「園遊会・その四」
「……
「
「貴方の事情なんて知るわけが……」
「自分はあのゴーダム公のご
「……今、なんといったの?」
聞こえていないわけはなかったが、理解できる話ではなかった。エヴァレーを取り巻いている少女たちの顔が
「これは決して、サフィーナ嬢を
「……貴方、気は確かなの? それとも口から出任せをいっているの?」
「全て事実ですわ」
背後からの声に、エヴァレーの目が
「サフィーナ様!」
「ニコル、お久しぶりです。今すぐ手の甲にキスをしていただきたいところですが、ここが最高に面白いところですから少し
ニコルにとってはある意味、この瞬間では一番会いたくない少女を目の前にして、その顔が一瞬で真っ赤になる。そんな少年の愛らしい表情に
「
「っ!」
サフィーナの
「私という妻付きの、未来の公爵の地位を
「あ……貴方……本当にどうかしているんじゃないの……」
「ニコル、そろそろご説明はよろしいでしょう」
「は、はい」
顔の全部を
「さ、リルル嬢、貴女の番ですよ」
「は、はい」
自分は前座だといわんばかりにサフィーナは
「……ニコル、今の話、本当なの……?」
「話す必要がないと思ったから、
「……ううん、そんなことはないけれど……」
「フローレシア、お手を」
サフィーナの手にしたのよりもほんの一拍長い時間、ニコルは唇をその手の甲に押し当てた。リルルの足が下がり、ニコルも呼吸を合わせて立ち上がり一礼をする。
「サフィーナ様、いつの間にリルル様と……」
「
「じゃ……邪魔だなんて。私も、その、お友達が少ないものですから……サフィーナ様と親しくさせていただけるのは、もう、
「よかった! それでは行きましょう。リルル様を父や母に紹介したいですから!」
「は、はい」
声を弾ませ、リルルとニコルを横に並べるようにして進ませてサフィーナは歩き出す。その
胸の中を、黒く重たいものが渦巻いていた。
「――私の顔を
竜が
「その胸の
◇ ◇ ◇
広大な
国王の
優美な
白い将官用の制服に金モールが入った厚く紅いマントを
ヴィザード・ヴェル・ザラード――『ヴィザード一世』と
三十歳を少し過ぎたくらいの、重厚な
身長百八十セッチメルトを超える
国王が国内の、城外における公式の場に出席するのは実に数ヶ月ぶりだった。外遊中に巻き起こった事件とその収拾による混乱のため、貴族主体の
二千人を超える群衆が打ち鳴らす拍手の音に
万雷のように鳴り響いていた拍手は、国王の手が軽く上がると、機を同じくして全てやんだ。
「――ありがとう」
髭に飾られた口元が笑みを作る。威厳の中にどこか
「まずは、忙しきところを集まってくれた
拡声魔法の働きのため、国王の声は薔薇園の全体に響き渡った。
「王城、王都の損傷も修復され、後は
リルルはまた――周囲の人間とは別の想いを抱きながら、それを聞いていた。
もしもあの『竜の事件』が
その象徴でもある一人の男性のことをリルルは思う。
その名を忘れたことはただの一日とて、ない。
演説はそれほど長くもなかった。手元に
「――では、
十六歳の誕生日を迎え、この園遊会が社交界への
一人につき三十秒あるかないかという、
おおっぴらな移動こそなかったが、両隣と声を落として語り合うひそひそ声の集まりが
約三十分を
サフィーナが左に歩を進めて壇を下り、入れ替わるようにリルルが登壇する。
国王直々に
「初めてお目もじかなう光栄に
「そなたに会いたかったよ、リルル」
カーテシーを披露したまま、リルルはその声に固まった。顔を上げることすらできない。わずかに目が上を向いただけだった。
「ベクトラル伯のこと、聞いている。――悲しい想いをさせたな、リルル」
緊張に強ばったリルルのアイスブルーの瞳に、国王のにこやかな笑いが映っている。
その口から出た名前、言葉――その全てを理解するのに、リルルには一分の時間でも足りなかった。
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