどっかんしていればね。爆発の音が王都中に響いていたわよ。相当派手に
エヴァレーが耳からなにかを外し、リルルの方に軽く投げる。反射的にリルルの手がそれを受け止めた。
「これは……」
「クィルクィナがつけていたものよ。ちょっと借りたの」
通信連絡用のイヤリングがリルルの手の中にあった。それはまさしく、今もリルルが耳につけているものだ。
また少しの沈黙が横たわる中、黒煙が立ち上る根元を確認したフィルフィナたちが上がって来た。
「――
「そう……」
何度肉体に穴を空けても、核を体から分離させても復活してくる悪魔、魔人――。必勝の策を
「……これで終わったのね……」
「ありがとう、エヴァレー。助かりましたわ。
「いいのよ、礼なんて」
サフィーナにエヴァレーが
「これから、お礼もいってもらえないことをするのだから」
腰の小さなカバンから財布でも取り出すかのように、何気なくエヴァレーの手が左腰に回り――。
「っ!!」
目の前で
「なっ……!」
「さすがね」
「なにをするの、エヴァレー!」
不意打ちを防がれたことに
そんなサフィーナを意外にも、フィルフィナが体を盾にすることで
「あなたは手を出さないで!」
「リルル……!?」
冷静なリルルからの声がそれを後押しし、サフィーナは
「エヴァレー、どういうつもりなの」
「なにが?」
無言で示し合わせたように、リルルとエヴァレーは一歩、間合いを詰め合った。
「あなた、今の一撃、本気で踏み込んでこなかった。私に剣を抜かせるのが目的だったように」
「ふふふ……。リルル、あなた……本当に強くなったのね……」
リルルに剣を向けるエヴァレーの目には、敵意も憎しみもなにもない。いや、逆に優しさがあった。目の前の相手に敬意を捧げるやわらかさがあったといっていい。
「そう、あなたのいうとおりよ。しかし、
「あなたの真意をいって。回りくどいことはもういいわ」
「わかったわ、リルル。――
「エヴァレー……?」
言葉の真意を求めてリルルが見開かせた目に、エヴァレーの揺らがない瞳が応じた。
「
「どういう……」
「――もう、
「自由のない貴族の生活に飽き飽きしていた。恋も結婚も、人生のなにもかもが
リルルの胸が小さく痛んだ。理解できる、共感できる言葉だったからだ。
「自由になるために、今まで
「スィルから、あらましは聞いているわ……」
「ねえ、
「…………」
「今はわかっているの。全ては
かちり、と軽く剣と剣が交わる。その小さな手応えに、目の前にいる相手の存在を感じる。
「なにも得られず、なにもかなわず、ただ罪人として
間に横たわる距離を、気持ちを確かめるようにひとつ、ふたつ、みっつと剣が打ち合わされた。
それはもう一つの語らいの形であったかも知れなかった。
「
「ダメよ!」
サフィーナが
「快傑令嬢は人を
「――やっぱり、そうよね」
エヴァレーの剣が引かれた。意思を
「無理なお願いだったわ。……そうよね、それが普通よね」
「虫がいい頼みだったわ。人を殺すなんてことは、なかなかできるものではないものね……。ごめんなさい、最後の最後に困らせてしまって。自分の始末は、自分でつけることにするわ」
右手首の黒い腕輪から、生えてくるかのように一丁の拳銃がその
「リルル、サフィーナ。さようなら、ごきげんよう」
キリリリ……と、
フィルフィナとスィルスィナが鋭い眼差しで前をにらみ、奥歯を噛みしめたサフィーナが次の瞬間の光景を想像して顔を
乾いた発砲音が、鳴り響いた。
「っ!!」
頭から血を流していないエヴァレーが目を
「――リルル!」
「エヴァレー」
電光のように鋭く踏み込んだリルルが、下からすくい上げた剣を大きく振り上げていた。
「私は、目の前で誰かに自殺なんてさせないわ」
打撃で拳銃をもぎ取られた痛みに顔をしかめるエヴァレーの目の前で、リルルは剣を――エヴァレーが自ら捨てたレイピアを拾い、
「剣を取りなさい」
差し出していた。
「あなたと、戦ってあげる」
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