第二部「ニコルはリルルとリロットに恋をする」
第01話「快傑令嬢、恥ずかしながら帰って参りました!」
「王都エルカリナの裏舞台――亜人奴隷市」
この世界
衛星都市を
その人口の
日々列車を
それぞれがエルカリナの産業を支え、経済を回し続ける重要な
が、この街に
――はず、だった。
現実としては、あからさまに顔を見せていない限りは、亜人たちが道の
うらぶれた町工場、大量の物資を右から左に全力で流し続ける
歯車を無理に引っこ抜いた機械がどうなるかは
そして亜人たちにはもうひとつ、どうしても欠かせないような、とても重要な役割が
それは彼ら、いや、主に
◇ ◇ ◇
巨大都市を大きく東西二つに分断するように流れる大運河の東側、王都エルカリナ東部。
西部が王城、貴族の
そのさらに東、城壁にへばりつくような日当たりが悪い区域は下流以下の貧民、亜人たちが住み着く不法居住区域となっていた。
ここで起こる事件は、よほどの大事件でなければ役所は
一種の
そんな場所でしか成り立たない
人身売買。いや、正確には亜人売買というべきだろう。
人の心の暗い欲望を満たすため、
◇ ◇ ◇
会場はまさに、
小劇場のような
地下、それももう
今、その狂った会場の注目は、舞台の上で無数の光の
「さあ、さあさあさあ、本日も
舞台に立った真っ赤な
「本日二十四番目! 次なる商品は、山猫族の娘! 見た目の美しさはご覧の通り! 健康状態も医師の
その、司会の男の
上から、下から、横から後ろから
――
エルカリナ王国では、奴隷の
しかし、奴隷を必要とするものは無数にいる。
「まず開始金額は四百五十万! みなさん
カーン! と軽く鋭い鐘の音が燕尾服の男によって打ち鳴らされた。
「七百万!」
熱の入った声が飛ぶ。
「七百二十万!」「七百四十万!」「こっちは七百五十万だ!」「七百六十万つけるぞ!」
舞台の下の男たちが手を上げながら金額を叫ぶ。その全員の目が血走っている。山猫の娘を我が物とするために。
「九百万!」
突き抜けた金額に、どよめきが
「はい、もうありませんか、九百十万以上、ありませんか、ありませんか――では、九百万エルでご
調子のいい司会に
その男の手に鎖を
「と、いうことだ、九百万エル。お前はうちの売春宿で働くんだ――早速、明日からな」
「いやあ……帰して、里に帰して……わたし、さらわれてきたんです。自分を売ったんじゃないんです……!」
「知るか。猫のくせに足がのろいお前がマヌケなんだ。九百万を逃がすと思うか――お前には二十四時間、鎖が必要なようだな!」
山猫娘の
「山猫の娘は体が柔らかいからな――うちの客は変態ばかりなんだ。お前もきっと
「いやぁ……いゃぁ……」
「さあ来い! この瞬間から私がお前の飼い主だ! すぐにたっぷり、商品の
男に鎖を引っ張られ、もう涙しか流せない娘は舞台の
会場は空白にはならない。すぐにさざ波のようなざわめきが間を埋める。
「さあさあさあ、お取引できる商品も残り最後の一つになりました! 大トリを
「嘘つけ!」「もったいぶるな!」「早くしろ――最後が終わるまでここを出られないんだからな!」
「まあまあまあ、お客様、そんなに興奮なさらないで! さあ、注目の最後の商品、それは――――あえっ!?」
本当に最後の商品を
「おい、これ、本当か」
「ええ、間違いはないはずです」
「間違いはないって……俺も初めて見るぞ。今まで
「じゃあ、今夜初めて見ることになるんじゃないですか?」
助手の気楽さに比べて燕尾服の顔には
「ダ……ダークエルフ……」
ダークエルフ。
闇の領域に生きる、森の妖精の
どういういきさつで誕生したのかは定かではないが、エルフと同じくらいの長命を
「……い、いや……ダークエルフなら、まだマシだ。エルフよりはいい、少なくともあいつじゃないからな」
「あいつ?」
頭を激しく振って恐れを振り払う司会に、若い助手が首を
「普通、エルフの方がマシなものでしょう? どうしてエルフをいつも
「……昔、ちょっとな」
「早くしろ! いつまで待たせるんだ!」「司会、仕事しろ!」「さっさとやれー!」
「……取りあえず、連れてこい! 売るぞ!」
「わっかりましたぁ」
助手が
「はい、はいはい、ただいま商品をご覧に入れます――最後の商品は、なんとあの! ダークエルフです!」
「うおおおおおお!?」
おおおおお、と驚きの大波が立ちっぱの客に津波のように広がった。今年、いや、この数年でいちばんの驚きだ。十年この仕事をしている司会の燕尾服が知らないのだ。誰も現物を見たことがないのに違いない。
「ダークエルフが出るのか!?」「ちくしょう、そうとわかってたらもっと預かり金収めていたのに!」「いや、実物を見られるだけでも幸運だ――
「はい、ただいま、ただいま」
これ以上
もうそろそろ、この
今日が最後だ。今日が終わったら、
もう――。
もう、エルフにビクつく生活は嫌だ――。
そんな司会の後ろに、問題の『商品』が連れてこられた。
そんな彼女が、舞台の中央に立たされた。無言でうつむく彼女に明るい光の線が数十も降り注がれる。
「さあ――本日最後の商品です! めったにお目にかかれないダークエルフ! 今日来られたみなさまはとても幸運だというしかないでしょう! それでは商品をお目にかけましょう――今、フードを
実際にフードを外そうとする司会がいちばん興奮している。最後に売るのがダークエルフか、それもなにかの
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