始めは処女の如くにして
第4話 「兵は多きを益ありとするに非ざるなり。惟だ武進すること無く、力を併せて敵を料らば、以て人を取るに足らんのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。」行軍篇第九・九
第4話 「兵は多きを益ありとするに非ざるなり。惟だ武進すること無く、力を併せて敵を料らば、以て人を取るに足らんのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。」行軍篇第九・九
・「兵は多きを益ありとするに非ざるなり。惟だ武進すること無く、力を併せて敵を料らば、以て人を取るに足らんのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。」行軍篇第九・九~敵を侮ると戦略に嵌る~
さて、十分に手駒は揃った。僕は全ての会話の録音を書き起こす作業をしていた。素人は良く会話の録音のデータを、そのまま弁護士に持ち込んだりするらしいが、弁護士は、それも有能な人程、極めて忙しい職業である。そんな物イチイチ全部は聞いてられない。だから、会話は全て文字に書き起こして、すぐに内容を確認できる様にしておかなければならない。又、事の次第を時系列に沿って記載した状況説明書も作製していた。弁護士の無料相談は1時間しか無い。だから、効率的に事実関係を説明できる様にしておかなければならないのだ。
更に、僕はかかりつけの心療内科を受診して、仕事のストレスに依る「不安」「不眠」「無気力」を訴えた。医師は「仕事のストレスに依る、抑うつ状態と診断します。職場に於かれてはご配慮下さい。」という内容の診断書を書いてくれた。
そうこうしている内に、内定をもらっている企業から「何時から出社出来るか?」との連絡があった。僕は、トシマ課長に電話して言った「お疲れ様です。先日、後2週間で転勤の辞令が出るとの事でしたので、丁度そのタイミングで、どうしても健康上の理由で、退職させて頂きたいのですが。」
「あーそうなんですか?何?健康上の理由って?」
「抑鬱状態という事で、診断書が出ましたので。それが、何がいかんかって言ったら、ストレスが一番いかんのですよ。」
「はい。」
「で、医師の診断で、今の状況を考えて、一旦仕事から離れなさいと言う事なので。」良かったですね、あなたの思惑通りでしょ?
「はい。」
「急で申し訳無いんですけど退職届けをお渡したいんですけど。」
「何時で退職予定なんですか?」
「退職は2週間前に申し出れば良いんですよね?」
「ああ、そうですね、じゃあ、切りの良い所で今月末までにしますか?」
「そうですね、切りが良い所で今月末で宜しいですか?」
「じゃあ、今月末で。」
「宜しくお願いします。」
「分かりました。」
「退職届けはどなた宛に書けば宜しいですか?」
「マツダ支社長ですね。」
「ああ、マツダ支社長様で宜しいですか?」
「殿(笑)」
「あ、殿ですね、すいません、殿はワープロで入ってるので大丈夫ですよ(笑)」どうでも良いだろそんなの。
「はい。そんなに悪いの?」
「悪いですね。ハッキリ言って、今回の件(次亜塩素酸混入事件)でストレスで、調子良かったんですよ事件が起こる迄は…」
「あの事件で?」
「それに転勤の辞令もありましたし、取り敢えず、ストレスは良くないから、一旦仕事から離れなさいと言う事なんですよ、医師の診断でね。ハッキリ言って、今の状況、僕は物凄いストレスなんで。」
「なるほど。分かりました。」
「退職届けは、本社宛に郵送したら宜しいですか?」
「松井支社長宛てに決まってるやないですか(笑)」
「え!?松井支社長宛てに直接送るんですか?」
「あ?退職届け?西日本支社御中で良いですわ。」そうだろ、何言ってんだよ。
「では、そう言う事で、申し訳無いですけど、宜しくお願い致します。」
「はい、分かりました。」
「失礼します、ありがとうございます。」
こうして、僕はトシマ課長の思惑通り会社を辞めてやった。
返す刀でフルタチーフにも電話した「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
「僕は今月末で退職することになりました。吉田チーフにもご挨拶しとこうと思いまして。」
「え?何で?」
「やっぱり、言ったら悪いけどかなりのストレスでしたよ。今の会社の状況はね。それで、ドクターストップです。」
「かかったんや。」
「トシマ課長にももう正式に申し出ました。で、僕ヘンミ役員にもトシマ課長にも約束してもらったんですけど、りんご荘は、労働環境はちょっとは改善したんですか?」
「微妙にしてる。」
「微妙じゃ困る。」
「……」
