第18話 帰り道。
劇場から最寄り駅までの帰り道を、寺田さんと並んで歩く。行きは劇場まで、ものの十五分でたどり着いたが、帰りはもうすでに、三十分経っている。おそらく、まだ中間地点にたどり着いていない。
「本多くん。今日はありがとうね」
「ううん、こちらこそ。普段、演劇を観る機会はそうないから、新鮮だったよ。しかも知っている人の、知らない所を知ることができて、ちょっと得した気分」
隣で、ふふっと笑った。
「私も今日知っている人の知らない所、知ったよ?」
僕は顔に疑問を浮かべて寺田さんを見た。
「本多くんの熱いところ。私はすごく面白いと思った。独特だよね、本多くんって」
「そんなことないと思うよ」
正直な気持ちだった。クラスでも注目を浴びる場面は時々あるが、それはどれも「かわいい」から注目を浴びるのだった。
こんなことは自分の口から言いたくないが、同世代から見て顔は童顔で、背もあまり大きくなく、確かにかわいい部類には入る。年下の弟的マスコットキャラをクラスの中で勝手に確立され、おかげで注目を浴びるのだが、内心は複雑だった。
でも言われ続けていると、複雑な心情がスルスルと時間をかけながら自分の中でほどけていき、かわいいと言われることに対するハードルが自分の中で下がっていった。かわいいキャラに対する抵抗感はすでに無くなっていて、そのキャラを身にまとい、これからもクラスの中を生き続けていくのだと思っていた。
しかし寺田さんは僕のことを面白いと言った。面白いとかわいいは正反対、とまでではないものの、あまりにも畑違いなキャラだった。
「でも、僕って人を笑わせた事ないよ?」
「んー、本多くんの言ってる面白いと、私の言ってる面白いはちょっと違うかも」
「どういうこと?」
「本多くんの言っている面白い人って多分、笑わそうとしたり、楽しませようとする人のことを指しているんじゃない? 私が言っているのはそういう面白さじゃなくて、人間の本質的な面白さが本多くんにはあるなって」
「人間の本質的な面白さって? 寺田さん、時々変なこと言うよね」
「変なことじゃないしー。真面目に説明しようとしてるのにさ、話を折るんだから。もう説明しないからいい!」
寺田さんは拗ねた表情で足早に先へ行こうとする。
「ごめんごめん。悪気があって、言った訳じゃないんだ」
寺田さんはピタッと足を止め、くるりとこっちを向いた。拗ねた顔がころっと変わっていた。
「分かってるよ。本多くんが悪気あって、言う人じゃないってこと」
寺田さんはコロコロと笑う。再び、横に並んで歩きだす。
「人間の本質的な面白さっていうのはね、私が思うに、人間性そのものが面白いってことなの。笑かそうとしている人って、意識的に笑かそうとしているじゃん? それって目に入った瞬間面白いと思うでしょ?
でも人間性そのものが面白いと、そうはならないの。普段笑かそうとしていないから、その人が面白いことをみんな知らない。でも、少しキレのある言葉を発すると、妙に納得させられたり、惹かせることができる」
「僕、キレのある言葉を言ったことある?」
寺田さんに率直な疑問を呈すと、率直な答えが返ってきた。
「ないと思う」
そのとき僕の顔には、クエスチョンマークがたくさん浮かんでいたに違いない。僕の顔を見た寺田さんは、大きな口を開けながら笑った。
「キレはないけど、思いを言葉にすることは上手だと思うよ。さっきの私、心動かされちゃったもんね」
そして寺田さんは続けた。
「私ね、正直なこと言うと、本多くんのことが今までよく分からなかったんだ。初めて学校の外で、お互いを認識した日があったでしょ? 私が本屋の参考書コーナーで問題集を選んでたら、本多くんがたまたま通って。私が本多くんに気付いたら、急に目線逸らしてレジに向かっていったあの時。
その瞬間、嫌がらせを受けていた時の事を思い出しちゃって。また、前みたいに理由なく無視されたりするのかなって」
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