第3話 寝る皇子、ロストアースへ向かう
ネルスにロストアースの領主就任令が出された翌日、件のネルスは空の上にいた。
「今日中には着いてゆっくり寝れそうだな」
「フォッフォッフォ。さすがは若の魔法ですな。まさか空を飛んで辺境へ向かえるとは」
隣で楽しそうに笑う60代後半の老人は名をフレデリックといい、ネルスの傅役で覇王帝の時代に軍部のトップである元帥の座にいた男。
なぜそれ程の男がネルスの傅役をやっているのかと言うと、一言で言えば覇王帝の鶴の一言、これに尽きる。
元帥とは東西南北に配置された将軍たちの上に君臨し、軍全体の管轄と普段は皇帝のそばで最強の盾として護衛の役目も果たす。
そして覇王帝の無二の親友と呼べる存在でもあった。
「いや、流石におれの魔法だけでこれだけのスピードは出んぞ。リュークの風魔法のお陰だな。しかしお前は本当についてきてよかったのか?」
「ああ、もちろんだぜ。ネルスといる方が帝都にいるより面白そうだからな」
ニカッと豪快に笑う金髪碧眼で短髪の彼はネルスを呼び捨てで呼ぶことからわかる通り、ネルスと同じく皇位継承権を持つ皇族である。
皇帝の弟である宰相の次男、つまりネルスとは従兄弟の関係にあたる。
同い年の彼らは幼い時から共に育ってきた。
そのため本当の兄弟のように仲が良く、ネルスがサボっている横にはいつもリュークがいる。それが帝都での当たり前の光景だった。
リュークは風・水魔法に俊足、気配察知などといったスキルを持っており、一度リュークを見失うと誰も追いつけない。
そんなリュークとともにいたこともあり、幼少期からネルスたちにとって大人たちの見えないところでサボるなんてことは容易いことだった。
そんな三人でロストアースへと向かっていた。
「まずは追加で与えられたアズバーン地方へ行ってみるか。あそこにはかなりの数の獣人たちがいるはずだ。それに旧トランプ連合国の連中が動く前にこちらで抑え、新たな街の住人とする」
「なんだよ寝る皇子、やけにやる気じゃねえか」
「フォッフォッフォ。どうせさっさと民を集めて政を丸投げしようとでも考えているのでしょう。アズバーン地方の獣人なんて恩を売るには最適ですからな。」
「流石は爺だ。よくわかってるな。俺は君臨すれども統治せずを目指す。面倒なことは有能な部下たちに任せて自然に囲まれた地で昼寝でもするさ。そのためにまずは人を集める」
「カッカッカ。相変わらずだなネルスは。まぁそういうとこが面白いんだけどな」
「しかし旧トランプ連合国の連中は馬鹿ですな。あれ程表立って化物一族に物申すとは。」
「おい、化物一族ってのはまさか皇族のことじゃないだろうな?」
「フォッフォッフォ。4人もユニーク持ちがいるなぞ聞いたことありませんぞ」
「4人…な。」
現在帝国には5人のユニークスキル持ちがいる。
現皇帝とその正妻、そしてネルスの兄である第一皇子ユリウス…
「3代続けてユニークって本当化物だよな。」
「まぁユニーク持ちの両親から産まれたんだ。子どももユニーク持ちで不思議ではないだろう。」
「ユリウス兄も化物だからな〜」
「しかし、1番の化物はここに…」
「そういう爺こそ周辺国に最強の矛であり盾として恐れられた【矛盾の将】がよく言えたもんだな。」
「フォッフォッフォ。なんのことですかな?今はしがない寝る皇子の傅役ですがな。」
「奴らはユニークを相手にすることの恐ろしさを理解していない。なまじ矛を交える前に降伏してしまったことで恐ろしさを感じることが出来なかったんだろう。アランソン家に関しては若いが故の無知だな。」
「今頃アランソン家の先代は顔を真っ青にしておるでしょうな。過去に栄華を誇った公爵家が愚かな当主が怖いもの知らずにも皇家へ喧嘩を売った挙句、侯爵家へ降爵ですからな。」
「カッカ。まぁこれでいくら名家でも容赦なく罰せられると改めて気づくだろうよ。」
「陛下はこれまで安定化を進めるために小さな問題は見逃しとったからのぅ。勝手に陛下が穏和で物分かりのよい扱いやすい人物などと勘違いしよった者どもが馬鹿なだけじゃ。」
「あの親父が温和ねぇ。いい性格してると思うけどな。今回のも上手く親父が裏で操作して暴発に持っていったようなもんだ。」
3人で話に盛り上がっているうちに、目的地のアズバーン地方へと到着した。
「あそこに村?があるな。行ってみるか。」
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