四日目

「おい」


 おっと、今日は位置取りした直後に声がかかった。緊急事案か? なに、旨い肉だと。どうやら心身ともに元気になったようだ。しかし、旨い肉か。これはまたパシリ魂が燃える要望だ。まず肉の種類、そして調理法。それぞれを厳選してゴロツキの好みに仕上げるという合せ技が必要だ。これは俺がこれまで築き上げたパシリ道が試されていると言える。俺が自ら考え、種類と調理法を決断するのだ。よし、やる事は明確。一秒でも早く動き出せ。


 着いた。ここがベビ沼。名前の通りヘビの魔物がわんさかいる場所だ。ヘビ肉はかなり旨いと聞く。ここで狙うは一番大きなヘビ。どんな獲物も一番旨い部位はだいたい小さい。そこそこ大きい獲物でなくては試作すらできないだろう。今回、できれば巨大なヘビが望ましい。あと、できれば毒ヘビが有り難い。内臓に物凄い毒を持つ魚が物凄く旨いと酒場で聞いたことがある。毒と言えばヘビ。ならばヘビはその魚以上に旨いに違いない。

 俺は来る途中に仕留めたバカでかいイノシシを沼に放り込む。数秒後、沼の表面が盛り上がると見上げるほどの巨大ヘビが姿を現す。頭の周りにやたらと派手な装飾があり、ヘビのくせにゴツゴツした鱗まである。よしコイツを頂こう。俺は水面の小ヘビの顔を踏んづけながら巨大ヘビに近づく。巨大ヘビは威嚇しながら緑の液体を飛ばしてくる。多分あれが毒なんだろう。うお、何だこれは。臭いを嗅ぐだけで視界が揺らぐ。凄い毒だ。これはさぞかし旨いに違いない。俺はスムージーの余りを飲む。健康に良いものを飲むことで、デトックスという毒出しができると聞いたことがある。毒出しが必要なのはまさに今の俺だ。


 スムージーのデトックスは効き目が抜群たった。毒が腕にかかって肉が溶け出しだが、それも直ぐに再生していく。それも若々しい肉体にだ。毒ヘビに近づくに連れて体のあちこちから煙が出る。体が毒で溶け出すそばから再生されているようだ。体がどんどん軽くなる。若かりし日々を思い出す。あの頃から俺のパシリ道は始まったんだったな。そんな感慨に耽っているうちに目の前には巨大ヘビ。高い塔の様に反り上がって威嚇している。よし、では早速頂くとしよう。ヘビの肉を傷めないように一撃で仕留める。俺は鱗を足場に塔を駆け上がる。駆け上がりながら手の指先で表面をなぞり心臓の位置を探る。あった、ここだ。そこに手刀を一突き。ヘビ沼に甲高い絶叫が響き渡り、無数のヘビを吹き飛ばしながら巨大ヘビは倒れた。



 今、冒険者ギルドの解体場がお祭り騒ぎとなっている。俺が持ち込んだ毒ヘビがバシリスクという名で、あのヘビ沼のヌシだったようだ。このギルドで買った収納袋からコイツを出したら、いつもの口の悪いオッサンが腰を抜かして動けなくなっていた。それから既に10分以上が経過している。おい、騒いでないで早く解体してくれ。なに、素材? そんな物どうとでもしてくれ。俺はとにかく一秒でも早く一番旨い肉を貰いたいだけだ。


 解体が進められる間、俺は別室で冒険者ギルド長やら、商人ギルド長やら、街の役人やらの話につきあわされる。そして、積み上げられる金貨の山。邪魔だ。解体作業が見えん。ん? 家を買う? 俺がか? まあ、この金貨が減るなら何でもいい。交換してくれ。


 ヘビを持ち込んで35分、漸く一番旨いと言われる肉片を渡される。肉は鮮度が命。直ぐにギルドを出て街一番の飯屋に持ち込む。俺が肉とギルト発行の証明書を出すと、厨房内が大歓声に包まれる。すぐさま天井まで届きそうな長い帽子を被った男が現れ、俺の要望を聞くと広げた紙に筆ですらすらと何やら書いていく。うん、読めん。下手な字だ。この男で大丈夫なのか。心配になる。


 俺の心配をよそに長帽子の男は流れるような包丁捌きで肉を大小様々な大きさに切り分けていく。いくつもの料理が同時進行で作られ、次々と出来上がっていく。俺はそれらを一口ずつ味見する。よし、全て旨い肉だ。


 一人分だけを袋にしまい直ぐに店を出る。ん、残り? 好きなようにしてくれ。俺はいらん。おい、何だこれは。伝説のドワーフが打った包丁? 俺は伝説には程遠い普通のパシリだそ。それでもいいなら貰っておくが。そんな事より早く出発させてくれ。


 酒場に到着する。ゴロツキは文句を言わずに俺の出した全ての皿に手を付ける。後ろからは表情が見えないが、旨そうに食っている雰囲気が伝わってくる。ふむ、この感じ。今日はこれで終わりだな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る