第13話 目的地。
「ここだよ、今日の目的地は」
僕も立ち止まり、寺田さんの視線の先に目をやる。そこは「明和劇場」と書かれた、小ぢんまりとした劇場だった。
演劇を見ると言っていたので、僕はテレビでよく見るような大きめな建物を勝手に想像していた。しかし今、目の前にあるのは、一般的な一軒家を少し大きくしたような小屋だった。その小屋の前には数人がすでに並んでいる。
「開場時間は……あと三十分か。ちょっとトイレ行ってきていい? 先に並んどいて! ……じゃ、お願いね」
僕は何をお願いされたのか分からないまま、寺田さんがトイレに行く後ろ姿を、ただ茫然と見送った。お願いとはきっと、列に並んでおけということだと判断し、素直に並ぶことにした。
徐々に列が長くなっていく。タイトルだけで判断してはいけなかったようだ。
それにしても意外と人気のある劇なのだろうか。観る前に内容を調べるのは、思い切り楽しめない気がして気が進まないのだが、列の長さの興味に負け、出来るだけネタバレを避けながら口コミを調べようとした。
携帯を開く。電池残量、あと二〇%。
帰りの移動時間を考えると、結構ギリギリで、今は不要な調べものだと判断し、電池消費量を最小限にするため、テレビ番組で見かけた、機内モードをオンにすると効果的だというのを思い出し、それを初めて実行した。
それにしても寺田さんのトイレが長い。開場まで残り一五分となっていた。寺田さんが体調を崩したのかもしれない。急に不安になり、機内モードを解除し、「具合悪い?」とLINEを送った。するとすぐに返信がきた。
「ちょっと開場時間に戻れそうにないかも。先に入場してて!」
「あんまり無理することないよ。今から帰ろう」
「ううん、大丈夫だから! 先に入って待ってて! 必ず行くから!」
開場まで残り一〇分をきっている。後ろを振り返るといつの間に長い列が作られていた。このまま寺田さんが来ないと、二人並んで席に座れそうにない。寺田さんが望んで来たのに、本人が見れずに帰るということは、どうしても嫌だった。
僕はこの列から抜けて、寺田さんと合流して帰ろうと思った。「寺田さん、今どこにいる? 心配だから、今すぐに帰ろう。」と文字を打ち、送信した。僕はそわそわしながら列の進むままに、劇場へ流されていった。
開場時間になっても、寺田さんからの返信は来なかった。
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