入学
トアと出会い、死にかけてから早くも約2週間が経過し、とうとう入学する日がやってきた。
これから魔法を本格的に学ぶことになるのだと思うと悠真はワクワクドキドキを抑えることができなかった。
しかし、他の人たちはそうでもないようで同室の吉城は普段と変わった様子もなく、朝から占いにつきあわされた。
寮の一階で真紀亜に出会ったが彼女も何ら変わった様子もなく、逆にこちらの心配をされてしまった。
極めつけはクラスに行ったら初日から休んでいる生徒がいた。
「生徒全員寮に入っているはずなんだがな。蛇澤、何か知らないか?」
悠真たちの担任である雪姫先生がため息混じりにそう言って悠真と同じクラスだった真紀亜に視線を向ける。
「全くですね。寮で会ったことはないのでどうしてるのかも不明です」
真紀亜は肩をすくめてそう返した。雪姫先生はどうしようもないとすぐに諦めたようで何事もなく説明を始める。
1クラス20人2クラスなので1学年40人で全校生徒はたったの120人だ。いや、魔法を使える人間が120人もいると考えれば十分凄いことなのだけれど。
とにかく少人数ということもあって知り合い全員同じクラスだった。
「さて、改めてようこそ魔法学園へ。君たちは魔法の資質を見出されてここにいる。それぞれが何かしらの願いや思いを持ってここにいるのだろう。だからおめでとうは言わん。ただそれぞれの目的のため精進を忘れるな」
雪姫先生はそう言って生徒たちの顔を見渡すと教卓に手を置いてぱっと切り替えたようで業務連絡へと移った。
「ひとまずは講堂へ移動だ。そこで入学式を執り行う。たいしたことはしないが学園長のありがたい言葉や現行生徒会からの話がある」
悠真はお話と聞いて正直面倒くさいと思ってしまうが魔法について何かしら聞けるのではと少しだけ期待もある。
講堂には椅子が用意されてお、座る場所も決まっているということで雪姫先生は出席番号で席が振り分けられている紙を配った。
講堂って確か本校舎の中央棟にあるんだったよね。
突然のトアからの念話に悠真は顔を一瞬しかめた。この兎も悠真に同行しケージの中で話を聞いていたのだった。
突然話しかけるんじゃない。というか雑談の為に使わないでくれるか。
雑談とか言わないでよ。ちゃんとした意味のある会話だよ。ほら、喋れない分ボクもちゃんと存在アピールしなきゃだめでしょ?
いや、誰へのアピールだよ。俺にしか聞こえないんだから意味ないだろうが!
いいから、話の腰折らないでよ。はい、悠真は講堂に行ったことは?
ないな。秋姫が案内したがってたが何だかんだでそこまでは行かなかったからな。
ボクもないよ。悠真には内緒で色々回ってるけどさすがに講堂にはね。
はぁー! 一人で出歩いてるのか!
いやいや、ちゃんと猿倉くんが同行してくれてるよ。ボクだって初日の猿倉くんの忠告は覚えてるんだからね。
そんなこんなやり取りをしている間に悠真たちは教室を出て1階の渡り廊下を通って本校舎の中心に位置する中央棟へと向かう。講堂は1、2階をぶち抜いて存在しているそうで当然入り口は1階に位置している。
「建物の大きさを考えると中々の広さであるな。一般的な体育館よりも広いのではないか?」
えっと、確か高校の体育館は35×23mだから35×35mのこの講堂は1.5倍くらいの広さになるね。
いや、何でそこら辺の数値を知ってんだよ。
ボクは偉大な魔術師だからね。見取り図があれば実際の長さと比較して割り出せるのだ。
「中央棟自体が六角形ですからね。正確な数値を出すのは難しいけど1辺30m前後だそうなので所々の小部屋を覗いて1700㎡ほどだそうですよ」
真紀亜が吉城の呟きを受けてかそう答えた。盛大に間違えたウサギはそれからしばらくは無言だった。
「皆さま、初めまして。わたくしは学園長の
講堂に1年生が決まった座席に並び終わると出てきたのは和装の女性だった。黒に桜色のメッシュの入った髪が特徴的な彼女がどうやら件の学園長らしい。
悠真は思わず視線を雪姫先生の方に向けてしまう。苗字から彼女の血縁者なのは間違いなさそうだ。
「まずは入学おめでとう。そしてありがとう。あなた方が入学してくれたおかげでわたくしの学園が維持できるわ。それではこの学園について説明するわね。皆もご存じだと思うけどこの学園は魔法を学ぶ場所であり、願いを叶える場所よ。もちろん普通の勉強もしてもらうし成績もつくけどね」
学園長は扇子を取り出すとパッと開いた。すると桜の木が大きく描かれた扇子から花弁が舞い上がり、講堂全体に降り注ぐ。
「わたくしの願いは皆さんがその胸に秘めた願いを叶えることよ。だから何か困ったことがあればわたくしや教員に相談するといいわ」
学園長が扇子を閉じると舞っている花弁が跡形もなく消えてなくなった。
「魔導の道が皆さま栄光の道に続いていることを祈っていますわ」
