第四部「悪友令嬢は偽りのドレスを着て舞い降りる」
プロローグ
「狙われた宝飾店」
エルカリナという名の街がある。
世界でも指折りの強大国・エルカリナ王国の首都、王都であり、中核都市でも人口百六十万、衛星都市を加えれば三百万を
商業においても活発な機能を有するこの都市は、夜更けに至っても真昼のように輝き続ける、不夜城という表現が
王都の西部の一角を占める広大な
明るすぎる街灯が
大通りに人通りは絶えず、客を呼び込む声があちこちから飛び、ところどころで
太陽が落ちても星が見えない世界。外からやってきた人々は、目撃した王都エルカリナの繁華街を、そう
――そんな、ある日のこの繁華街において。
今夜のこの地は、緊張しきった役人たちが
◇ ◇ ◇
時刻、午後十時。
住宅地であればもう、ほとんどの家屋の明かりが消える時間だ。
ひとつ南の
この時間は、やや薄暗い街灯に照らされた大通りを、人目を忍ぶように歓楽街に向かう馬車が行き来するくらいの
――あった、はずだった。
ほとんどの建物が暗く静まりかえる中、池の
その店先には、数台の
通りかかった者たちは何事かあったのかと興味を引かれ、集まってくる野次馬たちを警備騎士団の隊員たちが追い払う――そんな光景がこの場では続いていた。
そして、とても夜とは思えない
「ど……ど、どういうことなんですか」
王都
まるで
「どういうことなんですか、これは、いったい、もう、なにが、なんやら…………」
「なにか、
「う、うちは真っ当な経営を心がけていますです、はい、それは、もう」
「反社会的な集団と、なにか付き合いがあるとかは?」
その場で
「これまで
「そ、そそそ、そんなものなんてありません! う、うちが、やっているとしたら、常識の
「――夜が明けたら、
「あああ」
口を
「よう、聴取は終わったか、ニコル」
「ラシェット先輩」
若い騎士――ニコル・アーダディス准騎士が、自分よりいくらか背の高い准騎士に振り返ってみせた。兜の
「これといって変わったことはありません。普通の宝飾店です」
「王家
「ええ……わかりませんね」
わからない、わからない――わからないことだらけだった。
「どうして、
二人は考え込んだ。
――快傑令嬢リロット。
王都に立ちこめる黒い霧を吹き払う一陣の風。
法の裏を
いまだその正体は不明、私利私欲を捨てて王都の平和を守る、
だから、彼女が
なのに。
「
「ええ……違うと思います……」
うずくまっておいおいと涙を流している総支配人を前にし、二人の准騎士は言葉を交わし合った。
――王都を
その間、快傑令嬢リロットは何度か王都に
王国の内情を探りに来た他国の
なんということはない、ありふれた日常の事件ばかりだった。
ただ、彼女を逮捕するという使命を一応は帯びている警備騎士団が、その
『竜』の事件においても、ニコルは昇進しなかった。本来、正騎士どころか一気に上級騎士に
加えていえば、その解決に関して大きく
が、警備騎士団の全員が事実を口にすることはできなくとも、ニコルの働きは理解している。警備騎士団団員から受ける信頼、それは形になるものではなくとも、ニコルにとっては何物にも代えがたい『利益』だった。
――それは、ともかくとして。
「狙われる対象はどいつもこいつもうさんくさい
二人は同時に手帳を取り出し、
『今夜半、宝飾品専門店『ゼラージュ二世』に参上し、宝石を
「うーん……」
二人で
「なんかこれは、飲み込みがたいというか、認めがたいというか――」
苦い物を口に含んだようにそこまで口にしたニコルが、大きく目を見開いた。
「――――ふ」
その球体の先端で、チリチリと音を立てて燃えている
「――
耳を閉じ口を開け、ニコルが装甲馬車の
真っ赤な爆炎が、繁華街の通りで咲き誇る大輪の花となって開いた。
横っ腹を見せていた装甲馬車の一台を
空気の全てが大音響に
大通りを明るく照らしていた街灯のガラス
朝焼けを受けた早朝くらいには明るかった街が、あっという間に暗くなる。建物から
音に対して
「な……なんだ……」
盾にしたはずの馬車が馬ごと浮き上がり、暴走し出したそれに
爆弾の爆発、そのたった一発で、繁華街の大通りは文字通りの
「あ――――っはっはっは!」
脳を叩かれ、
「あ…………れ、は…………?」
闇色の空に、
胸元から上、首元から鎖骨の全部を見せる
腕を
「リロ……ット……?」
泥のように
「……い……や……」
はっきりと動かない頭でも、わかることがあった。
起き上がることができないニコルの前で、その少女は片足を引いて上体を前に傾け、広いスカートの
「――
片方の
「快傑令嬢リロットは――予告通り、ただいま参上いたしましてよ!」
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