「祭の跡」
リルルを
全員が急所を
ムチを小さく払って
「この者たち――いったい、何者……」
手口からして、コナスを
「……一人を
早速気が付こうとしているのか、偽快傑令嬢の一人がうめきを上げて身をよじっている。ともかく
「危ない!」
耳に
宙に突然、
「なっ――――!?」
世界に光という
「…………!」
街の
消えたのは埋め立て地の地面だけではない。地面に倒れ
「――お嬢様!」
「フィル!」
混乱に
「お嬢様、お怪我はありませんか?」
「平気よ、助かったわ……でもあれは!」
コナスと共に
「わたしにあんな
「仲間……?」
大型天幕の外も中も悲鳴と
あの中に、フィルフィナがいう『仲間』がいるというのか――見分けがつかない。誰もが敵に見えず、しかし
「いったい、誰がこんなことを……」
「
事態の飲み込めなさに戸惑うリルルに対し、フィルフィナは対策の方に思考を向けていた。
「敵の姿が見えない以上、ここにコナス様を
馬車の手配をして来ます、といってフィルフィナは
コナスは……リルルのちょうど頭の上だ。天幕のへこみ具合でわかる。彼をあの高さから下ろす
「敵……」
地面を
こんなことをしでかしてしまえる相手を敵に回してしまっている――今までに感じたことのない恐ろしさに、リルルの背筋は小さく震え続けた。
◇ ◇ ◇
「や、やああ、参ったよ……」
揺れる馬車の中でコナスはいつもののんきそうな口調を
馬車は埋め立て地を本土をつなぐ橋を渡っている。馬車の中にはリルルとコナスだけ――
「今は誰も信用できませんから」
馬車はあとで取りに来て下さい、と御者を遠ざけ、馬車に爆発物が設置されていないことも確認する用心ぶり。リルルとコナスを馬車内に押し込み、フィルフィナは手綱を振るって馬車を走らせた。
橋を渡る速度が速い。後方に
「コナス様、傷は痛みますか?」
「正直、痛むね」
額に
「彼女に
「あれは、フィルの故郷で作ってる
エルフの里で作っている軟膏――
熱を持つ傷のうずきに歯を食いしばりながら、コナスは平静を保っていた。その意志の強さにリルルは驚きを隠せず、意外だ、と感じる自分の思いを失礼であると
「同好会のみんなにもなにもいわずに出ちゃったなぁ……みんな心配しているだろうなぁ」
「そんなことより、
リルルの方が
「最近、
「じゃあ、いったい誰が……」
「僕の命を
口の
「コナス様……?」
「いや、うちも、昔は全くもめ事がなかったわけじゃないよ」
そこそこの速度を出しているはずのラミア列車を馬車は追い越していく。フィルフィナの馬さばきは、休日午後のそこそこ空いている大通りを
「でも、そんなことはどこの家でもあることさ。
馬車が大きく揺れてコナスの体が振られる。リルルがその体を受け止め――かばった腕がコナスの傷に包帯の上から触れた。
「すみません!」
「いや、気にしないで。それより君に怪我がなくて本当によかった。僕はそれだけで満足だよ……ううっ……」
「汗が……」
リルルはハンカチでコナスの額から
これ以上の
◇ ◇ ◇
ベクトラル伯邸に到着したリルルとコナスを待っていたのは、コナスの母・ハーベティの爆弾なみに
「どういうことなのかっ!!」
取りあえずその体を横たえよう――屋敷の者五人がかりでその抱えられたその巨体、必死の形相で運ばれたコナスが自室の
「これはヴォルテール家の
寝台の脇でハーベティが
「母上、それはないでしょう。あの家と
「いいや、いまだにあのことを
思い当たるところがあるのか、
それがいつ切れるのか、ハラハラしながらリルルは見守るしかなかった。
「
「まだなんの証拠もないではないですか。せめて、なんらかの裏付けを取ってから……」
「コナス! お前はこの件が片付くまで屋敷から外に出ることは許しません! ……ああ、
「あの」
「エルカリナ王家の血を引く大事な体にこんな傷をつけて……! この
「あの」
リルルの呼びかけを完全に無視してハーベティは部屋を飛び出していった。相手にされていない感にリルルはまたも頭痛と敗北感を覚えた。
「リルルちゃん、聞いてのとおり外出できなくなっちゃったよ。頼み事を聞いてもらってもいいかな」
「は……はい、なんでしょうか」
「同好会のみんなに、僕がしばらく顔を出せないことを伝えて欲しいんだ」
なんの説明もなく埋め立て地に置き去りにしてきた三人組のことを思う。あり得ないとは思うが、あの三人の中に犯人がいるかも知れない――その捨てきれない可能性。
「母上があの調子じゃ、次にいつ外に出られるかわからないからね……」
「わかりました。そのくらいならお安い
「リルルちゃんも一応、身の周りに気をつけて。巻き込まれることはないとは思うけれど、なにがあるかはわからないからね……ううっ……」
「お嬢様、あまり長い話は体に毒です。そろそろお休みいただいた方が」
フィルフィナの
「なにか変わったことがあれば、手紙を
「わかりました。コナス様、ゆっくりお休み下さい」
「あ……ありがとう、リルルちゃん……」
ああ、と声を上げてコナスが意識を失った。すぐに深い呼吸を
フィルフィナがさりげなくコナスの手になにかを
「心配には
ベクトラル家の使用人たちがあたふたとしているのに
屋敷を出、専用の笛を高らかに二回鳴らすことで二頭のケンタウロスたちを呼び、その背にまたがってリルルたちはフォーチュネット
◇ ◇ ◇
「どうも、面倒なことに巻き込まれたかも知れませんね……」
屋敷に戻っての、フィルフィナの開口一番がそれだった。
「わたしはこの件の裏事情について調べてきます」
「裏事情って……なにか手がかりがあるの?」
私服を脱ぎ捨て、元のメイド服に戻ったフィルフィナの姿が何故か新鮮に映った。
「ヴォルテール家、といっていましたね。コナス様は三十年以上前のことだとおっしゃってらっしゃいましたが、原因としては当たっているかも知れません」
「ハーベティ様の、
「コナス様のような方が命を
それはフィルフィナ流の
「……フェーゲットの森の、ヴォルテール家……」
フェーゲットの森――王都の北方、さほど離れていない距離にある深い森だ。
木々が密集して。昼間でも暗い森林地帯。とても人が住める場所ではないはずなのだが、そんなところに誰かが家でも持っているというのか。
「――お父様に聞いてみよう、なにか知っているかも……」
誰かが殺されそうになっていて、その犯人が見えない。また狙われるかも知れない――コナスのような根が善良な人間の危機をそのままにしているわけにはいかない、そんな正義感に
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