春休み
悠真とトアが学園を訪れて早一週間が経った。悠真はその間を学園を探検したり、ルームメイトの占いに付き合ったり、度々やって来る後輩(?)に付き合ってあげたりしながら過ごした。
この一週間の中で特筆すべき出来事が三つほどあったので紹介させてもらおう。
一つはトアの自室での扱いである。悠真が心配していたことだったのだがその問題は悠真の知らぬところであっさりと解決した。
有言実行といえばいいのだろうか。悠真が朝起きるとトアと吉城が談笑しながら朝食をとっていた。食事中なのでトアは人の姿で。
その現場を目撃した悠真はしばらく言葉を失った後色々と問いただしたのだか正直なところよくわからなかった。
判明したことは何かしらの取り決めが行われたことと吉城がトアのことを誰にも口外しないというだけだった。
「ボクと猿倉くんとの密約だからね。悠真にだって話すわけにはいかないよ」
「すまぬな、我が輩とて話せぬこともある。男は秘密の1つや2つあったほうがかっこよかろう?」
それぞれにそう言われてしまった。悠真にとってはもやもやの残る結果となった。
ちなみに用意されていた朝食は先日悠真が食堂から持ち出したメニューから呼び出した物だった。
持ち出した人間が言うことではないかもしれないが返さなくていいのだろうか。
「心配は無用だ。必要とあらばカラスが回収に来るであろう」
モシャモシャとトーストを貪りながら吉城にそう返された。食堂で食べるわけにはいかないトアの食事問題が解決するので悠真としてはありがたいが管理が杜撰過ぎやしないか?
食堂に行って確認してみると新たなメニューが置かれていたので問題は本当に問題がないのかもしれない。
「どうかしましたか?」
悠真が執拗にメニューを気にしていた所為か真紀亜が声をかけてきた。もう一つの出来事というのがお昼を真紀亜ととるようになったということだ。
ここに来る前の悠真からすればありえないことだがこれはトアからの勧めだった。学園でうまくやっていくなら彼女と仲良くした方がいいのではということらしい。
特に待ち合わせはせずに初日に真紀亜がいた時間に食堂へ行くと彼女がいた。最初の頃は先に摂っていたいた彼女だったが何回か一緒になると来るまで待ってくれるようになった。
そして何故か今では秋姫も一緒に食べるようになった。
「生徒でもないの利用してもいいのかよ」
「もちろんだよー。お姉ちゃんは食べられないけど私はノープログレムだよ」
答えになっていないと思うのだが一緒にいる真紀亜が何も言わないので問題もないのだろう。
「アッキーさん、君はよくここに来ていますがそちらの学校の方はよいのですか? そろそろ春休みも終わるでしょう?」
「それは大丈夫だよー。アタシはこれでも優等生だかんねー。準備とかはもう終わってるんだよー」
秋姫はどや顔でそう返した。真紀亜は感心した様子もなく、「それはよかったです」と返しただけだった。「聞いといて反応薄くない?」とでも秋姫は言いたそうだったが喧嘩はごめんなので悠真がその前に言葉を挟んだ。
「春休みといえばこっちで用意する物とかはないのか? 着の身着のままでほとんど何も持ってきてないんだ」
持ってきたものと言えば貴重品と相棒のウサギくらいだ。着るものは寮の部屋にあった制服数枚だ。周囲は皆、外部から来ている秋姫すらも制服を着ているので何ら問題はなく過ごせている。
「そっか。先輩は出れなくなることを知らなかったんだねー。まあ、アタシは自由に出られるしー、必要なものがあったら取ってきてあげよっか?」
「いや、いい。お前に家の場所を教えたくないし鍵を渡すのも不安だ」
間髪入れずに悠真がそう返答すると秋姫はムッとした顔をした。「人を一体何だと思ってるのー!」とでも言いそうだったがそれを真紀亜が横から言う。
「それは大変でしたね。ですが安心してください。この学園の特性上学園側が必要なものを用意してくれますから。それと必要なものがあれば小鴉さんに言えば大抵のものは用意していただけます。あくまで必需品に関してはですが」
悠真にとってはその情報はありがたかった。ただ文句があるとすれば吉城はどうして教えてくれなかったのかというところだ。もしかして知らなかったのか? だが助けを求めたとき用意してくれたものはその方法を使ったとしか思えないが。
「それよりこの後はどうする? 今日は第2校舎でも案内しよっかー?」
「あ、悪いな。これから用事があるんだ」
昼の後トアに呼び出しを受けていた。学校が始まる前にやっておきたいことがあるのだそうだ。
「すみませんが私もご遠慮しますね。狐さんがいないのなら無意味ですし私も用事がありますし」
「あれー? 用事があるだけでよくない? アタシを傷つけること言う必要ないじゃん!」
秋姫は文句を言うが真紀亜は完全に無視して今日の昼ご飯のパスタを口に運ぶ。
そうしてお昼を食べ終わるとその場で解散した。そして悠真はその足で待ち合わせ場所である寮の屋上へと向かった。
屋上に行くといつかと同じようにトアが人の姿でご飯を食べていた。
「お早い到着だね。ちょっと待っててね。すぐに片づけちゃうから」
トアはわずか数秒で残りを平らげると皿を脇に片づけて一枚の紙を取り出した。そこには幾何学模様が描かれていた。
「魔法を教えろ教えろ言うから今日は教えることにしたよ。もう少しで学校も始まるし人前に出ることも増えると思うんだ。それでこの魔法だよ」
トアは幾何学模様の書かれた紙と一緒に白紙の紙を悠真に差し出した。
これは俗に言うテレパシーを可能にする魔法だよ。悠真、その模様を書き写してみてよ。そうすれば多分使えるようになると思うから。
声とは違う直接頭に響くように言葉がする。不思議な感覚だがトアが言葉を送ってきているというのはわかる。
「魔法の内容は理解したが使えるようになるのはどういう理屈だ?」
ある種の共通認識というやつだよ。ボクが魔法を知っているからそれを引き出すために必要なんだ。魔法の制限も組み込まれているから安心してね。
「……正直信じがたいがやってみるしかないか」
悠真は見よう見まねで白紙に幾何学模様を描く。書き終わってみたが特に何かが変わったような気はしない。
「後は願うだけだよ。ボクと話したいって」
えっと、こんな感じだろうか。トア、聞こえてるか?
オッケー、オッケー、聞こえてるよ。これは一方通行だからお互い使用する必要があるから気をつけてね。
「それと解除条件は言葉を発すること。それとボクたちの間のパスを利用してるから他の人とは基本出来ないから注意してね」
他の人と利用する場合はテレパシーを切るたびにパスをつなぐ必要があるのだそうで実用的とは言えないのだそうだ。
そうして悠真は限定的であるがここに来てやっと魔法を覚えることができたのだった。
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