「地下へ」
「……閣下! ぞ……
「報告は
ノックも
「快傑令嬢リロットがハーピーの娘をさらっていったのだろう」
「な……何故、ご存じで……」
まさにその急報を
「そこの窓から見えたのでな」
首を
「娘らしきのが二人、窓いっぱいに飛んでいくのが見えた。
「お……おっしゃる通りで……」
「
「――どういたしましょうか」
イェズラム公爵の片目が開いた。昨夜から閣議室に詰めっぱなしのシェルナ侯が言葉を
「あのラミアがいなければ、第三次の突入ができません……道案内のシーファがいなければ現場にはたどり着けないのです。
「そうか。ならば、彼女たちが第三陣というわけだな……」
シェルナ侯と衛兵が顔を見合わせた。
「考えてもみたまえ。何故リロットが今、あの二人を必要とするのか。まさに
「なんのために」
「以前、警備騎士団団長、ランバルト公爵から話を聞いた。リロットと直接話をしたことがあるらしい――ああ、これは
イェズラム公爵はその話を聞いた時のランバルト公爵の顔を思い出す、嬉しそうな、なにか安らぎを得たような顔をしていた、彼は。
「……快傑令嬢リロットは、王都の平和を守る正義の味方だそうだ。彼女が動く時、それは全て王都のためになる――と」
「しかし、リロットは指名手配犯です!」
衛兵が
「……副作用のない薬は存在しない。正義を示すには、法を
事態は少しも
「今は彼女たちの行動を見守ろう。どのみち、手段もなかったしな……」
◇ ◇ ◇
泣き
地上の人々が
「来たか」
人気のない
「シーファ、シーファ! よかった、生きてた! シーファぁ!」
「……どうした?」
その姿を認めるや
「もう
「……お前、メイリアにどういって連れてきたんだ?」
「あはは……」
泣き声の
「メイリア。よく聞け」
シーファがメイリアの体を離す。涙と鼻汁でベトベトになっている妹分の顔をハンカチで
「私たちは、これからまた地下下水道に
「シーファ……また危ないことをするんだ……。どうしてもしないとダメなの……?」
「これが私の仕事だ。メイリア、『
「うん」
「これを」
フィルフィナがメイリアにフード付きの
「姿を見られるな。この時期にハーピーだと知られると、すぐに手が回る。食料も水も運び込んでおいた。私が帰るまで大人しく待っていろ。絶対外には出るな」
「うん……待ってる。待ってるからシーファ、絶対帰ってきてね」
「当然だ」
「ね……シーファ、いつものあれ、して」
びく、とシーファの肩が
「……すまない、二分、時間をくれるか」
「はい?」
「……お嬢様」
リルルの体をフィルフィナが軽く
「フィル、なに……」
「しっ」
シーファとメイリアの方に顔を向こうとしたリルルをさらに制する。その横目が『なんと気が利かない』と無言で
「シーファ……シーファ、
「すぐ帰って来る。心配は
「シーファ……恥ずかしいよ……」
「二人とも向こうを向いていてくれているし、ねだってきたのはお前だろう?」
「……シーファ……ん……」
「……ん、ん……」
会話が途切れ、二人の息づかいしか――何故かとても甘い感じの息づかいしか聞こえて来なくなって、またも振り返ろうとしたリルルの頭をフィルフィナの手ががっちりと固定した。
「フィ、フィル、あれ」
「しっ! 聞き耳を立てるなどと、
「フィルだって、いつもより耳が立っているじゃない」
「……これは少し寒いからです! 寒いとこうなるんです!」
二人の息が
「――すまない、時間を取らせたな」
「あ、いえ、べ、別に、私たちは……」
「――シーファ、ねぐらで待ってるから! 嫌いなお風呂も入って、体をきれいにしておくからね! すみずみまで!」
最後にトドメとばかりにシーファの
「――さあ、行くか」
アザになった
「……私の顔になにかついてるか?」
「い、いいえ! 大丈夫! なにもついてないから!」
「いいのですか? あなたの話を聞いている限り、かなり危険な
表情を隠すことに成功したフィルフィナが
「私にとって人間は、どうでもいい」
言い切った。それが本心のすべてだというように。
「今回の事態もおおよそ、人間の下らない、始末の失敗の結果だろう。――しかし現実、この王都には多くの亜人が住んでいる――人口百六十万の中に一人も数えられていない亜人たちがな」
人口統計に表れない数字。その
「それに、この機に
「やらないよりはマシでしょう」
確認は終わりだ、というようにフィルフィナは視線を向けた。十字になった路地の真ん中の地面に
地下下水道そのものが
まさに。
「――では、
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