「勝利者の敗北」
「か……空っぽの
「だって、そうだろう」
椅子の
「その世界で君が得られるのは、敵だけだよ」
後ろ手に縛られ、見下されているはずのコナスは
「誰もが君を憎み、その死を願い、君は誰かの前で眠りこけることもできない。ああ、いい当ててみせていいかい? 君はそこにいるけれど、その城に誰か一人でも『他人』がいるかい?」
目を
「いないだろう。君は誰も信じていないからね」
「――お前も似たようなものだろう、コナス!」
「僕には友達がいるよ」
「地位と金に
「それがそうじゃないんだなぁ。まあ、信じてくれなくてもいいんだけどさ」
ククク、とコナスが笑った。
「少ないけれど、僕には友達がいる。僕が『伯爵だ』と名乗っても、冗談だと思って笑い飛ばしてくれた友達が三人だ。君はカビ臭い物置で、腹の底から笑い合いながら誰かと安酒を
「――――」
「
カデルがなにかを叫ぼうとその口を開く。が、声は出ない。そんな少年に、コナスは悲しげに
「……君の行動が、母上の
「……私、は……!」
「悪いことはいわない。その玉座から離れるんだ。君がしでかしてしまったことは、罪は大きい。しかし今なら、僕は君を
「――この負け犬が、なにをほざくのか!」
カデルが立ち上がった。その顔から冷静な仮面が
「貴様は二百年前に負けた、ベクトラルの
「……僕にとっては、ベクトラルの家とか王家の血筋とか、そんなものは、本当にどうでもいいことなんだよ……」
カデルのどのような言葉も、コナスの心に傷一つつけはしない。たとえその表面に激突しても、曲面を
「できれば、それに
「お前たち、その男を殺すんじゃないぞ!」
コナスを囲んでいた荒くれ者たちが、電気を受けたようにその背を震わせた。
「……その男には、死より耐えがたい苦痛を与えてやる。あの娘ふたりを捕らえ、
青い幕が、霧が晴れるように消え失せた。カデルの気配もなにもかもが消滅してなくなった。
コナスが深い息を
「――なあ、どうする」
ざわめき出した男たちが、顔を見合わせ始めた。
「決まってるだろ。あんな
この荒くれ共すら
「おい、豚。俺たちはここから退散する。でもな、お前のふざけた
「こっちは母親や家臣も大勢殺されているのに、全然
「
「……ありがたくて、本当に涙が出るね」
「そこの
少し離れた場所に横倒しになっている大槌を、男は
「おいおいおい、そんなもので人をぶん殴る気なのかい。やめてくれよ。せめて拳銃かなんかで」
「弾代がもったいないんだよ」
「たまんないなぁ」
心からの思いに苦い顔をしたコナスの横で、大柄な男が大槌を地面に水平にして構えた。
「一分やる。祈れ」
「せめて五分くれないか。短すぎるよ」
「……二分だ! グズグズさせるな!」
「仕方ないなぁ」
まったく、と呟きながらコナスはうつむき、左目を閉じた。
「……
男たちがイライラと時間を計る中、コナスの祈りはそこで途切れた。
「……なんだ、僕も
「それじゃ、いいな」
「上手いことしてくれ」
万が一しくじられた時の悲惨さを考えて、コナスは頭を起こした。的確に当ててもらえれば即死できるだろう。
せめてみっともない声だけは上げるまい、とコナスは歯を食いしばった。
「行くぞ――」
大柄な男が腰をひねる。風が巻いた瞬間、終わる命のことを思ってコナスはさらに、
――そして、
「ぐぎゃあ!」
なにかが爆発したような音が響き渡り、悲鳴が
そのまま大きな体を
「…………あれ?」
自分が死んでいるのか生きているのか、それを確かめるのは
足下に、ハンマーを握ったまま細かい
数十セッチメルトも見通せないような
コナスが目を
小柄な体格に銀色の
「――国王代理殿下! お助けにあがりました!」
「君は……ニコル君……!」
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