「魔人との決着」
街の真ん中で
本当に街の真ん中に雷が落ちた、と信じた者も大勢いたほどの轟きだった。
それに
そのうちの一人であり、音の発生源に最も近い場所にいた、いろいろな意味で
豊かに波打った明るい緑色の髪を
「――目標、命中を確認」
港湾区域から約四カロメルトほど北に離れた高級ホテルの十階、
「ま、私にかかればこんなものね――ああ、なんて有能な私。もううっとりしちゃう」
エルフとしては規格外の巨大な胸、くびれた腰、豊かな
その
長さ二メルト、直径二十五セッチメルトの筒。知識がある者ならば、それが何であるかは、まさに
百二十粍狙撃直射砲。
砲の
『――お見事です。こちらでも確認しました、
女神像のそれのように整った形の耳からぶら下がっているイヤリングが震える。その響きが伝える
「もうその
『……感謝します、お母様。そのまま指示があるまで待機していてください』
「感謝もいいんだけど、ちゃんと
『……………………覚えてやがりましたか』
「忘れるわけないじゃない。そのためにあなたに引っ張り出されてあげたのよ? 私、ニコル君をどう
『……
「いいじゃない。ニコル君ももう大人。自由恋愛ってやつだわ――。ニコル君がこの魅力的で
『手を出したら殺します! いいですね!』
「もうフィルちゃんったら、こ・わ・い♪」
『死ね』
ぶち、と
「ふふ、我が娘ながらまだまだ若いわね。……愛しているのなら、周りのことなど考えずにもぎ取りにいく勇気も大事なのよ」
砲に次弾を
「ま、フィルちゃんみたいに
「あれは……」
◇ ◇ ◇
魔人の右腕をもぎ取った
音速の三倍弱で
頭を抱えて地に
ゴオン……。
遠くで地響きに似た音が、遅れてやってくる。発砲音だろう。
右手以外は完全に原型を保ったままの魔人が、突然生気の全てを失い、鉄の像そのものになったかのように、受け身も全く取らずに転げて地面に金属の音を響かせた。
「すっ……ごっ……」
リルルがサフィーナが、遠くの轟音が空の彼方に消えて行ったのを確かめてから体を起こす。
建物が密集した市街地において、目標を
爆薬の武器でどうにか始末できるならそれでよし、いよいよの際は、
「話には聞いていたけれど、フィルのお母様が使われる武器は凄いわね……結局、最後に頼っちゃったわ」
大口径砲の砲弾を弱点とされる
「お嬢様、サフィーナ、無事ですか」
起き上がったフィルフィナがスィルスィナを
「私、ちょっと耳鳴りが……」
「大丈夫? 休んでいていいのよ」
「これくらい、平気。――確認しましょう、吹き飛んだ右手を」
「うん」
あの直撃を受けた右手、魔人本体ともいえる
「ここから海の間を探します。海に落ちたとは考えにくいですね……それらしきものを見つけたら、すぐに声を上げて下さい」
四人は
サフィーナは
他の三人はコンクリートが
「……みなさん!」
それぞれの背中を打った見えないサフィーナの声に、リルルたちの肩が
「見つけたの?」
「ありました……が!」
「が?」
「
そのサフィーナの言葉を三人の誰もが、瞬時には理解しなかった。
「右手が動いています!! 早く来て――きゃあっ!!」
十数メルトは下っていったはずのサフィーナの体が、天地を逆様にし宙を舞う形でリルルたちの前に現れた。鋭い角度を空に
「クーックックックッ!」
背後から聞こえた
右手を吹き飛ばされて倒れていたはずの魔人デルモンが――起き上がっている!
「お嬢様、魔人の本体は
「まさか……あの一撃を受けて死ななかったの!?」
「いやあ、正直なところ、死んだかと思いましたよ!」
「左の壁の端! 解体中の船との間に、奴はいるわ!」
サフィーナの
「――いた!」
指が千切れてもいなければ、甲が
「もう指の幅の半分の半分ズレていたら、即死していたでしょう――実際生きてるのが不思議、奇跡みたいなものです! 悪魔とされる私がいうのもなんですが、今、初めて自分が生きているという実感を
「わたしがそいつを爆破します! お嬢様は下がって――」
矢の先端にくくりつけられた爆薬の
そのフィルフィナに、右手を失った魔人が風の勢いで
「くぅっ!!」
重ねに重ねられた訓練のため、考えるよりも早く反射反応で動いてしまうフィルフィナの戦闘能力が、不幸を呼んでいた。
「し……!」
考えるよりも先にフィルフィナの体が
――危険を回避するために、
「しまった…………!!」
矢が魔人の胸に突き立った瞬間、爆薬は爆発した。高熱によって空気が超高速で
「わ……わ、わたしは、なんということを! あれが、あれが最後の爆薬だったのに!!」
「……フィル姉様、自分も手持ちがない」
「クククク、クククククク!!」
吹き飛ばされた魔人はすぐには起き上がってはこなかったが、殺せていない――復活は遠くない。無意味な攻撃に、
「私の核――いえ、私を
右手の形をした核が指を
「この状態なら、今の爆薬の追い打ちで殺せたでしょうが……フ、フフフフ! もう全ての手段を使い果たしたようですね! まことに――まっことに残念でした!!」
「――お母様! そこから二射目を撃てませんか!?」
『ダメだわ、ここからでは射線が通っていない! 完全に物陰で見えないわ!!』
そうだろうとは予想はできていたが、実際返ってきた答えにフィルフィナが奥歯が割れるのではないかというほどに
「ク――――クックックックッ!!」
表面を
「この核に受けた
「誰か! 爆弾をちょうだい!」
涙を浮かべながらリルルが叫んだ。ここまで追い詰めたのに、あと少し、あと一歩が
自分たちの戦いが無駄になる。王城は燃え、革命を望む民衆たちは立ち上がり、それと軍隊が
快傑令嬢として守ってきた王都が破壊される。快傑令嬢として守ってきた人々が死んでしまう。
それは許せなく、耐えられない。なんのために今までこうも戦い、こうも苦しみ、こうも悲しんできたのか!
「小さくてもいいの! ひとつだけでもいいの!」
叫んでも手に入らないもの、降って
それを望んで、リルルは、
「誰か――誰か、私たちに爆弾をちょうだい!!」
「ク――ククク、ク――――ククククク!!」
少女たちの心を
壁を這いずり、自分の体にたどり着こうと
――その右手に、影が差した。
「ク?」
突然現れた、小さな円形の影の真ん中に右手が捉えられ、その異変に
闇を
「こ……こ、こ、こ」
頭から生えた短い
「これはァ――――!!」
それが、魔人の
内部から破裂するような青白い閃光を発し、次の瞬間にはその球の全てが高熱の
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