「首飾りの鎖がつなぐもの」
フェーゲットの森から
今までに
転移鏡から自分が抜け出してから、今、三分。
その一分一分がとてつもなく重苦しい時間にしか思えず、まだ姿を見せないフィルフィナに
やはり、自分も
「フィル……!」
水面中に
「
「うえっ!?」
言われるままに
「ううっ!」
一秒間、爆圧さえ
十数秒間、その身を伏せ続け――それ以上何も起きないのを確認し、フィルフィナはゆっくりと身を起こした。
「――どうやら、向こうの転移鏡の爆破には成功したようですね……」
「フィ――フィル! 背中!」
「これですか」
背中に突き立った矢を、爆発に巻き込まれずに残った他の転移鏡に映してフィルフィナはこともなげにいった。
背中――背負った
「――
「屋敷の中で、白い髪をした男の子に会ったわ」
フィルフィナの耳が
「当主ですか!?」
「そう名乗っていたけれど、なんでフィルフィナがそれを……」
「――お嬢様、もうあの家に
「今まで相手にしてきた、普通の人間に少し毛が生えた連中とは全く比べものになりません! お嬢様もそれを思い知ったのではないですか!」
「そ……そうだけど……」
今まで戦ってきた相手などは、しょせんはただのならず者程度、遊びのようなものだった――あらがう
――そういえば、あのハーピー娘は何故あんなところにいたのだろう。あのラミアから色々と
「あとできっちり
「ええっ!? 叱るってこれが本番じゃないの!?」
「こんなの
フィルフィナが覆面をかぶり直す。向かった先は転移鏡ではない――外の方だ。
どこに行くの、とリルルが
「……もう、何が、どうなってるの……つ、いつつつ……」
無理な
◇ ◇ ◇
翌朝。
屋敷の中に鳴り響く、玄関の呼び
重々しいベルの音が
カーテン越しに窓の外を見る――まだ
「――敵!?」
フィルフィナは……帰ってきたのだろうか? 帰って来る前に待ちきれず布団に入ってしまったが、起こされた様子はない。
油断だけはしないようにしよう――右手首の黒い腕輪を意識しながら、リルルは
◇ ◇ ◇
「こんな早朝に、突然
玄関前で待っているのは一人だけ――それを確認して玄関の
「あなた、コナス様付きの……」
「ヒィリーでございます。ご記憶に
「どういうこと?」
「先ほど、私たち五人ともが
暇?
「ど……どうして、そんなことに……」
「昨夜遅く、
「っ!」
リルルの
「幸い、お
「――は、あああ……」
リルルの緊張が一瞬で
「ハーベティ様におかれましては、もはや誰も信用できないと。私たちメイドたちの中に手引きをしたものがいるのではないか――強いお
「そ……そんなことが……。あ、あなたたちの身の振り方は大丈夫なの?」
「十分すぎるお
一枚の
「是非、お早めにお読みいただくようにとのことですので、よろしくお願いいたします」
お世話になりました、と再び一礼してヒィリーは去って行った。
「いったい何が……」
玄関に錠をし、部屋に戻るやいなや手紙を開く。紙面を
『やあ、リルルちゃん。突然の手紙失礼するよ』
くだけた出だしに思わず笑ってしまう。まるで本人が目の前で話しているようだった。
『昨夜遅く、眠っているところを暗殺者に
伝えているのはとんでもないことなのに、のんきな
『僕も
その様子が頭の中でいとも簡単に想像できた。とてもひどい状況だったろう。
『それで
ベクトラル領。王都からどれくらい離れたところにあるのだろうか。今まで知ろうともしなかったことに思い当たってリルルは壁に貼ってある地図を見た。
『君がこの手紙を読んでいる
手紙を
コナスの
「どうなることやら……」
「――コナス様からお手紙ですか」
リルルの両肩がバネ仕掛けのように
気配も感じさせず開かれた扉の
「――おどかさないで! 帰ってたの!?」
「ええ、部屋で寝ていました」
フィルフィナは――いつものメイド服ではない。地味な黒いワンピースに身を包んでいる。
「そ、そんなことはどうでもいいの! 昨日の夜、コナス様が――」
「王都からの
その言葉の意味がリルルの脳に
「――まさか、フィル!」
「その暗殺者というのはわたしです」
こともなげにその口からとんでもない言葉が飛び出した。
「コナス様には、領地に隠れていただいた方がいいと判断しました。向こうも安全ではないでしょうが、王都よりマシです」
「コ……コナス様に危険を実感させるために、暗殺を
「少し
「な……なんてことをするの、あなたは……」
確かにそれが
「わたしも、街をおおっぴらに歩くのはしばらく
「フィルの、素性……?」
「わたしがエルフの里の王女であること――どこで何をしているかは
フィルフィナが窓の外を見る。東の空がもう明るい、
「まあ、もう少しお嬢様にはお休みいただいておこうと思ったんですが、よい
「よい頃合いって……なんの?」
「昨日いったではないですか――きつく
ひやっ、と再びリルルの背骨が
「――リルル、そこに座りなさい」
「ひゃい……」
◇ ◇ ◇
「――ない、ない、ない、ない――」
夜を
「ない、ない、ない――見つからない!」
「ニコル、この屋敷にはないようだぜ」
ニコルの探し物に、嫌な顔ひとつせずに付き合っているラシェットが心配そうな表情で訴える。ニコルに探す気があるならまだ付き合う、という風ではあったが。
サフィーナ公爵令嬢から
決してなくしてはいけない、いけないがために強く
「この屋敷に来た時には、確かに鎖が首からのぞいていたものな」
「ここに上がって来るまでありました。と、いうことは……」
もう、可能性があるとしたら、一つしかない。
――盗まれた。
「なんで僕の首飾りなんか……!」
サフィーナから贈られた首飾りは、確かに値打ち物に見えるのは確かだ。
しかし。
「快傑令嬢は、そんなつまらない――いや、つまらなくはないけれど、細かい盗みなんかしないはずなんだ。今までにしたことなんかない――それが、なんで僕に限って!?」
「戦ってる間に外れたにしたら、あの部屋に転がってるはずだしな――そろそろ交替の時間だ。どうする?」
「どうするもなにも……」
交替命令に逆らうわけにもいかない。ここに落ちている可能性も少ない――。
「高価なものなんだろ?
「いや……あれは、弁償とかそういうものじゃないんです。僕に贈られたものなんです。だからこそ、なくしたことをサフィーナ様に告げることなんかできない……いかなる時でも肌身離さず持っていろといわれたのに……」
「快傑令嬢から取り返さなきゃきゃいけないっていうんなら、それも協力するから、な?」
「は……はい……」
背中を叩いてくるラシェットの
「いきなり僕にキスをしてきたり、首飾りを盗んでいったり……いったい何者なんだ、快傑令嬢リロット……!」
「ニコル、なんかいったか?」
「い――いえ! 今行きます、先輩!」
できれば見つかるまで探していたいという
「サフィーナお嬢様……すみません、ロシュ……ごめん!」
◇ ◇ ◇
正午にまで
「……あれ?」
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