「その切り札の名は、零(ゼロ)」
王都エルカリナの南部、海に面した
王都を訪れる人を迎え、去る人々を送り出す大型の港、王都が消費する
市民たちの働き口をまかなう大規模工場の数も多く、いくつもの怪物の集合体のような巨大な工場群は、他の街ではなかなかお目にかかれないものだ。
鉄とコンクリートとアスファルトで
その海に近い工場群の屋上に、風に
旗――立てられた棒に
この
旗は南からの海風に吹かれて、北にその尾を向ける。それを見上げる人々の気持ちも心も、知らないままに。
◇ ◇ ◇
腹筋が一つ一つくっきりと分かれて浮き出たその腹部、まさに
「うううう…………!」
わずか三メルト先で小さくない高性能爆薬を爆発させるという、自爆攻撃に等しい危険な攻撃。自分たちにも
爆圧、爆音、爆炎――その
周囲の全ての建物の壁を
「え……?」
まずリルルとサフィーナの目に入ってきたのは、二本の太い脚だった。最後まで状況を隠していた煙は見る間に薄くなっていく。やがて腰、大穴が空いた腹、大した傷もついていない胸部、腕――そして、子供とじゃれている親のような表情を見せている顔が現れた。
「な……!」
「ふは……ははは」
リルルたちの望みを断ち切るように、デルモンの腹を
「……はははは、はははは……はーっ、はっはっはっ!!」
横に振りかぶられたデルモンの手の平に、青白い光球が浮かんだ。リルルとサフィーナが反応する前に、それは二人の間目がけ、
「きゃあああぁぁぁ――――っ!?」
糸のような細い
「ぐっ!!」
全身に電流の
「お嬢様!?」
「――しつこいエルフたちですね!」
ケンタウロスから飛び降り、弓を引っつかんで
「くぅぅ……うう!」
資材置き場の資材に叩きつけられ、降り注いだ細かい
直撃を受けたわけではないのに、それぞれに向けた一発の攻撃だけで、全員が立つことすらできなくなっていた。
「――あんまり魔人を
自分の体にかかった
「ですが、それで調子に乗られるのは困りますね、まったく――さて」
デルモンは首を巡らせた。
建物の切れ間の遠くに王城が見える。
「ま……待って……」
飛び立とうとしたデルモンは、背後から聞こえたその声に振り返る――視線の先でリルルがうごめいていた。まだ立つ気力があるのか、地面をつかんで自分の体を引きずろうとしている。
「おや、まだ話せる気力があるのですか。あなたみたいな人間は意外に
デルモンが高々と右手を
「私を……殺すの……?」
「ええ。心配しないでください。痛みはありませんから。消えるように死ねますよ」
「なら、最後に教えて……あなたの
今にも途切れそうな、絶え絶えの声。アスファルトから顔を
「気づきませんでしたか? ちゃんと
デルモンの右手――右手の甲が淡い
「防御するわけにはいかないのですよ! なにせ、この右手こそが、私の
リルルに、いや、もう抵抗もできなくなった全員に見せつけるかのように、デルモンはことさらにその右手を掲げた。
「ふふ――ふふふふ! さすがに、こんな体の末端に核があるなど予想もしなかったでしょう!」
「右手が、あなたの、核……」
「ふふ。ま、これは誰にも知られてはならない秘密ですからね。あなたを殺しておかねばならない理由が、またひとつ増えたということです――どうです?
「く……く、くっ……」
「さあ、
「くくくくっ……」
「くく、くくく、くくくく……」
「――なにを笑っているのです」
「くすす……くすくす……」
デルモンが視線を横に走らせた。事切れていたと思っていた
「ふふふ、ふふふ、ふふふふ……」
「あは、あはは、あははは……」
後ろを振り向く。倒れて動かないメイド姿のエルフの二人も忍び笑いを
「な……なに、なに、なにを……」
「うふふ」「くすくす……」「ふふふふ……」「あはははは……」
怒りと
「なにを笑っていると、聞いているんだ!!」
「――あなた、自分がどうしてここに
「お……誘き出された……!?」
リルルの言葉にデルモンの心がぐらつく。ここで戦闘に及ぶのは計画的なことだったのか。しかし、何故ここなのか?
「建物が密集した街中で、
「
「……
その解答を出すかのように、
「
『――こちら
フィルフィナの耳にぶら下がったイヤリングが、大人びた女性の声を発して震えた。
「
『見えてる。いつでもいいわ……風速、風向確認、照準修正完了』
「では、お願いします」
『了解よ』
リルル、サフィーナ、フィルフィナにスィルスィナが、呼吸を合わせて一斉に起き上がった。
「――こいつら、まだこんなに動けるのか!?」
デルモンを混乱させたのはその事実だけではない。その全員が自分を中心にして
「お前たち、いったいなにを
「こっちを見なさい」
伏せている四人の中、海を背にしているリルルだけがデルモンを
「なんだと……」
「こっちを見なさい――すぐにわかるから!」
リルルの方を見たデルモンが、気づくはずはなかった。
北の方向でカッと
「――――――――!!」
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