第19話 サテュロス、乗っ取りを企む


ここはロストアースにある集落の一つ。

サテュロスたちの今後を左右するある重要な会議が行われていた。


「で、噂の新しい街はどうだったギー?」


「恐ろしいほど大きくて頑丈な壁に囲まれた街だったギー」


「それだと力攻めは出来ないギー」


「それはおススメしないギー。あの街にはミノタウロスがゴロゴロいるギー」


「でもそのミノタウロスさえどうにかすれば後は問題ないギー」


「あとは人間と獣人だけなんだろギー?」


「そうだギー」


「よし。じゃあまずは移住する振りをして街の中へ入り込み、人間たちを始末するギー。それでミノタウロスたちも目が覚めるギー」


「あとはミノタウロスを従えて、我々は新たな街を手に入れるギー」


そう。ここサテュロスの集落ではネールスロース乗っ取り計画が話し合われていた。

彼らはミノタウロスの紹介で街を見学したのだが、その素晴らしさに街へ興味を惹かれた。

しかし、上に立って指図しているのは寝てばかりいる人間だという。

そこでサテュロスたちはそんな人間の下に付かず、自分たちが街を乗っ取り支配者となる、それが彼らの計画だった。

簡単に街を見て回ったところミノタウロス以外は人間と獣人ばかりで武力的に全く脅威にならない。

あとは計画を実行へ移すだけ。そんな段階へ来ていた。


そして数日後。いよいよ計画を実施する日が来た。

サテュロスたち29名は全員でネールスロースへ向かっていた。


「あれが例の街かギー」

「なかなか立派な壁が立ってるギー」


これから手に入るであろう街を見て興奮の声を上げるサテュロスたち。

しかし、前回ネールスロースを見学した長であるヤーギは人知れず困惑していた。


おかしいギー。

前回来た時はこんな大きな壁はなかったばずだギー。

もしかしたら街が大きくなってるかもしれないギー。

でもそれならそれで乗っ取った後の旨味は…


そんなことを思いながらもネールスロースの外壁へ辿り着く。


「ネールスロースに一体何の用があるんだゾ?」


そこには3m近い見るからに屈強そうな象人族の門番が声を掛けてくる。


「お、おい。長の話と違うギー」

「そ、そうだギー」

「ミノタウロスじゃないギー」

「ミノタウロスと同じぐらい強そうに見えるギー」


「何ヒソヒソ話してるゾ!」


「い、いや何もないんだギー。我々はミノタウロスの誘いに応じて移住しに来たサテュロス族だギー」


「サテュロス族か!話は聞いているゾ。ちょっと待ってろゾ!今すぐ隊長を呼んでくるんだゾ」


なんとか誤魔化せたことに胸を撫でおろしたサテュロスたちだったが、次に目に入った後継に思わず飛び上がる


「新しい移住者候補ってのは彼らかゾ?」


先程までの門番が小さいと思える大きな象人族が現れたからだ。


「そ、そうだギー」


「ならついてくるゾ」


そう言って踵を返して街の中へ戻っていくゾオンに続いて街の中へ入っていく。


「長、これ本当に大丈夫かギー?」

「やばいんじゃないかギー?」

「あれには勝てないギー」

「な、なんとかなるギー」


外壁の中を歩いていると、多くの獣人やミノタウロス族、象人族たちが楽しそうに農作業に勤しんでいる様子が見て取れた。


「あんな立派な畑に果樹園…」

「長の話だと家しかないんじゃなかったのかギー」


動揺を隠しきれないままゾオンについて行き屋敷に辿り着いた。


「確認したら、ネルス様は今裏庭にいるらしいんだゾ。」


そう言って裏庭に向かうゾオンに連れられるままついていくと裏庭に辿り着く前に訓練所の前を通りかかった。


「ハーハッハッハ。そんな攻撃では我に傷一つつけられんのじゃ」


「くっ本当にバケモンだな!くっそー。おいヒョウガ!まだやれるか?」


「もちろんだ!一発入れるまで諦められっかよ」


そこではただの人間だと思っていた女と男、そして獣人の男の3人が目にも止まらぬ速さで戦闘している姿が目に入った。

「あ、あれは一体…?」


「あれはいつもの戦闘訓練だゾ。」


「いつもの…?」


「そうだゾ。今日は非番のヒョウガも入ってるが、奥様とリューク様は毎日の様にここで戦ってるゾ」


「お、奥様とは…?」


サテュロスたちはここで自分たちが大きな間違いをしているのではないかということに気付いた。

一番弱いと考え、人質にと考えていた人間たちが一番強いのではないか?

もしかするとミノタウロスも負けて彼らの下についているのだとしたら…


「ネルス様の奥様でこの街でネルス様と並んで最強のお方だゾ」


「あんな人間の女が最強…?」


「ハーハッハッハ!なんじゃ?また新しい住人か?我は人間ではないのじゃ!爆炎龍フランメとは我のことなのじゃ!!」


「ば、爆炎龍…?は、はは。まさかそんな」


驚愕の事実を突き付けられ完全に思考が麻痺してしまうサテュロスたち。

しかし、魔物である本能が目の前にいる存在が超常の存在であることをビシバシと訴えてくる。


「「「「「この度は申し訳ありませんでしたー!!」」」」」







「で、これは一体どういう状況なんだ?」


サテュロスたちが移住しにきたと連絡を受け、ネルスなりに急いでやってきたのだが、目の前ではサテュロスたちが土下座しており全く状況が掴めなかった。


「なんだか移住の振りをして、ネルス様たちを人質にとって街を乗っ取るつもりだったらしいんだゾ」


「俺たちが人質?フッなかなか面白いことを考える奴らだな。で、なんで諦めたんだ?」


「なんでも奥様たちの訓練の様子を見て適わんと悟ったようだゾ」


「それはなんというか…ご愁傷様だな」


「旦那様!あ奴らは心を入れ替えて働くと言っておるから許してやってくれんか?」


「ん?もちろん大丈夫だぞ。なんの被害もないしな。」


「だそうじゃ!心を入れ替えて働くのじゃ!」


「「「「「ははー!ネルス様の為に働かせて頂きます!!」」」」」

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