「真実の証はただひとつ」
「僕たちに、なにか
日常で聞くのと同じ冷静な声で伯爵――コナスが問う。
「その手に握っているレイピアはどうやら真剣に見えるね。その手の物の持ち込みは禁止だったと聞いているけれど」
「真剣……!?」
声を発したのはリルルだった。確かに目を
人でごった替えする大広場の中で
コナスの問いは無言で流され、代わりに間合いが一歩
本能的にリルルはコナスの背中に自分の背中を合わせていた。コナスを背中の
「あなたたち、なんなのですか?」
リルルの
「っ!」
手元で弾ける重い金属音と手応え、心臓を
「大丈夫かい! リルルちゃん!」
コナスの声が飛ぶ――快傑令嬢の剣を受けたのはリルルだけではない。どこに隠し持っていたのかコナスの手には短いステッキが
「コナス様!」
コナスに向かって他の二人が突き込んでくる。ステッキの
「僕にこのステッキを使わせたのは君たちが初めてだよ――なにせ、襲われたことなど一度もなかったからね!」
かっこいいのか悪いのか
「ふっ!」
リルルが今度は前に出る。
リルルが
「リ、リルルちゃん、強いね!?」
「れ――令嬢のたしなみです! 習いました! 通信教育で!」
「その作り物のレイピアも丈夫だね!?」
「丈夫に作りました!!」
防戦一方ではあるが、ただのステッキでレイピアの
「ぐっ!」
背後で小さな悲鳴が上がる。振り返ると突きを防ぎ
「コナス様っ!?」
「か、かすり傷さ。僕は分厚いからね、これくらいは……」
そうはいいながらも、手で押さえた
この危機をしのぐとすれば、リルルが持つ快傑令嬢リロットとしての力を全力で出さねばならない。しかしそれは、
「ど……どうすれば……!」
コナスの腕が斬られ、本当に出血していることに気づいた周囲の人間がざわめき出す。しかし、まだ異変の真相にまでは到達しない。「おかしいな」という疑問が浮かぶまでで、まだこれが
じり、じり、と十二人の快傑令嬢たちが
「――――っ!?」
人の脚の柱で
「目を閉じて、
リルルの声に
袋が破裂するような破裂音が人々の
「リルルちゃん!?」
「コナス様……コナス様ーっ!」
リルルの声が遠ざかって行くのが耳でわかる――が、見えない!
「リルルちゃん、声を上げて!」
――リルルの声が遠ざかったのと反対の方向から、コナスの手をつかんでくる感触があった。闇から伸びてきたようなその手にコナスの背筋がはねる。しかし、優しいその
「――しっかり、つかまっていて下さい!」
「っ!?」
聞いたことがあるようで覚えのない声。知っているようで知らない声――その奇妙な声に従ってコナスは手を握り返す。自分よりも小さな手の感触だったが確かな力強さがあった。
味方だ、と素直に感じられ――次に自分の両足が地面から離れたことに、その思いの全てが吹き飛んだ。
「うわああぁぁぁぁぁ――――ッ!?」
階段を
二十メルトほどの高度は、高層建築物に上がることで日常で感じることもよくある高さだ。が、地に足がついていないという
その丸い目をいっぱいに見開いて
――瞬間、コナスの心臓が大きく波打った。
「君は……君が!」
コナスの手を引き、もう片方の手で白い
いや、そんな
だが、決定的な
顔が――顔が見えない。
いや、見えてはいる、いるが、覚えられない!
もちろんコナスはそれを知っている。快傑令嬢リロットの顔を覚えられるものはいない。
そう。
「君が――君が、本物の快傑令嬢、リロットなのかい!?」
「――
真っ黄色の大型
「お怪我は、大丈夫ですか!」
「あ、ああ、腕を押さえておけば――。し、しかし、本物が、本物が来てくれるなんて――」
女神が目の前に
「いや、僕の、僕のことなんかはどうでもいいんだ! リロット――リルルちゃんを、僕の隣にいた女の子をお願いするよ。彼女を守ってくれ。あの子に傷の一つでもついたら、僕はあの子にどう
「……あなたの側にいた少女は、一足先に私が
「本当かい!? 怪我の一つもなかったかい!?」
「ええ、大丈夫ですよ――それより」
リルルは
「……ここから落ちないように気をつけて。私は行きます」
「ああ、リロット!」
背中の声を振り切ってリルルは前に出る。天幕の外周を支えている木の上に立ち、大広場を見下ろした。
今の今まで斬り合いをしていたマスク姿の快傑令嬢たちがその手にしているのが、
無差別に人を斬るわけでもないらしいその十二人の偽快傑令嬢たち。黄色い大型天幕の上に姿を見せた邪魔者の姿に全員が
「貴様……我々の邪魔をするか!」
偽快傑令嬢の一人が叫ぶ。
「――私の姿を
リルルがスカートを膨らませて飛び降りる。落下の途中でムチを振り上げ、その先端を天幕の骨組みに
赤いハイヒールが土の地面を
「人々が心から楽しむ
背筋を
「あ……相手は一人だ! 殺してしまえ! そのあとで上のベクトラル伯を
「一斉に突き掛かれ!」
リルルを
「争いも暴力も私の好まぬところですが――仕方がありません! いってもわかってもらえないなら、体にわかってもらうまでです!!」
リルルはにこりと笑みをその口の
説明されなくてもそれがなにであるかを
「ふふふふ……この黒い球がなにが、わかりますか?」
「そ……そ、それは――」
短い
「この球は――導火線がついた、ただの
リルルの腕が旋風を生む勢いで回転する。いつの間にか
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