「りんご荘って15分残業せなアカンっていう、変な決まりが有ったやないですか?(午後)2時45分から3時まで。」
「2時45分で切るのが面倒やから、計算が面倒くさいから3時で切っとったけどな、その分付けたらエエやんって。」
「そんなもん、付けてもみなし残業代で一緒でしょ?」
「込み込みで入っとるからね。」
「それやったら、みんな早く帰らせてあげたら良いん違いますの?そんな無意味な残業させんでも。」
「それは本人が上がりたいと言えば、上がれば良いよ。」
「それは、みんな上がりたいと思いますよ。」
「それはこっちの考えもあるから。」
「僕はもう辞めるんですから、僕がどうこう言う問題では無いかも知れませんけどね。 僕は、現場にいた身として、NさんとかTさんとかの姿も見てるから、労働環境改善してもらいたいなと、今でも思ってるからね。そういう事もちゃんとしないと、今後困るんじゃないですか?って、それも余計なお世話なのかも知れませんけど、 会社も、そういうことはちゃんと整備して良くしておかないと、今後トラブルになりますよ(僕がトラブルにするつもりなんです)て言ってたですけどね。」
「まぁ、それは宜しいわ。」
「まぁ、でもそれはフルタチーフも考えなアカンと思いますよ。
で、トシマ課長ね、僕が事件や労働環境の問題、フルタチーフに言ったら、チーフは事件で手が回らないと言って(別に何もしてないのに)、キクチマネージャーに言ったら、キクチさんもできへんて言って、何故か分からないけど、トシマ課長の所へ話が行きましたやんか?」
「うん。」
「あれ、意味が分からなかったんですけど、トシマ課長と話ししてみたら、事件や労働環境の事なんて聴く気が無かったんですよね。
要は、僕に左遷を言い渡したかったんでしょ?辞めさせようと思って。」
「良く分からないけど、上が考えることは…」
「トシマ課長から、フルタチーフに、新田さんなり、聴き取りなり、指導なりでも有りましたか?無いでしょ?」
「何が?」
「何が?ってことは何も無かったんですよね?僕は逐一、報告書に全部書きましたでしょ?時系列に沿って事実関係を。」
「うん。」
「トシマ課長から、聴き取りとか指導するって言ったんやけど、連絡来てないんですね?今現在?」
「今現在できへんやん。」
「何故できない?」
「りんご荘ははコロナの感染対策で、誰も来れなくなってる。」
「イヤ、そんなの電話でも良いですやん。」
「それは確認はしてくれるん違うか?俺はそんな話聞いてないし。」
「イヤ、だから、聞いてないのがおかしいですやん。」
「話をしますよと言うのは、トシマ課長とカカケケ君との話であって、俺との話しじゃないやん。」
「だから、フルタチーフはキクチマネージャーに、マネージャーとチーフはトシマ課長に話を投げた訳でしょ?」
「そうや。」
「だから、僕はトシマ課長と話をして、課長は、今は僕の言い分しか分からないから、フルタチーフと、キクチマネージャーと、聴き取り調査するってその場では言ってはったんですけど。」
「だから、するんちゃうか?」
「するんちゃうか?って、あれからもう大部経ってますよ。」
「でも、俺にそれを言われたって、今、俺その話は初めて聞いたから。」
「イヤ、事実関係を確認してるだけで、僕は今、別にチーフを責めてる訳じゃないですよ。今の所、調査も何も全然してない訳ですね、トシマ課長からも何の連絡も無い訳ですね?今現在?」
「何も聞いてないよ。」
「聞いてないってことは、何もしてないって事ですね。
だから、結局、あの日トシマ課長がしたかったのは左遷の話しだけでしょ?」
「それは知らんよ。」
「今の所無いって事ですね?何も無いんですね?」
「うん。」
「そういう事ですね。それは良いですわ。それで、トシマ課長にも言いましたけどね、もう僕の考え方としては、これで事件の事に関しては筋は通しましたから、後から個人的に恨み言を言うのは無しにして下さい。もう何が有っても納得して下さいよ。恨み言は言いっこ無しですよ、お互い。」
「それは何も言うて行かへんよ、今までだって言ってない。」
「はい。(これから多分言いたくなるんじゃないかな?)これで、フィフティフィフティにして下さいよ、これで、僕としては筋は通したつもりなので。」
「ハイハイ、分かりました。」ホントに?
「はい、そういうご挨拶です。以上です、お世話になりました。」
「ハイ。」
僕はスマホを切った、勿論僕のスマホの会話は全て録音される様になっている。これで、僕が職場で不当な心理的ストレスに晒されている事と、モロコシ苑でのトシマ課長と話したことは、何一つ実行されていない証拠はできたと思った。
面倒臭いが、これらの会話も全て書き起こさなくてはならない。
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