プロローグ
「恋文は月夜の闇にてつづられる」
街の全てがもうほとんど寝静まろうという夜半頃。
机と
『――
二年。
寂しくさせたことを申し訳なく思う反面、誤解を
寂しく想ってもらわなければ、僕も寂しい。
寂しくないということは、貴女にとって僕は、必要ないということですから――』
青白い光を
壁の時計を見る。針は間もなく、午後十一時を
そこから見えるのは少し離れた公爵の館。その向こうにもう
ここから
机の上に
その中に、水色のドレスを着た一人の少女が座っていた。
背の高い
ほんの
静かに優しい
わずかに開いている窓から風が吹き込んで来て、少年の明るい金色の髪を揺らす。年頃にしてはやや幼めの、どこか少女の
それだけは確かに少年の気配をかもす、まっすぐな
写真の中の少女を見つめ、二度三度
『……もう
やっと、
会いたかった。貴女の顔を見、言葉を
貴女がこの手紙を受け取った時、僕はもう、王都に向かって旅立っているかも知れません。
貴女に会える日を、楽しみにしています。
そして、一日も早く。
あの日の、貴女との約束を果たせるように』
「――約束…………」
あの日の、少女との約束。
そうだ。自分はその約束を守るためにがんばってきたのだ。
希望はある。小さくともこの手と胸の中にある。目の前は決して暗くない。
進もう。
『親愛なる、リルル・ヴィン・フォーチュネット様へ。
ニコル・アーダディスより。
――心からの愛を込めて
エルカリナ暦四五三年 三月三十一日』
少年はペンを置いた。文面を三度も読み返し、それを折りたたんで
もう、寝なければ。しかし、その前に――。
「――リルル」
少年――ニコルは、窓から遠く天を
晴れきった北の空に細く鋭い三日月が、自分の髪と同じ金の色に輝いている。
窓を閉める。カーテンを閉じ、ランプの
「リルル――おやすみなさい」
写真立ての中で微笑んでいる少女にニコルは小さく口づけをし、それを伏せて布団に入った。
少年が寝息を立て始めたのを確かめるようにして、ランプの
部屋が
午後、十一時、三十五分――。
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