第10話 寝る皇子、四龍に会いに行く

ネールスロース誕生の宴から10日後、街は驚異的な速度で発展していた。

もちろんネルスもその中心で指揮をとる…わけもなく、フレデリックの魔法で建てた屋敷にある庭でぐうたら昼寝をしていた。


そこに部下を連れたヒョウガがやってくる。

今ではヒョウガとギリーはネールスロース軍の隊長としてそれぞれ20名の部下を率いていた。


「やっぱりここにいたか!大将!良くそんなに寝てられるな!」


「んあー?おうヒョウガか。どうした?」


眠そうに目をこすりながらネルスが要件を聞く


「ガルガロッソ将軍のところに送ってた部下が戻ってきたんでな、報告に連れてきたぜ」


ヒョウガの部下は片道1週間かかる道のりをその足を活かし、驚異のわずか10日で往復し終えていた。


「おっそうか。ご苦労さん。ガルガロッソはなんか言ってたか?」


「まずは黒豹族なんて珍しい種族が来たってんですげえ驚いてやした。大将の伝言を伝えるとガルガロッソの兄貴は、涙を流して喜んでやした。ネルスの大将に永遠の忠誠を誓うと言ってやした。」


黒豹族にはヒョウガと同様にネルスを大将と慕い、少し荒々しい言葉遣いをするのが特徴の者が多かった。


「それと旧トランプ連合国の奴らは一人残さず皆殺しにすると言ってやしたね。」


「ふっ俺じゃなくて親父に誓ってるはずなんだがな。まぁ隣接する領にいる帝国の柱の一人が確実に味方なのはありがたい話だな。これで物の売り買いも困ることはないだろう。またお前たちにはガルガロッソのもとへ行ってもらうかもしれんが頼むぞ。」


「ガルガロッソの兄貴の所へなら喜んで。」


「ちなみにお前の名は?」


「コクガっす。これからもお願いしやす。」


ネルスはネールスロースの1番の課題は物資の売買が出来る相手を見つけることにあると考えていた。

北は旧トランプ連合国領や元アランソン公爵領など、暫定的な敵対領が広がっており、取り引きは不可能。

残るは帝都方面から東となるため、今回東を抑えられたのは街の成長戦略上大きかった。


「おい!ネルス起きてるか!面白い情報を聞いたぞ!ここから北に見える山に【四龍】のうち一体がいるらしぜ。見に行ってみようぜ」


「四龍か。山にいるなら【地聖龍エルデ】か?」


「それがどうも【爆炎龍フランメ】らしい」


【四龍】とは大自然の4元素≪火・水・風・地≫を司る4体のドラゴンの王を指し、天災として恐れられている。

その中でも【爆炎龍】は、かなり派手な戦闘の伝説が多く残る龍である。


「勝手に街を作ったとか言われていきなり襲い掛かられても困るから、挨拶がてら行ってみるか。」


「そうと決まれば早く行こうぜ!爺さんにも声かけてくる!」


その後30分ほどで着替えなどを済ましたネルスが屋敷の前へ向かうと、ニコニコしたリュークとフレデリック、ギリー、ヒョウガが待っていた。


「爺さんに声かけてたらこいつらも行きたいって言い始めてな!このメンバーなら何かあった時も大丈夫だろ」


「ネルス様だけずるいンモ。おいも爆炎龍は見てみたいンモ」


「俺はチラッと見たことあるがありゃ正真正銘の化け物だぜ?でもそんな化け物と大将がどうやり合うのか興味がある」


「いや、おれは討伐なんてめんどくさい事するつもりないからな?」


いつも通りネルスの魔法で空を飛び、爆炎龍がいるという山へ向かう


「こんな割と近い所に爆炎龍なんていて大丈夫だったのか?」


「ちょっかいかけなきゃ大丈夫だぜ?馬鹿みたいにちょっかいかけた奴は容赦なく消し炭にされてたがな。」


今まで爆炎龍なんて伝説に近い存在がいたにも関わらず大きな噂になっていなかったことに疑問を持ったネルスがヒョウガに問うと、事もなさげに答えるヒョウガ


「おい、それだとわざわざ声にかけに行くとまずいじゃねえか」


「大将とフレデリックのオジキが居ればなんとでもなるだろ」


ネルスも自身の力が桁外れであることは理解していたのでそのまま爆炎龍のもとへ向かう。


「おーあれだ!あそこで横になってるのがそうだ」


ヒョウガが指差した先には10mは軽く超えていそうな赤い龍が丸くなって寝そべっていた。


「すげえ気だな。ここまでビシバシ感じるぜ。」


「フォッフォッフォ。これは楽しめそうじゃのぅ。」


「着いて来なかったらよかったかもしれないンモ」


「刺激しない様に手を挙げとけよ」


≪我の眠りを妨げるのは誰じゃ≫


ズシリと重い声が辺りに響く


「いや、敵意はない。俺たちはあっちの平原に新しく街を作ったんでな、御近所さんに挨拶に来ただけだ。もし良かったら爆炎龍も住んでくれてかまわないぞ?」


≪街か…。面白そうな話じゃがそれ以上にお主の方が面白そうじゃな。まずはお主の力を試した後に考えるのじゃ≫


いきなり雰囲気を一変させた爆炎龍は周囲にいるだけで圧倒されそうな気を放つ。

ネルスとフレデリックは涼しい顔でいるがリュークとギリー、ヒョウガは青い顔をして耐えるのに精一杯といった感じだ


≪ほう、やはり耐えるか。そっちのジジイもユニーク持ちとは驚いたのじゃ。2人でかかってくるのじゃ。≫


爆炎龍はやる気満々といった感じで大きく羽を広げ顔には獰猛な笑顔を浮かべネルス達を見下ろす。


「はぁー。ギリーといいまともに会話で済む奴はいないのか。」


ネルスは深くため息を吐き、やれやれと首を振ったあとに手を前にかざす


「勘違いするなよ?俺一人で十分だ。頭が高いぞ!俺を誰だと思っている。」


重力魔法があたり一面を支配する。

空気が軋む音とともに姿勢を保つ事が出来ずに顔を歪めながら地に這いつくばる爆炎龍。


≪グハッ、我が耐えることすら出来ぬじゃと!?≫


「まだ口をきく余裕があるか。流石は爆炎龍だな。どうする?俺たちと話をする気になったか?」


「もちろん!もちろんじゃ!一つ願いは聞いてほしいがお主らの街に住ませてほしいのじゃ!だからもう解放してくれ!」


「お前なら本気を出せばあっさり抜け出せそうな気もするけどな。わかった。で、願いってのはなんだ?」


ネルスが魔法を解いた瞬間爆炎龍の体を光が包み、みるみる収束していく。

そしてそこには妖艶な20歳くらいの真っ赤な髪の美女が同じく赤いドレスを着て立っていた。

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