「彼女の値段は、如何に」
会場は
ダークエルフが実在するのはみなが知っている――が、それを目にしたものはこの場で一人もいない。亜人と日常に
それが目の前に現れる。
「おおおおおおお――――!!」
「――おおおおお」
鋭く後ろに向かって伸びる長い耳。
「おお…………」
背中までかかった、わずかに青を帯びた銀色の髪は
「…………お」
そこまでは、よかった。
「――――」
会場が
まるで無人になったかと
頭の上にのしかかる重い空白に、誰もが苦しい
「……なんだこりゃ」
ひび割れた心の器から感情という液体が
「どうなってる」
シャツとショーツ一枚という、下着姿同然――いや、立派な下着姿のその少女。
ぺったんこだった。
いや、厳密にいえば
確かにある。
「…………」
フードを
馬鹿な、こんなことがあり得るのか。なにかの間違いだ、神様。
「なんでだ」
静寂が重い支配を
「なんでダークエルフが貧乳なんだ」
その発言をしたものに、残りの全員が感謝を
――そして、それは呼び水となっていた。
「なんでダークエルフが巨乳じゃないんだよ!!」
一気に怒りが
「ダークエルフといったら、見事なくらいのボンキュッボンに決まってるだろうが!!」
「エルフはいい、貧乳でも、まだ
「馬鹿野郎! 最近のエルフは巨乳が流行なんだ、この時代遅れが!」
「……新しいものはなんでもいいと思ってる若造の
「この
「なんで客が銃器を持ち込めてるんだよ! 入口での
拳銃を持ち出して相手を撃とうとした二人を周りが押さえ込み、武器を取り上げる。
「あああ! 殺し合いはこのあと! おもてでやって下さい! ……しかし、このまな板、
ダークエルフの少女は――目を閉じてうつむいているが、その歯が固く食いしばられている。
魔力に
「なんでもいい! 取引開始の鐘を鳴らせ!」
「そいつの取引が終わるまで扉が開かないんだ! さっさとこの
「は、はい、はいはい、はい」
最後の舞台を暴動で終わらせられるか――司会の男は最後の意地で鐘を鳴らす
木槌を鐘に当てる。
「では、五百万から開始します!」
司会が声を張り上げる。
――それに応えたのは、
「……では、四百万から!」
同様。
「……三百万からでは?」
「……百万から!!」
「百十万」
一人がのっそりと手を挙げた。
続く者は。
……いない。
「ダ、ダークエルフですよ?
「……エロエロ
「こんなのうちの売春宿で出せるか。客から苦情の嵐だ。期待していたのと違うといわれて、評判が
「可愛いのは可愛いが、ない乳のダークエルフとかなぁ……有り得ん」
「色気
「大して力仕事もできそうにないし……」
「
ぶるぶる、ぶるぶる。
なにか奇妙な暑さを感じて司会の男は
ぎりぎりぎりぎりとなにかがこすられる音――歯ぎしりか、これは。不快、というか皮膚に突き刺さるような怒りの気配を本能で感じ、司会の足が知らず知らずのうちにその少女から離れていた。
「……はあああ」
司会の男の肩が落ちた。もう戻せそうにないくらいに落ちた。
百十万か。最低記録じゃねぇか。こんなショボい取引でこの仕事は終わるのか――――まあ、いい。さっさと終わらしちまえ。かえってせいせいするというものだ。
もう、この世界からは足を洗う。知ったことか。あとは残った者で好きにしろ。
「……じゃあ、百十万ということで、この取引はせいり――」
「待った」
一人の男が手を挙げる。人波を押しのけて前に出ようとし――自然に
身なりのいい男。
「あ、
「――その前に、この場の
葉巻をくわえた口――火はついていなかったが――を器用に動かし、その男は言葉をつなげた。周囲の人間が黙って聞く気になったのは、その男がこの
自分の身を守るために、誰もその男の正体も
「私は恥ずかしい。こんな見る目のない連中と一緒にいることが。私もその一人に数えられかねないということが」
「……どういうことでございましょう?」
「少し前までの亜人奴隷市は、こんな程度の低いものではなかった」
全員が聞き入る。何故か、その言葉を
「かつては、私などより優れた
「……話が長くなるのでしたら、そろそろ切り上げてもらいたいのですが……」
「要するに、だ」
男が人差し指を立てた。
「私は、これだけの
「……あの、既に百十万が出ていますので、百万では困ります。百二十万以上でないと」
「――君も、とうとう愚者の集団からは抜け出せなかったか。残念だ」
葉巻を口から外す。深々とため息を吐いた。
葉巻を箱に直し、それを懐に収めてから男は静かに――しかし、強い口調で言っていた。
「私が
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