「園遊会・その三」
そこに立ちはだかっていたのは、純金の金塊が放つような深く輝く濃い金色の髪を、腰の高さまでまで波打たせる少女だった。
髪飾りで押さえられた髪が広く見せている額、その光る白さが、理知的な印象をうかがわせる。
「一年と少しぶりね、リルル。卒業以来だわ」
「……エヴァレー」
同年代の子女を六人、まるで親衛隊よろしく
勝ち気しか見えない
「エヴァレー様、でしょうが。おさかな令嬢ごときが、公爵令嬢様に何様のつもりなの?」
「さっさとその高い
全員がこの園遊会で
そんな針のような言葉の数々を、そよ風でも受けるかのようにリルルは流した。
実際、かすり傷ほどの
「リルル、
「そう?」
確かに目の前の少女、エルカリナ王国に属する貴族の中でも、名門中の名門であるザージャス公爵家、その一人娘のいうとおりではあった。
学校の中ではフィルフィナの
あまりに度が過ぎているものに対してはフィルフィナが校外で介入してくれたが、いじめ勢力の親玉であるエヴァレーには手は届かなかった。肩で風を切って校内を
その
「そして、そこにいらっしゃるのは、王都の学校にも
「お初にお目にかかりますわ、ザージャス公爵令嬢様」
サフィーナが
「貴女のことはお
お前のことだ、とサフィーナの
「正解でしたわ。あなたのような方に
「――ふん、家に少し力があるからといって……」
「それは、お互い様のお話でありますよね?」
名門公爵家、それぞれの一人娘同士の視線が正面から激突する。その少しも笑っていない目から発せられる見えないものが
「……おさかな令嬢と田舎令嬢、えらく仲がいいようね。どういう
「ええ、私たち親友ですの。ですから、リルルが
「――後で覚えておくのね、リルル。一年間逃げ回れていたようだけれど、また可愛がってあげるから」
「リルル、あの方とは
「因縁、というか……」
人の波を割るようにただまっすぐ進んで行く一団に、リルルは言葉を
重いため息を
「……私の顔が?」
「いえ、あなたのお顔、目を見ていて、思ったものですから」
小首を傾げたリルルに、それはそれは面白そうに公爵令嬢はいってみせた。
「『私は切り札を持っているぞ』という目をされていましたわ」
リルルの胸がひとつ、裏側から不規則に
「……不思議な
ごめんなさい、といいながらサフィーナは笑う。悪意のかけらも見えないその笑みに、リルルもつられて微笑んだ。微笑むしかなかった。
「リルル、あの方を
「あ……は、はは……。そんなことはない方がいいと、思っていますけれど……。あれ? フィルは?」
さっきまでいたはずのフィルフィナがいないことにようやく気づいてリルルは周囲を見渡す。そういえば、エヴァレーもフィルフィナの存在に気づいていなかった――。
「ここです」
「うわぁ」
リルル自身の影から浮かび上がったように、フィルフィナが背後に現れる。
「フィル、あなた、面白い技をお持ちなのですね?」
「――親友であるサフィーナには、お教えしておきましょう、わたしの秘密を」
「秘密?」
フィルフィナはかしこまりながら髪を――
サフィーナの瞳が一度、大きく
「ご気分を害しませんでしたか?」
「……いいえ、別に私、あなたの種族に
「こちらこそ」
両手を
「あ……ニコルは?」
リルルがその存在を思い出した時、ニコルはちょっとした危機の中にいた。
◇ ◇ ◇
「
リルルたちを連れてくる――その名目で一時ゴーダム公爵たちと別れたニコルは、すれ違った貴族の子女と
「自分でしょうか?」
「ニコル・アーダディスよね?」
これで自分の名前を向こうから呼ばれたのは何回目だろう。百回を超えていそうだった、
「左様です。失礼ですが……」
「エヴァレー・ヴィン・ザージャスよ。一度で覚えなさいね」
六人の令嬢を、まるで従者のように従えた豪奢な
「公爵令嬢様の前で平民の騎士ごときが礼も示さないとか、わきまえなさい。今すぐひざまずくのよ」
まるで訓練を受けているかのようにクサビ型の隊列を
「できません」
「はぁ?」
「自分がひざまずく相手は限られています。公爵令嬢とおっしゃいますが、自分の直接の主君でもありません。ましてや王族の方々でもない。自分にその義務はないものと考えます」
「はぁぁぁ?」
「
「はっきりとものをいうのね。
またその話か、とニコルは瞳を陰らせる。リロットやフィルフィナの
その誤解を
「失礼いたします、これからフォーチュネット令嬢の元に向かわねばなりませんので」
「リルルに仕えているの、貴方。つまんない主君を持っているのね」
ニコルの
「その
「ゴーダム公爵家の方々からは、家族同然の身として迎えられています。大変名誉なことだと思っています」
「その可愛らしい顔で
「なにをおっしゃっているのか、わかりませんが」
「男を
今度は少年の眉が危険な角度に変わる。それを理解しないのが少女たちの幸運だった。
「申し訳ありません、自分にはよくわからないことです。失礼させていただいてよろしいですか」
「もう一つの徽章は、フォーチュネットの騎士団所属を示すものよね――あんな領地のひとつも持っていない家に、軍勢も何もあったものではないでしょ。それってオモチャなわけ?」
「確かにフォーチュネットの騎士団は自分一人だけの騎士団です。自分がその騎士団長ということになっています」
「よくもまあ、そんなおままごとみたいな恥ずかしい真似ができるわね」
ふん、とエヴァレーは鼻を鳴らし――次に、とんでもないことをいい始めた。
「貴方、ザージャスの騎士団にいらっしゃいなさいな。ずいぶん評判みたいだから、うちで
「え…………!」
取り巻きたちの声がざわめいた。
ザージャス騎士団の入団といえば、騎士階級の人間にとって
「――お
ニコルの顔が笑顔に変わり、それを見たエヴァレーも微笑んだ。
少年の笑みの意味を、完全に読み違えた笑みだった。
その考え違いの
「ですが、
「はぁぁぁ?」
エヴァレーの声が、
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