「快傑令嬢リロット同好会」
店の奥。そこは、
一時的に使わない道具が置かれる空間だ。店構えの割りには結構広いが、置かれている用具もそんなに多くはない。
その空間の真ん中に、愛想もなにもないような
それだけならただの
「は――――」
縦一メルト、幅五十セッチメルトの紙に描かれた、
薄桃色に
そんな部屋の中、テーブルを
「おー、伯爵、遅かったでござるな」
「待ってたなりよ」
なまりのきつい、特徴のある
「お、伯爵? その
背の低い――リルルよりも
「こんな場に
対してこちらは中肉中背。身長も体重も平均的な男だ。強いて特徴を
「お前ら、そのエセ
「いいではないでござるか。これが我々の
「そうなりよ。それより伯爵、この場で完全に浮いているその女性を紹介するなり」
二人の
「こちらリリーちゃん。我が
「よ……よろしく、リリーと申します」
ぺこり、とリルルは頭を下げる。
「伯爵、伯爵はまだ身に
「そうなりよ。今まで
「見ろ、みんなこういってるじゃねぇか。少しばかり――いや、すごい可愛いフローレシアだと思うけど、そんなので俺たちは信念を曲げたりしないぜ」
腕を組んでいる葬儀屋の男が冷たい口調でいい――伯爵の口の
「これを見てから同じことがいえるかどうか、実に楽しみだね」
伯爵が抱えていた
「なにが出てくるでござるか?」
「その挑戦、受けて立つなりよ」
「俺たちを驚かせることができたら、この場で全員逆立ちしてやるぜ」
「別に、君たちの逆立ちは見たくないけれど――まあ、いいや。腰を抜かさないように気をつけてね――それっ!」
まるで剣を抜くように伯爵はそれを筒の中から引き抜き――丸まっていたものを一瞬で開いて見せた。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「そ、そそそ、そそそそそ、それは!」
「か――かかか、かか、かかかかかか!」
「快傑令嬢リロット!!」
伯爵が広げた一枚の広い紙――それに鮮やかに印刷されていたのは、
等身大の快傑令嬢リロットの特大大判写真の
「それも、着ているのはあの『試製四号』でござるか!」
「と――と、いうことは、この中身はそのフローレシアなり!?」
「ほ……本物としか思えないな……! いや、誰も顔を見たことがないのが快傑令嬢なんだろうが、俺たちが実物そのものと割り出したあの『試製四号』を、ここまで
「ふふふ」
期待通りの結果に、伯爵の顔には満足しかない。
「伯爵! そんなものをいきなり出すな! 全員腰を抜かしているじゃねぇか!」
「
「心臓が口から出ると思ったなりよ!」
「せ、
背の低い男が手を挙げて唾を飛ばしながら叫ぶ。
「
「お、俺、いちばんいい額を持ってくる! 伯爵、そのまま広げたままにしていてくれ! おい、探し物屋! ついてこい! 家からいちばんいい椅子を運んでくるぞ!」
「しょ、承知でござる」
「本屋! 壁の絵を全部外しておけ! この写真を
「も、もったいないから大事に保管しておくなりよ」
二人が
「……これは、いったいどう
「とても歓迎されていると思っていいよ」
事実、その通りだった。
「さ、リロットちゃん、お席にどうぞ」
「わ、私はリリーで」
「いやあ! これだけ快傑令嬢の
「
「右に同じなり」
残りの二人も
物置を華やかに見せていた薄桃色の絵画は全て外され、今は部屋の奥正面に快傑令嬢リロットのカーテシー姿の写真が
リルルは色々と複雑な気持ちになった。
「じゃあ、会員の紹介だね。こののっぽさんが『葬儀屋』」
「よろしく! リロットちゃん!」
「背の低いのが『探し物屋』、中くらいのが『本屋』だよ」
「お目にかかり
「仲良くしてほしいなりね」
「おい……お前らわかってるだろうと思うが、
「わかってるでござる。同好会内での
「ここまで
「それにしてもこんな
「ははは。まあ、それはおいおいとね。じゃあ、今日の会合を始めるとするか」
「活動報告なりね。『快傑令嬢記録・第一弾』の見本が
本屋が
「ああ、もうこれは表紙を描き直しだ! 見てろ、仕事そっちのけですぐに描き上げてやる。今のリロットちゃんそのままの印象でな!」
葬儀屋が悲鳴を上げるようにいう。壁に掛けられていた絵といい、それを描いているのはこののっぽの男のようだった。
「
「全部描き直す! このまま
「絵描きの
