「水色の瞳の騎士」
巻き上がった
が、男たちも場慣れしていないわけではない。立ち直りもまた早かった。
「おっと、動くなよ!」
合図も指示もなしにコナスの後ろに回った一人が、抜いた刃物をコナスの首筋にぺたりと当てた。
「
「その手の剣を捨てろ!」
他の男たちも短剣を抜いている。
冷静な視線を向け、ニコルが
「捨てろっていってるんだ!」
「ニコル君、僕のことはいい! この男たちを成敗してくれ!」
「おめぇは
コナスの首筋に刃を当てている男が、
ニコルの反応もまた、早かった。
「わかった! 武器を捨てる! だから殿下に乱暴するのはやめるんだ!」
「剣を足元に置け! ゆっくりだぞ!」
いわれたとおり、ニコルが足元に剣を置くために体をかがめた。
「ついでに拳銃もだ! 持ってるんだろ!」
「――――」
体が
「立て! その二つをこっちに
素直にニコルが従う。爪先で蹴られたレイピアと拳銃が床を
「ああ……だからいわんこっちゃない……」
あっという間に武装を解除されたニコルの姿に、コナスが重い息を
「聞き分けがいいじゃねぇか」
「っ」
ニコルの後ろに回った一人が、少年の腕を後ろ手にねじ上げた。
「あっさりだな」
全ての自由を
「なんだ、まだガキか。…………えらい
絶望に左目を閉じていたコナスが、違和感にその目を開けた。
「男か? 女か?
「最近は
「どっちでもいいじゃねぇか。この美形なら、むしろ男の方がそそるってもんだろ」
「そうだな。ここで全部脱がして裸にするか」
「お前ら順番は守れよ。俺からだからな」
「おいおいおいおい」
話が奇妙な方向に
「君たち、ちょっと待ちたまえよ」
「ああ!? なんか文句あんのか! この国じゃ同性愛は罪に問われないんだぞ! それとも同性愛者を差別するってのか! この差別主義者が!」
「問題はそこじゃないだろ。無理矢理
コナスの
「おい、
「僕はフローレシアじゃない」
「俺たちがフローレシアにするんだよ。大人しくしていたら優しく
「わかった。
「いい子だ。じゃあ、味見からさせてもらうかな」
顔の全部を
風が吹いたのは、その瞬間だった。
「っ」
……風? この、閉鎖された空間で?
「かへ?」
風、といおうとして男は、二つのことに気づいた。
上手く
もうひとつ。
「あへ?」
回るべき舌は、足元に落ちていた。なまめかしく見える濃い桃色の物体が、ひくひくと、ナメクジかなにかのように動いていた。
理解は、痛みと同時に起こった。
「ひやあああああああ!」
一瞬遅れて
「なにをしてるんだ! こいつに手出しさせるなよ!」
ニコルの両腕をねじり上げている男が叫び、自分の発言の
「くっ!」
肩から先に
「こいつ、俺の手を振り
いってみて、それが正確な表現でないことに気づいた。自分の手は、少年の腕をつかんだままだ。二メルト先につんのめったニコルの背中を、見てもそれが確認できた。
「――はれ?」
手が、なかった。
いや、手はある――目の前のニコルが、自分の腕をつかんでいた手を地面に投げ捨てた。捨てられた手は面白いくらいに床を
――あれは、俺の手か? つまり、今、俺の手首から先は――。
「ぎゃあああああああ!」
両方の手首の断面から
「な、なんだ、いったいなにがど」
コナスの首に刃を当てていた男が体を起こし、首の両脇を
それも、ふたつ。
首を右前から右後ろ、左後ろから左前、往復するように駆け抜ける風。
「うなっ」
瞬時、意識が弾けた。頭が軽くなった、という最後の知覚を感じながら、男はコナスの脇に倒れた。
「……これは……!」
首の脇、
「ぎゃあ!」
「ぐぎゃあ!」
「な――ど、どどど、どうなってるんだ……!」
最後に残された男が足をもつれさせ、壁に背中を打ち付ける。そのまま壁に背中を
『風』の正体は、すぐに知れた。
「――――」
ぶん、と震える音が空気を揺らして走り、ニコルの髪をひとつ、ふわりと揺らして少年の前で止まった。
ニコルが捨てさせられていたはずのレイピアが、
信じられないことだが、信じる他はなかった――この剣がひとりでに空間を飛び回り、見えない刃の風となって
「俺が悪かった! 許してくれ!」
ニコルの冷たい視線を受けて、最後に残った男が地に
わけのわからない
「お、俺たちも、好きでこんなことをしてたんじゃない! いうことを聞かなければ殺すと
「あっ、すまない!」
地面にひれ伏し文字通りに床を額で擦っている男、その背中に剣を突き入れたニコルが声を発した。
剣の切っ先を背中に埋め込まれた男の
「この角度で剣を入れるのは、
ニコルがレイピアを引く。
「以前、君のように命乞いをする
用心深く男に近づいたニコルが、ほとんど
今度は、失敗はしなかった。
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