スマホ脳
@satotumaru
第1話 スマホ脳
うるさいアラーム音で目が覚めた。
僕は起きるとき不機嫌になっているタイプだ。うつろうつろしながら枕元に転がっていたスマホを手に取り、真っ暗な画面をぽこぽこタッチする。しかしアラームは止まらない。
デンデン・デデデデ・デデデデーン!! と鳴り響く。イライラながら画面を見ると、いくらタップしても何も反応しない。電源が切れているようだ。しかし、アラームは確かに鳴っている。脳内に響き渡るようにだ。
「ううう」
うめきながら耳を塞ぐように、枕へ顔を埋める。すると、まぶたの裏、いや、脳内にスマホの画面のイメージが映しだされた。アラームを止めるというボタンがある。僕はそのボタンをタッチするイメージをした。そうすると、脳内に響き渡っていたアラームは止まった。
寝ぼけながらも昨夜のことを思い出してみた。期末テストの勉強をしようと思ったのだが、やる気が起きず、ベッドの上で寝転びながらスマホを触っていた。しかし、スマホをおでこに落としてしまい、当たりどころが悪かったのか、そのまま気絶するように眠ってしてしまったのだった。もちろん、スマホは充電できていなかったので、バッテリーが切れていた。
布団から出て、学校に行く準備をしている最中にようやく異変に気づいた。通知オンが頭の中で鳴ったのだ。そして目を閉じてみると、やはり、スマホの画面がはっきりと見えるではないか。通知は無視してそのままインターネットブラウザを立ち上げる。検索バーに「スマホ 脳」と文字を入力してみた。検索結果が表示される。そのままあらゆるサイトに移ることもできた。自由自在だ。きっと、スマホを頭に落としたせいだ。誰かとぶつかった際に魂が入れ替わったりするのだ。頭の上に落とした衝撃で、スマホの機能が頭に入ってしまっても不思議ではない。
そんなことを考えていると、「あんた、時間は大丈夫なのかい?」とオカンに聞かれたのにハッとし、慌てて学校へと向かった。
学校に着き、教科書をカバンから机に移していると、横からスケオが声をかけてきた。
「よおヤスオ! 今日授業終わったらAPEXやるぞ!」
「いや、来週からテストなんだから無理だろ…」
しかし、ふと思った。今の俺ならテストなんて余裕なのではないだろうか。
「何ニヤニヤしてるんだ?」
「そうだスケオ、何か問題出してみてくれ。なんでも答えてやるよ」
「え」
しばらく考え込んだ後、スケオが考えついた。
「じゃあ、日本で2番目に長い川は?」
僕は脳内でサクッと検索した。ふむふむ、なるほどなるほど。
「ズバリ、利根川ですね!」
「……なかなかやるな」
これならば暗記系のテストは余裕で満点を取れそうだ。数学とかもやりようによっては楽になるぞ。
「ふっふっふ、スケオくん、今夜はプラチナになるまで眠れないぞ」
2週間後、テストがかえってきた。あまり勉強しなかったが、ほとんどの科目が満点だった。歴史や科学はググれば答えが出てくるし、英語もGoogle翻訳を使えば簡単だった。数学に関しては、事前に教科書や問題集の内容を写真などでツイッターにアップしておいて、それを見ながらテストを受けた。脳内スマホでは写真を撮ることはできないため、オカンのスマホで写真を撮り、ツイッターにアップした。手間はかかったものの、普段よりもはるかに高い点数を取れた。いきなり点数が跳ね上がったため、先生たちはとても驚いていた。
年が明け、ついに大学受験の日がやってきた。あれから成績はなり上がっていたため、ある程度ランクの高い大学を受けることにした。もちろん、スマホ脳さえあれば余裕で合格できる大学だ。
受験会場に入った。会場にいる受講生のほぼ全員が何かしらの参考書を開いていたが、僕は自信満々の表情で椅子上にふんぞり返っていた。しばらくし、受験開始時間になると、周りは静かになった。すると部屋に監視役の人が入ってきた。体育会系っぽい男の先生だった。
いよいよだ。
「では、始めてください」
問題用紙を表に向け、問題を読む。そして目を閉じ、脳内で問題文を入力し検索した。
しかし、なかなか検索結果が表示されない。再読み込みしてもなかなか画面がかわらない。
「くっ……」
よくみると電波のアンテナが0本になったり1本になったり、とても不安定なようだった。
「(よりによってこんな時にいいい……!)」
時間は無慈悲にどんどん過ぎていく。このままでは一問も問題を解くことができない。どうしようもなく、頭を抱えた。すると、アンテナが微妙にいい反応を示した! 頭の角度を変えるとぎりぎり電波を拾うではないか! 僕は必死に電波が安定するところを探した。円を書くように頭を動かす、あっ、ここだ! この角度! ここなら安定する! ちょっと体制がしんどいがとりあえず答えを検索! キタキタキタあああ!!!! 俺の時代が来た! いや、戻ってきた!! そんなことを思っていると、ふと誰かに肩をたたかれた。驚いて目を開けると、監視の人が怪しむ目でこちらを見下ろしていた。
「君、ペンを置いて、部屋を出てもらおうか」
……こうして、僕の大学受験は終わった。
あれから、僕は大学に行かず、とりあえず予備校に通っている。来年、きちんとした実力で受けるつもりだ。実を言うと、今ではスマホ脳は使えなくなってしまったのだ。もっと電波の強いキャリアに乗り変えようと、解約すると、スマホ脳は使えなくなってしまったのだ。ああ、いつか人類の技術が発展したとき、またスマホを脳に埋め込めるといいなあ。
スマホ脳 @satotumaru
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