「それはこのままでいいんじゃないかなぁ」
「あの……本文というと、どんなことが書かれているのでしょうか?」
リルルに興味がないはずがない。快傑令嬢としての事件を新聞や号外で読むのは、リルルの気晴らしのひとつでもあった。基本的に見返りを求めないリルルでも、世間の目は気になる。
「ああ、リロットちゃんも目を通してね。面白いよ」
「その見本はリロット殿に
「ええと……」
リルルは
快傑令嬢として行ってきた『仕事』の全てが
『快傑令嬢』の通称が誕生する以前の、初めての事件からゲルト侯相手の反乱計画
数字の
「も……も、も、ものすごく、せいか……いや、
「複数の新聞や雑誌の記録を比べたり、現場や目撃者から取材したりで材料を集め、合理性に
「それでも一割の正確さを拾うのが本屋のすごいところだな」
『本屋』というだけにこの本を書き上げたのはこの中肉中背の男らしい。
「取材費とかも結構かさんだなり。伯爵からは
「売れる本にして取り返してくれればいいよ。投資だと思えば安いものさ」
「あの……探し物屋さんは、なにをなさってらっしゃるのですか?」
「拙者は、快傑令嬢リロットに関するお宝を集めているでござる」
薄い金属の小さな箱をテーブルの上に置き、その蓋を開けた。
「たとえば――こんなものとか」
「っ」
出てきた物にリルルの喉がなる。快傑令嬢リロットの唯一の
「これは現場によく落ちているでござるな。しかし綺麗な絵が入っているでござる。市販の物ではないようでござるが」
エルフらしい、どこか幻想的な雰囲気が漂う女性の横顔が描かれた、それ。
そういえば、このカードの絵は誰が描いているのだろう。というか、
「あとでフィルに聞いてみようかしら……」
「リロットちゃん、なにかいったでござるか?」
「いえ、な、なにも」
「先日の旧
鞄の中からまさぐられてどん、と置かれたのは、拳大くらいの黒い球だった。
短い
「爆弾じゃねぇか! こんなもんテーブルの上に置くんじゃねぇ!」
「花火でござるよ。しかも不発」
「おんなじだ! 火事になったらどうする!」
「導火線は
部屋の隅に置いてある、包み紙で
「これはなかなか
「ぃぃぃぃっ!」
その中から出てきた物に、リルルは
もう原型が留められていないほどに
「こ、これは風船か!?」
「もうほとんどしぼんでいるなりが、確かに快傑令嬢の風船なりな!」
「ほう――それは確かにすごいお宝だね!
「あ……ああ、あああ……」
三人が思わず席を立っている横で、リルルが椅子からずり落ちていた。
使い捨てには違いなかったが、まさかこんなところで再会しようとは。
「これは本業やってる時に
「ふ、風船ということは、快傑令嬢が
「空気の入口を、そ、その
「おいおい、諸君たち、思考を桃色にするのはいけないよ。快傑令嬢に失礼というものだ」
「わ、我々は真面目な
「あ――ああ、そうだな、
「つ、つつつ、つつ……」
脳に受けた
「リロットちゃん、疲れたかい? 僕たちの会話についてこれてるかな?」
「え――ええ、た、大変、興味深いお話の数々でした……」
興味深くありすぎた分、疲れた。
「初心者はいたわらんといかんでござるよ。段々と
「そうなりな。リロット殿とは長いお付き合いを願いたいなり」
「じゃあ、三日後の予定のすりあわせをしてお開きにしよう。ああ――リロットちゃん、三日後の予定は空いてるかな?」
「は、はい、空いていますが」
「じゃあ、『試製四号』の初
がたがたっ、と椅子が倒れる音が連なる。反射的に三人が立ち上がっていた。
「ま、ま、まさか、リロット殿の生リロットが
「な、なんか言葉がこんがらがってるが、まさか伯爵、リロットちゃんに――」
「
「そのまさかさ。リロットちゃん、お願いしていいかな?」
「わ、私は――」
三人の目がそれぞれに輝いていた。
嫌だという言葉が
「は、はい――」
「本当でござるか! 生きていてこんな幸運に巡り会えるとは!」
「快傑令嬢の仮装はたくさん出てくるなりが、リロット殿の仮装に勝てるものはいないなりね!」
「じゅ、準備しないと。必要なもの、必要なもの相談するぞ!」
「あ、あの――三日後、なにがあるんですか?
「ああ、リロットちゃんは知らないのかも知れないね。
――エルカリナ王国
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます