三日目

 今日の位置取りはパーフェクトだ。誰の邪魔にもならず、ゴロツキの声がよく聞こえる場所を確保できた。きっと素晴らしいパシリ日となるな違いない。


「おい」


 ゴロツキから声がかかる。ゴロツキがこちらを見る前にその場所に立つ。今日は調子がいい。なんでも直ぐに達成できる気がする。早くパシって欲しい。希望のモノを何でも言ってくれ。


 ほう、今日はそうきたか。今日の一番目は焼き立てパン。このゴロツキが好きなパンは酒のツマミになるパンだが、この焼き立てパンとなるとそれが変わる。焼き立てが食いたい時は腹が減っている時だ。そして、心が少し寂しい時。たから俺は既にパン屋へと走っている。この時間帯は焼き立てがなかなか並ばない。だから一秒でも早くパン屋に着き、焼き上がりを待つのだ。


 1分かからずにパン屋に到着。だが、店内がやや騒がしい。客が随分並んでいる。何も買わずに店を出る客もチラホラ見かける。俺は構わず中に入る。そして愕然と膝を付く。パンが一つもない。何故だ? 並んでいる客に聞く。どうやらパン窯が壊れて火が起こせないらしい。火か。なら、おい、トカゲよ、お前、いけるんじゃないか? トカゲは俺を離れてパン窯に向かう。途端に工房から歓声が上がる。15分後、焼き立てパンが棚に並ぶ。客がどんどん捌かれ俺も望む焼き立てパンを持ってレジに並ぶ。ん? 店員が何やら袋に入れたようだ。礼? そんなもの要らんから、早く商品をくれ。


 急ぎ酒場に戻り焼き立てパンを机に並べる。一つまた一つとゴロツキの胃袋に収まる様子を確認しつつ位置取りを行う。うむ、またいい位置取りができた。今日はかなり調子がいいようだ。


「おい」


 俺の心の隙を突かんばかりのタイミングで声がかかる。いかん、調子がいいからと自分の仕事に悦に入っては本末転倒だ。グッと気を引き締めゴロツキの横に立つ。


 なに、今度はスムージーだと? 酒はどうした。酒場で酒を注文せずに持ち込みだけで飲み食いは流石にマズイ。俺は立ち去るついでに店員に金貨一枚を握らす。店員は軽く目で頷くとそれを懐に入れる。俺は野菜市場へと急ぐ。


 野菜市場ではこの街近辺で採れる野菜、果物の他にも近隣の街からもかなりの種類が運ばれてくる。単にスムージーと言えど、その材料の組み合わせは無限大。俺はここ最近のゴロツキの食生活、体調などを思い返し、数十種類の材料を選ぶ。ん? なんだこの変な実は。なに? 万能薬? じゃ、それもくれ。そしてジュース屋に持ち込んで液状にする。そうだ、この前の胃腸薬も入れておこう。胃腸が良くなれば吸収も良くなる筈だ。ん? なんだ、ジュース屋の奥から白髪の爺さんが出てきた。なに、このスムージーを少し分けて欲しい? まあ、材料を丸ごと持ち込んだ関係で量はかなり余る。少しと言わず半分持って行ってくれ。だが早く商品をくれ。それが条件だ。爺さんは小躍りして奥に引っ込む。店員が頭を下げながらスムージーを渡してくる。おや、スムージー以外にも何か入ってるな。まあ、いい、ゴロツキの所望のスムージーがあればそれでいい。


 酒場に戻るとゴロツキはまだパンを食っていた。置いていった5個のパンの最期の1個に手を付けたところだ。危なかった。これからはもっと時間に余裕を持とう。


 ゴロツキはスムージーとパンとで腹を満たすと、酒場を後にする。なんだ、今日はもう終わりなのか。調子がいい日に限ってこういう事があるものだ。だが、今日はこれで良しとしよう。


 パン屋とジュース屋で貰った物を確認する。「大地殻のペンダント」に「清泉流の指輪」、前者は体力、後者は知力を底上げするアイテムらしい。ふむ、俺のパシリに磨きをかけるアイテムだな。明日からが楽しみになってきた。


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