学園長は一礼すると優雅な所作で降壇していった。そしてそれと入れ替わるように一人の男が登壇した。スッとした立ち姿に眼鏡をかけたその姿はこれぞ生徒会長という雰囲気の男で流れから彼が生徒会長に間違いないだろう。
「今回在校生を代表して祝辞を述べさせてもらう獅子崎孝輝だ。まずは入学おめでとう。我々在校生は心より歓迎する。この学校の特性上願いを抱えた者が多いゆえに自己中心的な者が多いが生徒会は別だ。何かあれば頼ってくれて構わない。ちなみに生徒会室はこの建物の5階だ。それでは君たちにとってこの学園の生活が最良のものになることを願っている」
生徒会長は一礼をするとそのまま降壇していった。壇上から人が消えて少しして雪姫先生が登壇した。
「これにて入学式は終了だ。各自教室に戻るといい。それでは解散!」
これで入学式は終わり? 大したことはしないと言っていたが本当にこれだけで終わるとは正直に思っていなかった悠真は呆気に取られてしまったがそのまま退場することとなった。
入学式終了後は色々なことを決めることとなった。その結果真紀亜が学級委員長になった。ちなみに悠真は兎の囁きを無視して全ての委員を全力で拒否した。
「どうして委員会に入らないの? 人と仲良くなるチャンスだよ?」
「別に仲良くなりたいわけでもないが?」
真紀亜については理由あってだし吉城についてはたまた同室だったからで特に理由もなく仲良くなろうとは思わない。
トアは悠真のそういうスタンスがお気に召さないようだった。ちなみに現在は放課後ということで自室だ。吉城は用事があるとかでまだ帰ってきてはいない。
「まったくもう。悠真は将来孤独死してるんじゃないかってボク心配だよ」
「ほっとけ」
それは余計なお世話というやつだ。それよりもいくつか気になることがあった。
「なあ、トアはどれくらい学園について知ってるんだ?」
「何、急に? まさか講堂の話を掘り返そうと……」
盛大に間違ったことをよほど気にしていたようでトアは身構えた。
「そうじゃねーよ。ほら、学園長って雪姫先生と同じ苗字だろ? 一族でこの学園を運営してんのかなって」
「どうだろうね。知りたいなら蛇澤さんに聞いたらいいんじゃないかな。野牛島先生とは昔からの知り合いみたいだしね」
二人の様子からそんな感じはしていがトアも悠真と同じ意見らしい。機会があったら真紀亜に聞いてみるのもいいかもしれない。雪姫先生に直接聞いてみるのもありかもしれないが。
「そういうのはあたしに聞いてもいいんだよー?」
「………」
何故か夕食の席に当然のように相席した秋姫がそう言った。特に話の流れというものがなく、まるで何かを察しているかのようなもの言いだがおそらく適当に言っているだけだろう。
というわけで悠真は完全スルーをかますことに。
「イタイこと言ったみたいに聞き流さないでもらえるかなー!?」
「いや、脈絡もなく話を振られるもんだからついな」
「……先輩って本当にあたしにはあたり強いよね。それで学園長のことだけどあたしたちのお姉ちゃんで間違いないよー。ほとんど顔を合わせることはないけどね」
まあ聞いてないが、というより本当に察していたらしい。それはそうと親戚どころか姉妹だったらしい。この様子だと来年にはこの秋姫も入学して来そうなので学園とつながりが強いのだろう。
「それよりこんな時間に学園にいていいのか? 雪姫先生に見つかったら絶対怒られるぞ?」
食堂でただ一人中学校の制服で明らかに周囲から浮いている。雪姫先生の耳に入るのも時間の問題だろう。
「それは問題ナッシングだよー。食堂にはお姉ちゃんは入って来られないからねー。私の特権というやつだよー」
それは先延ばしになっただけで結局後で怒られる流れじゃないのかと思ったが悠真はあえてそのことは指摘しないで置いた。
「そう言えば今日はあの人はないんだね」
「ん? ああ真紀亜か。委員長になったせいか色々と忙しいらしい。雪姫先生からの信頼も厚いみたいだしな。今は不登校の生徒から話に聞きに行ってるらしい」
まあ、これも直接聞いたわけではなく吉城から伝言を受け取ったわけであるが。
「信頼かー。それは……」
「ん、何だって?」
「ううん。何でもないよー。それより早く食べちゃおう。お姉ちゃんに帰りに捕まるのもいやだからねー」
秋姫は誤魔化すように笑ってそう言った。先ほどの言葉の後半は呟くような小声で聞き取りにくかったが悠真の聞き間違いでなければ秋姫はこう言っていたはずだ。
それは違う。そんな綺麗なものじゃないよ。
初ノ空〜UINOSORA〜 おもちゃ箱 @ochamo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。初ノ空〜UINOSORA〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます