第19話 極限の果てに
ロリが持つ武器とは思えない大鎌を振り回し、マルちゃんは私の攻撃を捌く。鎌は先端が大きい分振り回したときの遠心力が強く、それに耐えるための腕力を得るには相当な訓練が必要なはず。それだけの訓練をマルちゃんはしてきたというわけだ。
私はマルちゃんがロリだから、と少し舐めた目で見ていた自分を責める。彼女がSランクに手をかけられたのはそれだけの努力があったから。当たり前のことだ。それを私は偏見で信じようとしなかった。私のしたことは侮辱にも近いだろう。
「マルちゃん……あなたの武器に込めた想い、すごく伝わってくるッ!」
「私もです! クララさんの想いを感じるのであります!」
この試合に賭けた想いが込み上げる。同時に、いつまでもマルちゃんと戦っていたいと心から思う。私もマルちゃんも時間を忘れ、この試合を本気で楽しんでいた。
「刹那・オルドビスランスッ!!」
カメロケラスランスをマルへとぶん投げ、私もそれに続いて走る。
「させないのであります! サクル・シールド!」
マルちゃんは空気に指で円を描く。その部分が硬化し、カメロケラスランスを弾いた。直後に私が体一つでマルちゃんにタックルを決める。
「わぁぁぁっ! なのであります!」
倒れたマルちゃんの上に登り、私はマルちゃんの首に手をかける。
「私は七瀬を助けるッ! 負けるわけにはいかないんだァッ!!」
「かはッ!」
カメロケラスランスも失い、攻撃技を持たない私は全力でマルちゃんの首を絞める。
マルちゃんはHPをジワジワと減らしていく。マルちゃんも黙って見ているだけではなく、私の腕や腰を叩いて止めようともがくが、それでも一歩力及ばず、ついにマルちゃんは生き絶えた。
『K.O! 勝者、クララ選手!』
必殺技がない分、体格差を生かした勝ち方。私にしては泥臭い試合だった。私はマルちゃんの上から降りると、手を差し出す。
「マルちゃん、ごめんね。苦しかったでしょ? 立てる?」
「はいぃ、私は大丈夫なのであります!」
その手を握り、立ち上がるマルちゃん。そのやり取りを見た観客の大きな拍手が会場中を包み込んだ。
「すごい……」
「それだけ素敵な試合をしたってことでありますね!」
温かい会場に私も感動していると、パワーリングが発光し、そこからアーノンが飛び出す。
「クララ嬢! 奇襲でワタシを使うんじゃなかったでやんすか!?」
「あ、ごめん! やっぱり、この試合は私の手で勝ちたいって思ったんだ」
「そんなぁ、でやんす」
落ち込むアーノン。談笑する私たちのところへマルは近づき、ずっと気になっていた本題を切り出した。
「それで、クララさんのみんなに伝えたかったことってなんでありますか?」
「あ、そうだね。伝えよう」
私はコロッセオの周辺を見渡し、LIVE中継用のカメラを見つけると、そこへ駆け出し、語りかけた。
「私の親友が失踪しました」
「えっ……」
マルちゃんは顔色を変えて私のことを見つめる。
「最近失踪事件が多発していますが、それとは関係ないと思います。親友のお母さんによると、学校から帰ってこないそうです。信じてもらえるかわかりませんが……犯人は黒の財団。そして、私の親友はこの、シティ・モンスターズのゲーム内にいます」
私の声はLIVE中継でセントラル・シティの街中に広がっていく。それだけを信じて、私はカメラの前で頭を下げた。
「お願いです! 一緒に七瀬を探してくださいませんか!?」
その後も私は今までのことの詳細を詳しく話した。しかし、やはり突飛な話だったようで、誰もそれを信じてくれようとはしなかった。会場には笑い声のようなものも生まれ、悔しさと苛立ちを抑えるように私は奥歯を噛み締める。
全てを話し終え、アーノンの元に戻ると沈んだ表情で迎えられる。隣にいたマルちゃんも同情したように俯いていた。
「まあ、こうなることは予想できていたでやんすよね。ワチキたちが言っていることはふざけていることに間違いはないでやんすし、信じてもらえないのも仕方ないのでやんす。だから、クララ嬢が落ち込むことはないでやんすよ」
「今はそんな言葉聞きたくない」
私は静かにコロッセオの隅で仰向けになる。一体、何のためにAランクまで勝ち進んだのだろう。誰も協力してくれないのなら、初めから私たちだけで探していた方が余程効率的だった。
「結局、ギャラリーなんてみんな薄情なんだよなぁ」
流れる空の雲を見ていると、それが突然暗くなる。マルちゃんが私の顔を覗き込んできた。
「あの……クララさん。実は私のママとパパもいなくなってしまったんです。もしかして、ママとパパもこのゲームのどこかにいるのでありますか?」
……え?
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