第2話
僕がウリさんと初めて口を利いたのは、恐ろしいことに十二月に入ってからのことだった。四月からずっと同じクラスにいたというのに、だ。
これはひとえに僕の人間関係が「狭く深く」であるからに他ならないのだけど、彼女は彼女で僕以上に狭く、それでいてごく浅く人と付き合うタイプだったから、お互いが空気になってしまうのも当然だった。
そんな彼女と、唐突にして偶然に接点ができた。模試の日、僕が消しゴムを忘れるという凡ミスを犯したのだ。そして友だちと「やべー詰んだ」と騒いでいたところで、通りすがりのウリさんが申し出てくれたのである。
「消しゴム? あたし二つ持ってるよ。堀君、一個使う?」
その瞬間、僕は神さまって本当にいるんだなあと実感した。それだけでなく、「解答用紙を書き直せるって素晴らしい」なんて馬鹿みたいな悟りを開いたり、できるだけ消しゴムを消耗しないように慎重に解答を書いたり――つまるところ、僕はウリさんの消しゴムを、とてもありがたく使わせてもらったのである。
そしてその日の放課後、今度は僕の方から声をかけた。
「瓜野さん、消しゴムありがとう。帰り、時間ある? お礼したい」
模試の残り時間で用意していた言葉を、僕は少々走りぎみに口にした。異性と気安く会話する、ということに、僕は慣れていないのだ。
ウリさんは、はじめは大きく目を見開いて、「いいよいいよ」と手を振って遠慮した。
だけど僕は本当に助かったから、こっちから頼みこむ勢いでコンビニに誘った。コンビニスイーツくらいなら、もらう方にも負担感がないかなと考えたのだ。
しかしいざコンビニに入ったウリさんは、甘いものに興味を示さなかった。
僕がホットドリンクを選んでいる間、彼女はなぜかカップ麺の売り場に佇んでいたのだ。
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