第3話
「なんか新しいの出てるの?」
横に並んで何気なく訊いたら、ウリさんはビクッと肩を跳ねあげた。
本気で驚かせたようでこっちこそ驚いて、「ごめん、熱心に見てたから」と釈明すると、ウリさんは「あ、うん」とあいまいな返事をして、再び商品棚を上目で見つめ始めた。
僕はそのとき「女子はラーメン買うのも恥ずかしいのかな」などと考えて、「カップ麺にする?」とたずねた。気を利かせたつもりだったのだ。
果たしてウリさんは、頷いた。
少々ためらっている様子はあったけど、僕の友だちが絶賛していたラーメンを勧めたら、「それにする」とあっさり乗ってきた。だから僕はすぐさま会計をすませて、店の外でレジ袋ごとウリさんに差し出したのだ。
しかしそのとき、予想外の事件が起きた。
ウリさんが袋を受けとらないのである。
「……ごめん、やっぱりいい」
ウリさんは両手を揉み合わせながら、うつむき加減でつぶやいた。申し訳なさそうなのは一目で伝わったが、僕は当然にうろたえる。
「なんで? あ、もしかして別のやつがよかった?」
「ううん、そうじゃなくて。えっと……」
言い淀んだウリさんは、次の瞬間ガバッと頭を下げた。
「ごめん。うち、カップ麺食べちゃダメな家なんだ」
「え?」
聞き返すと、ウリさんはそろりと顔をあげ、そわそわと前髪や頬を触って、
「カップ麺っていうか、インスタントとか、全般禁止なの。――引くよね。大丈夫。耐性あるから。えーと、だからごめん。もらってもこれ、うちで食べられなくて。ごめん。せっかく気をつかってもらったのに。先に言えばよかったよね。ごめんね。本当にごめん」
ごめんなさい、と、通算何回目かも分からない謝罪の言葉をくり返して、ウリさんはそのまま身をひるがえして帰ってしまった。全力疾走だった。
僕はこの展開の当然の結果として、いっときポカンとしていた。そしてちっともそんな状況ではないのに、フラれたときってこんな気分なのかな、とか、自分でもよく分からないことを考えていた。
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