第5話 寝る皇子、獣人開放作戦を展開する


深夜0時を目前にスペード領は繁華街を除きひっそりと静まりかえっていた。

スペード領の獣人解放を目指すリュークとフレデリック、チュータロウの3人は既に街の中へ入り込んでいた。


「やっぱり空からの警備はザルだったな。あとは娼館にいる獣人たちを救うだけだ」


「なんなんですかあの魔法は!まさか空を飛ぶだなんて!」


「フォッフォッフォ。若のとっておきじゃよ。今後も共に過ごせば何度も目にすることになるだろうのぅ。ところでもう場所のあたりはついたかのぅ?」


「ああばっちりだ。獣人たちの気配は村でばっちり覚えたからな。あの建物に集められてるな。幸い他の建物にはいなさそうだぜ。」


「ではあの建物を制圧すれば終わりじゃのぅ。」


チュータロウはあまりにも簡単に話す2人を見て何も言えず唖然としていた。


これが大陸最強の帝国の人間。

彼らが仲間だと思うと本当に心強い。


もはやチュータロウは作成の成功を疑ってはいなかった

街へ来るまでのネルスの出鱈目な魔法に加え、あっという間に獣人たちがいる建物を特定したリューク。

彼らがとんでもない存在であることはとっくに理解していた。


「どうやら一階に少しと最上階の三階に5人程度の人間がいるみたいだ。

多分三階は事務所なんだろうな。獣人の多くは二階にいるが人間の気配もするから恐らく客だろうな。」


「騒がれたら鬱陶しいから上と下から挟み撃ちにするかのぅ。」


「じゃあ三階は爺さんに頼むな。俺は一階の2人を消して、中で協力者を見つけて二階に移るわ!行くぞ!チュータロウ!」


リュークとフードを目深に被ったチュータロウはまるで娼館に入る客の様に堂々と娼館へと入店する


「いらっしゃいませ。お2人様ですか?ちょうど今はいいのが空いてますよ」


ゲスな笑みを浮かべながら接客してくる店員を見て、働かされている同胞のことを思うと自然と拳に力の入るチュータロウ。そして相手に殴りかかろうとしたその時


「死ねよ。クズが」


「へっ?」


リュークが風魔法の風刃を一閃し、チュータロウが拳を振り上げたときには間抜けな声を出して首がズレ落ちるところだった


「なんだ?なんかあったの…ヒッ」


「お前も死んどけ」


リュークは一瞥もくれることもなく様子を見にきた男の首を刎ねる。

余りにも早い展開に状況を飲み込めずチュータロウは呆然と立ち尽くす。


「なに間抜けな顔してんだ!行くぞ、チュータロウ」


「は、はい」


2人は2人目の男が出てきた扉を抜け、奥の部屋へと進む。

そこは女の子たちの待機室になっているようだった。


「あ、あなたは!キャッ」


「助けにきた!まだ敵に気付かれたくない静かにしてくれ!」


リュークに口を抑えられた女性はブンブンと首を縦に振っている。

兎耳がついていることから兎人族のようだ。


「久しぶりだな、エミリー!ようやく助けに来たぞ!」


「チュ、チュータロウさん?私たちやっと、やっと助かるの…?」


「ああ助かるぞ。こちらは帝国宰相の御子息のリューク様だ。クローバー家の方は第四皇子のネルス様が向かってる。」


「帝国のお方だったんですね。みんなに伝えてきます。」


「待ってくれ。ここに何人いるんだ?」


「28人です。何人かは既に…」


「…そうか。遅くなって済まないな。28人全員揃ってここを出よう。」


その後はエミリーの協力もあり話は早かった。

一階にいた16人の女性を助け出し、2階にいる残り12名のもとへ向かう。

しかし、2階へ上がって目に入ってきたのは予想外の光景だった。






「フォッフォッフォ。遅かったのぅ。2階はもう済んでしまったぞ」


そこではフレデリックが助け出した12人の女性たちと会話を和やかに楽しんでいた


「みんな無事?」


エミリーが心配そうに声をかける。


「あら、エミリー。こちらのオジ様に助けられてみんな無事よ。ここにいた奴らはあっという間にオジ様が倒しちゃった。」


エミリーは思ってたのと違う反応が返ってきて少し困惑したものの、皆が無事ならそれでいいかと気持ちを切り替える。


「なんだか釈然としねぇがここを出てネルスとの合流地点に向かうか」


「そうじゃの。今頃若も終わっとるじゃろ」


リュークたちは2つのグループに分かれ、人通りのいない道を選び街の外へ脱出していった。

その際、街の門を守る兵士たちが皆殺しにされていたのはまた別の話

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