「薄桃と紫陽花、咲き誇る」
「あにゃ?」
気絶から目覚めたクィルクィナが最初に感じたのは、後頭部の奥に
廃劇場の
そんな姿勢のままで目を覚まし、息苦しさにクィルクィナは体を起こした。
「あにゃ……なんであたしはこんなカッコで? ……いてててて」
横を見ると、背もたれの部分を
自分はここでなにをしていたのか……ああ、確か、
「うにゃ? エヴァレー?」
――エヴァレーが、いなかった。
……確か、そのエヴァレーが用を足したいからと立ち上がって、勝手に行ってくればと自分は興味もなく生返事をし、その時に姉のフィルフィナから魔法のイヤリングでの通信が入り――。
記憶は、そこで途切れていた。
「――んにゃっ!? 魔法のイヤリングが
現状を姉に報告しておかないと非常にマズい、という
これだけ材料がそろえば、結論は一つしかなかった。
「エヴァレーがあたしを
それについては、確信があった。
「こ……殺される……」
どちらの選択が少しでもマシな結果を生むのか考えるが、どちらも結末がそう変わりはしないだろうということに、クィルクィナは心底、絶望した。
◇ ◇ ◇
薄桃色のドレス姿のリルルが抱える短身砲が、その砲口から赤と青の色が絡まり合うような炎を
砲といっても精度など望むべくもない短い砲身、それがロクに
地上を歩く目標ならまだしも、空を飛ぶ相手にそんなものが直撃するはずがない――デルモンの判断は常識的であり、実際正しかった。
リルルが発射したものが、通常の砲弾でなかったということをのぞけば。
「ううっ!?」
明らかに直撃ではないその弾道を読み、回避運動もしなかったデルモンの目の前で、細い
「なにぃ――――!!」
末端に数十個の
突風で体に吹き付けられた大きな布かなにかのようにそれは体に
「――ふん!」
立ち上がったデルモンが、体に絡んだ鉄鎖を体を伸ばすだけで引きちぎる。重量物を
「――いやあ、お嬢さん! びっくりしましたよ! なかなか面白いオモチャをお使いになるようだ!」
デルモンはもう飛翔する気はなかった。後ろからは自分を
その面倒くささを考えれば、うっとうしく
「あなた、昨日の戦いで私が復活するところを見ていたでしょう? 私がどういう性質を持つ存在なのか、知らないわけではないのではないですか?」
「――体のどこかにある
「ご名答です。で、お嬢さん、私の核がある場所は、
リルルは首を横に振った。
「ダメですねぇ。相手の倒し方もわかっていないのに、
「逃げるわけにはいかないわ」
「そうそう、その無謀で無意味な闘志が、身を
「――そう簡単に、
「相棒のいう通りですわ!」
「お初にお目にかかります、悪魔様。
軽やかなカーテシーを
「これはこれは、また美しいお嬢さんがお一人増えましたか。いえ、私にはそのメガネの魔法は効きませんよ。まあ、貴女たちの顔がわかったといって、どういうわけでもないのですがね」
「それは嬉しいですわ。正体を隠すためとはいえ、この
サフィーナがにこりと笑う。
「ははは、新しい片割れはなかなか面白いお嬢さんだ。――いいでしょう、貴女たちの首をもぎ取って、私の
「サフィーナ!」
「わかっています、リルル」
広げた
しかし、その先端についているのは、
その異様さを認め、突進し
「核があるとすれば、頭か心臓――それか、腹!」
長柄を両手で
「ぐっ!」
リルルが体重の全部を乗せて突き込んだ
内部をすり
あらゆる物体をその高熱で溶解し
「くぅっ!!」
「うう、う……!!」
爆発の力は、その全てが前に向かって
「ううっ……!」
「サフィーナ、大丈夫!?」
「平気ですわ……私は快傑令嬢ですもの……!」
小さな家
「ど……どうかしら……」
向こうの景色まで
「――くーっふふふ!!」
そのまま倒れるかというほどに後ろに大きく
「ざぁんねん! 私の核はそこではないのですよ。本当に面白いオモチャを次々出してくださる!
「――オモチャは、一本で終わりではないわ!」
リルルが黒い腕輪からもう一本を取り出す。
「サフィネル!」
「ええ、リロット!!」
呼吸を合わせ、サフィーナが傘を前に
「今度は!」
だが、デルモンは
「クククク、ククククク!」
心臓――そんなものがこの悪魔にあるとしたら、だが――の位置に
「ハズレ! いやあ、そこでもないんですよねぇ!」
胸に空いた穴はたちまちに
「――さて、あなた、そのオモチャはあとどれくらい残っているんですか? その右手首の黒い腕輪は、異空間から好きな時に中の物を取り出せるが、容量は無限大ではないことも知っています。――その長柄の武器なら、あと一本というところでしょう?」
「――そうよ!」
三本目――最後の刺突爆雷をリルルは取り出し、それを両手で握って前に向けた。確実に悪魔の核を破壊できる武器は、これでもう品切れだ。
「リルル、それでどこを狙うの」
「――腹」
再びサフィーナがリルルと肩を合わせる。泣いても笑ってもこれが最後の突撃だ。
「思いつくのはそこくらいしかないわ」
「それもハズレだったら?」
「死ぬだけじゃない?」
笑いもせずにいってのけたリルルの答えに、サフィーナは心から
「上等――私たちの覚悟を、あの悪魔に見せてあげましょう」
生も死も、相棒とならば共にするのもそれでよし。
「――あとリルル……これが最後かも知れなければ、あなたに謝っておかないといけないことがひとつあるのだけど」
「なに?」
「私、ニコルとキスをしちゃいました」
「なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!?」
思わず、リルルは刺突爆雷の標的を変えそうになった。
「大丈夫! 私が強引にキスをしただけ! ニコルの意思ではないから!」
「全然大丈夫じゃない! ――い、生き残ったら決闘だから、覚えておきなさいよぉっ!」
「素敵なお話! 是非そうしたいわ!」
微笑むサフィーナと泣くリルル、二人の少女は
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